【感想・ネタバレ】恍惚の人のレビュー

あらすじ

文明の発達と医学の進歩がもたらした人口の高齢化は、やがて恐るべき老人国が出現することを予告している。老いて永生きすることは果して幸福か? 日本の老人福祉政策はこれでよいのか? 老齢化するにつれて幼児退行現象をおこす人間の生命の不可思議を凝視し、誰もがいずれは直面しなければならない《老い》の問題に光を投げかける。空前の大ベストセラーとなった書下ろし長編。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

100分de名著(2024年12月)に取り上げられた1冊。
この本を読んで今年亡くなった祖父のことを思い出した。認知症ではなかったが、最期は寝たきりになり、祖母や父、叔母が介護していた。祖父がこれ以上苦しまないように積極的な延命治療は行わなかった。最終的には老衰であったが、それでも「もっと長生きさせてあげたかった」と皆が言っていた。
最後のシーンの敏の台詞はドキッとしたし、鳥籠を抱いて涙する昭子の気持ちも痛いほど伝わってきた。

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2024年12月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

老人問題を取り上げた小説は何冊か読んでいるのに、元祖であり大ベストセラーであるこの作品をまだ読んでいなかった。
心の片隅で、もう古いのではないかと思っていたのかもしれない。
読み終えてみれば、土下座して謝りたいほど、「現代の」老人問題が描かれていた。
時代的には、私の親世代の家庭であるが、昭子(あきこ)がフルタイムで事務員として働いているという状況は、当時では比較的新しい家庭であったのかもしれない。

優しかった姑が離れで急死した日、嫁の昭子は、舅の茂造の様子がおかしいと初めて気づいた。
症状が出始めたことを息子夫婦には隠して、姑が一人で面倒を見ていたのだろう。
姑は、狷介でわがままな茂造の看護婦か奴隷のようなものであった。
立花家において、執拗な嫁いびりは茂造の仕事で、姑が間に入って取りなしていたのである。
しかし、ボケた茂造は、意地悪も忘れ、昭子さん昭子さんと頼りにするようになる。
そこからは、認知症老人の迷惑行動見本帳のように、茂造は次々と段階を進める。
介護はもちろん地獄だが、昭子と信利(のぶとし)の夫婦は、茂造の姿に自分たちの行く末を思い描いて、むしろそちらに戦慄する。
高校生の息子・敏(さとし)は介護に協力的だが、「パパもママもこんなに長生きしないでね」と言い放つ。
「老人福祉指導主事」の、「老人を抱えたら誰かが犠牲になることはどうしようもない」という言葉も、今もそのまんまである。おまけにヤングケアラーの問題まで浮上しているから、現代ではこの小説の状況より悪くなっているのではないかと思うほど。
考えれば考えるほど、ズブズブと泥濘に沈んでいく心地がする。
自分だっていずれは老人になるのだから、という言葉は、きれい事であると同時に恐ろしい呪文でもある。

こういう場合、あまりにも定番すぎるけれど、「男は役に立たない」ということもやはり書いておかねばならない。
昭子の夫であり、茂造の長男・信利は、少しは手伝ってと言われて「二言目には、自分の親だろう親だろうと言うんじゃない、当てつけか!」などど逆ギレする。
後半、昭子が聖母のように見えてくるが、そうらやっぱり女性の方が介護に向いているんだなどと言う輩が出てきそうで、女を取り巻く状況はこの昭和47年(1972年)からほとんど変わっていないと思うのだった。
そう思うにつけ、この作品は、時代が変わっても色褪せない傑作と言わざるを得ない。

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2024年12月19日

e3

ネタバレ 購入済み

レビューというより感想です

まず時代性なんかが今と違うのが面白い。主人公が普通に戦争経験者で、主人公の夫も戦地帰り。息子は学生運動の世代。うちの祖父母が主人公世代って考えると、すごく不思議な気持ちだった。
でも、文体なんかは別に古くさくもない。いうて現代だもんね。

認知症ってのは今は普通に知られてて、それ用の受け入れ施設もあるけど、当時は大変だったろうな。働く主婦の主人公が、仕事と介護の間で悩むあたりは、現代でもそんなに代わらない問題だなって思ったし。今どきは嫁が義父母の介護をする・・・なんて価値観も古くなってるけど、全く無くなってるってわけでもない。その価値観転換のスタート地点を読んだんだなって思った。

通底して書かれてたのは人間の尊厳とか死生の境界みたいなものかなと思った。現代でも尊厳死とか安楽死とかが語られるけど、それのもっとプリミティブな問題提起だったんだろうな。

それに繋げて、(意識の)死と客体化っていうのを考えた。

お爺ちゃんが認知症になって、自分が誰なのか今何をしてるのかも分からなくなって、口さがない人(実の息子なども)は「こんなんなら死んだ方がマシだ」なんて言う。けど、主人公はそのお爺ちゃんの生に意味を見いだす。生きていてほしいと思って世話をするようになる。
本人に自意識がなくとも、他者から客体化されることでその人の生に意味が見いだされるっていうのは「死んだ後はどうなるの?」っていう問題にもちょっと似てる。
死の前にある死のようなものとして認知症はあるんだと思った。
本人の意識は生きてるのか死んでるのか分からないけど、周りの人たちはその人をちゃんと認識してて世話もしたりしてて、本人の意識も、何か断片のようなものはそこにあって。
それは、物語の最初に死んだおばあちゃんについての言及がほとんどないのは象徴的で、死の前にある死と生の間の何かとして認知症を書いていて、おばあちゃんは明確に生の世界とは切り離されてるんだと思った。(これは深読みしすぎかな?)

山岸夫妻が出てきたあたり、お爺ちゃんが「恍惚」状態に至ったところは作品のクライマックス。生老病死なんて言葉があるけど、そういう現世の苦難から全て解放されてる感じがして、解脱ってこういうことかなって思ったりした。
急転直下からの怒濤のエンディング、最後の敏と昭子のやりとりも良かった。

全体的には読んでてしんどい部分が多かったけど、総合的にはすごく良かったです。

#深い #タメになる

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2025年06月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

8月中旬に買ってバスの中とか寝る前とかにゆっくり読み進めた。
戦後10年経った東京を舞台に「老い」を書いた作品。主人公の義理の母が死んでしまい残った義父が認知症になってしまう。認知症の義父の世話を1人で受け持っている主人公の昭子の視点から義父が亡くなるまでの日常(介護という非日常が日常になってしまう。)が細かい描写で記されている。
印象に残ったメッセージは、「人は誰しも必ず老いるということを皆忘れているのではないか」だった。自分も祖父祖母と接する時、時偶面倒くさいと感じてしまう。しかし、自分も必ずその立場になる。そう思うと高齢者を無下にしてはいけないと思う。
そして老いが生々しく描かれているからこそ老いることに恐怖を感じた。どんどん幼児化していく義父が最終的には喋らなくなり意思を持っているのかわからないが嬉しいときに屈託のない無言の笑顔を見せる描写にゾッとした。
いい作品だった。

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2025年02月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

高校3年生の頃、センター試験対策の青本の国語の問題で、この小説の一節が使われていて、それで全文が読みたくなって、受験勉強そっちのけで買いに走りました。

主人公の旦那さんのお父さんが、認知症を発症、というか、症状が顕著になってから、亡くなるまでを描いた物語です。

これが発刊されたの1972年ですが、2011年現在でも全然色褪せていない、むしろ高齢化が進んでいる今の方がリアルに感じられるお話だと思います。特に、予言小説として書いたわけではないのでしょうが。

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2025年01月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

小説というより事実が淡々と描かれているという印象だった。
いじめられた舅の介護なんて絶対にしたくないと思うが、その心境の変化が興味深い。

楽になったと思ってもそこからまた新たな問題が湧き出してくる...
働くこと、介護すること、女性とは...
色々と考えさせられ、またなにも理解できてなかったと思い知らされた。

母に読ませてしまったけど、どんな風に感じたかな?
読ませるべきでなかったか...

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2025年08月17日

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