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Posted by ブクログ
目次
・未来予報 あした、晴れればいい。
・手を握る泥棒の物語
・フィルムの中の少女
・失はれた物語
切なさド直球の物語、と思ったら、「切ない話を」とのオーダーだったのですね。(未来予報)
未来が見える、わかるというのは、必ずしも幸せなことではない。
天気予報レベルで外れることも多い未来予報だとしても。
彼も、彼女も、特段その未来に縛られていたわけではないけれども、その未来は支えだったはず。
「意味のない人生なんてない」
清水が言ったからこそまっすぐに伝わった言葉。
”僕たちの間には言葉で表現できる「関係」は存在しなかった。ただ透明な川が二人の間を隔てて流れているように、ああるような、ないような距離を保っていた。
しかし、僕は清水のことを考えるとき、まるで何十年も連れ添った後、寿命で眠るように死んでしまった妻へ思いを馳せるような、懐かしい気持ちになるのだ。”
この最後がもう飛び切りに上手い。
しかし古寺は、どんな気持ちでこの二人を見続けていたのか。
金に困って、旅館の壁に穴をあけて札束の入ったバッグを盗もうとした主人公が、まったく違うものを掴んでしまった挙句、何も取らずに家に逃げ帰ってしたこととは。(手を握る泥棒の物語)
”身辺を片付け、テレビやビデオの電源を抜き、冷蔵庫に入れていた腐りそうなものを食べた。逮捕されてしばらく戻ってこれなくてもいいようにという準備だった。”
こういう、ふざけているのか真面目なのかわからない語り口が乙一だなあ。
思わず噴いた。
「こわい話を」というオーダーで書かれた作品。(フィルムの中の少女)
確かに本来そこにいなかった少女がフィルムに映っていたら、そして再生するたびにその向きを変えていたら怖いよ。
でもこの作品の真の怖さはそこじゃなかった。
そして彼女がフィルムの中に存在した理由は、「せつない」じゃないか。
乙一の小説って、喪失とか欠落とか多いよね。(失はれた物語)
これはまた不条理で、切なくて、妻の気持も夫の気持もどちらもわかるだけに、どうするのが正解かなんて簡単には言えない。
だけど、最後のそれはないわ。
入院費用を払っている人はいるはずだし(まさかの自動引き落とし?)、点滴を交換しなければならないのだから、絶対忘れられた存在になるはずはないと思うの。
ってことは、叙述トリック?
ちょっと解釈に悩んじゃいます。
Posted by ブクログ
味のある作品を並べた短編集です。「未来予報」「手を握る泥棒の物語」は主人公が似たような雰囲気です。「未来予報」は友人に隣人の女の子か自身が死ななければ結婚すると予言される。それを意識して、女の子と話せなくなり、自堕落は生活を送るが、最後に入院した女の子と話をして、生活を取り戻す。あまり僕には来ませんでした。「手を握る泥棒の物語」はコミカルな感じで、金持ちの叔母が近くの旅館に泊まっており、そのバッグを盗むために、壁に穴をあけて、手を入れるが、なぜか無人のはずの部屋で腕をつかんでしまう。その相手とのやり取りから、何かが生まれ始める。出来過ぎのような話だけど、面白い。「フィルムの中の少女」はホラーで、一人の語りで話が展開します。ミステリですが、ちょっと追いにくかったです。「失はれた物語」は個人的には好きな話です。事故にあって、右腕の感覚と、右人差し指しか動かなくなり、視覚聴覚味覚嗅覚を失い、下界から隔絶された主人公。妻とは指の合図にのみでコミュニケーションをとるが、未来が見えない生活が続き、本人・妻ともに消耗し始める。本人がとった選択は?僕にはさみしさが染み渡る感じでした。
Posted by ブクログ
静かに部屋で読むとじっくり堪能できる。
「泥棒」はラブコメで漫画的。だから好き
「フィルム」は背筋が寒くなった。何とかいい話に落ち着けた感じがする。
「失はれる物語」は何か胸が苦しくなるねぇ。自分が妻だったら、夫だったら、どんな選択をするんだろう。
愛する気持ちは嘘じゃないけど、重荷なのも本当。