あらすじ
船場に嫁いだ多加は頼りない夫を立ててよく働くが、夫は寄席道楽に耽って店を潰す。いっそ道楽を本業にという多加の勧めで場末の寄席を買った夫は、借財を残したまま妾宅で死亡する。多加のなりふりかまわぬ金儲けが始まった。金貸しの老婆に取入り、師匠たちの背中まで拭い、ライバルの寄席のお茶子頭を引抜く──。大阪商人のど根性に徹した女興業師の生涯を描く直木賞受賞作。
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Posted by ブクログ
良い。
山崎豊子さんにしては短い作品。
借金からスタートし、一大娯楽を生み出した女性のお話。
男女関係が昭和ぽい。
大阪の古き良き時代。
Posted by ブクログ
ドラマ化されたものを観て原作が気になり、読んでみました。人の半生を2時間にまとめたドラマは展開が速く、中には突拍子ないと感じた場面もありました。しかし小説では、同じように展開は速いものの、まったく違和感なく受け入れられました。おそらく、ほんのわずかな文章量で、登場人物や背景を充分に描ききれているからなのでしょう。
特にそれを感じたのが、吉三郎が女遊びを始めた第三章の、「何時も、何となく遊んでいないと気のすまぬ吉三郎は、芸人道楽の妙味を無くして来ると、そろそろ女遊びに興味をもつようになった。」という一文です。この一文だけ読めば、「そんな無茶苦茶な!」と思うのでしょうが、第二章まで読んできてこの一文に出会うと、「あぁ…(吉三郎なら、そりゃそうなるよね)」と、納得させられてしまいました。それほど作者の文章力は凄まじく、たった二つの章だけでリアリティある人物像を読者の中に存在させることができているのだと思います。
個人的に、直木賞受賞作を読んだのは、知らずに読んでいたものが無いとすれば、初めてです。これも受賞作だとは知らずに読んでいたのですが、やはり受賞するだけのことはあるのですね。受賞するにはワケがあるということを知れたのも、この本を読んでの一つの収穫でした。
Posted by ブクログ
2017年度後半のNHK朝ドラ『わろてんか』を観て、モデルの吉本せいさんに興味を持ち、ドラマに先立って小説化、映画化されたという、この山崎豊子さんの直木賞受賞作を読もうと思った。
恐らくは、こちらの作品の女主人公、河島多加さんの方が、現実の吉本せいさんの人物像に近いのだろうと思いながら読んだ。
実際、おおまかには事実を元に創作を加えて作られていることが、二つのストーリーを比べると実感できる。安来節の扱いなど、その違いを見ると興味深いし、なにより、吉本吉兵衛、通称が泰三という主人公の旦那さんの扱いが、大きく異なっている。いまのドラマは、いわゆる「えげつなさ」を除いて、ファンタジー的に扱っている。没後も、時々、幽霊となって現れ、主人公のてんに忠告したり相談に乗ったりと。
現実は、「花のれん」では妾宅で亡くなったことになっているが、どうだったのだろう、それも創作かもしれないにしても、近いものがあったのだろうと思う。
あと、子どもの扱いも、随分と違っている。実際の子ども、頴右という人は、笠置シヅ子さんと恋仲になったと聞くが、ドラマでは、はるか以前、戦前にすでに駆け落ちして子を設けている。
また、吉本せいさんの片腕となった専務のことも、それぞれ違いがある。「花のれん」では、ガマ口はんという元芸人さんが、片腕を担い、ちょうどドラマで登場した通天閣を買う辺りのことも、主人公の多加さん主導で行なわれたように登場する。
ドラマでは、風太。そして、伊野栞という人が加わって、てんを支えている。でも、これもよく知られたことで、現実の吉本興業は、吉本せいさんの実弟である、専務から社長になった、林正之助さんの影響が、せいさんの生前から強かったといわれる。
その辺りのことを考えながら読むのも、また一興ではあるが、純粋に、大阪の興行主としての女主人のえげつなさを読むには、この「花のれん」はとても興味深い作品であると思えた。
Posted by ブクログ
単に調べるだけなら、大ていの小説家はそれをやっているだろう。大切なことは何を調べるかであり、調べた多くの事実のなかの何を生かし、何を棄てるかであろう。この点作者の頭はよく働いている。これだけの材料があれば五つぐらいの小説は書ける。山崎はそれをやらない。この小説で主人公の多加が女の一念を貫いてその事業を成功する、のみならずその悲願を達成するために彼女の打つ手が悉く精密に計算されていることである。小銭貸しの石川きんに取り入ることから始まって、冷し飴を氷の上に並べたり、客の棄てたミカンの皮を集めて薬屋に売ったり、下足札に広告を入れることを思いついたりするこまごまとした才覚のほかに、公衆便所に忍びこんで真打の師匠たちの来るのを待ち受けて札撒したり、競争相手の紅梅亭のお茶子を引き抜いたりする計りごと、また安来節謡いを出雲まで買いに出かけたり、漫才ブームを作り出す商才、モデルになった有名な女興行師の実話であらうが、それを巧みに使用して、物語りを徐々に盛り上げてゆく手腕は見事なものである。