あらすじ
天明の大飢饉に見舞われた奥州八戸藩での凄惨な人肉食を鉄砲隊足軽小十郎の日録を追いながら苛烈に描写。飢饉による死者たちの嘆き、生に執着する人々の業を直視し、人間存在の根本に迫る代表作「おろおろ草紙」。ほかに、「暁闇の海」「北の砦」「海村異聞」の歴史小説3篇を収録。著者の郷里に材を得、庶民の強靱な生きざまを鮮やかに描いた傑作小説集。
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Posted by ブクログ
この人しか書けない小説とは、なんとすばらしいのだろう。
北の地の厳しさが人を死なせていた。土地をこんなふうに書ききるすごさがまず、この小説にはある。
歴史小説はあまり読まないが、そんなこと関係なしに文章の凄まじさで読めてしまったなあ。
すこし前に読んだ剥製が男女が死ぬ話だとしたら、おろおろ草紙の四篇は土地の厳しさで人が死ぬ話である。より三浦哲郎の奥をみたのは今回のおろおろ草紙だった。形式としては物語なのだけど、その中で三浦しか知らない東北の感覚が書かれていたと思う。
ちょっと確認してみたら二篇目の「暁闇の海」は、けっこう歴史寄りの話だったみたい。でも四篇を総合して、北の厳しさを知らせてくれるようなそんな小説だとやっぱりおもう。
Posted by ブクログ
おろおろ草紙というタイトルが、この作品集全体の内容をとてもよく表している。
何が悪いわけでもなく、誰かのせいでもなく、かといって虚無感に襲われるというのでもなく。ただ、何かがあって、そういう状況の中で右往左往して、それでも、ただ、生きて。
流されているというわけではない。ぼんやり生きているというのとも違う。
状況は壮絶だ。ばたばたと人が倒れていき、「死」がごろごろしている状況だったり、一歩違えば生死の狭間であったり、そして、他人を喰わないと自分が死ぬ状況だったり。
とても日常的とは言えない。むしろ、地獄のような状況だ。しかし、それなのに、人はどこまでも人で、それ以上には決してならない。また、世界が奇跡を起こすこともない。時間の流れも人の能力も、どこまでも変わらないまま、ただ、淡々と季節はめぐり、冬が終われば春が来る。
人は生きる、しかしそれと同じくらい人はどこまでも死ぬ。
そんな状況を静かな筆致で描写するこの本の作者、三浦哲郎さんは、6人兄弟の末っ子だそうだが、この5人の兄・姉たちのうち、なんと4人が自死、あるいは失踪しているそうである。
人は死ぬ、しかしそれと同じくらいどこまでも人は生きる。
少々読み通すのは辛い本だったものの、そんな生い立ちを持つ作者のあとがきが印象的だったので、読む際はぜひあとがきまで。