【感想・ネタバレ】恍惚の人のレビュー

あらすじ

文明の発達と医学の進歩がもたらした人口の高齢化は、やがて恐るべき老人国が出現することを予告している。老いて永生きすることは果して幸福か? 日本の老人福祉政策はこれでよいのか? 老齢化するにつれて幼児退行現象をおこす人間の生命の不可思議を凝視し、誰もがいずれは直面しなければならない《老い》の問題に光を投げかける。空前の大ベストセラーとなった書下ろし長編。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

50年以上前、自分の両親が生まれた頃のお話。
認知症ではなく「痴呆症」と呼ばれた時代で、それが進行すると、便を食べるなどの「人格崩壊(表現が違うかも)」に至るそう。
この時代、認知症をもつ方への理解も進んでいない中、仕事もしながらつきっきりで舅の世話をする昭子の献身ぶりには心を打たれた。その息子である敏も学業の傍ら、徘徊した祖父を探すなどの行動をとっていて偉いなと思った。

反面、昭子の夫の信利やその妹の京子は、自分の父が認知症になっても他人事で、世話を昭子に押し付けている態度が気になった。しかしこれは、「女が家庭を守るもの」という当時の価値観によるものだろう。また、老人福祉に関する専門家からは「家で過ごすのが一番。施設に入れると可哀想」という発言がみられ、世話をする家族のことは支援から外れていたのだと実感させられた。

今だったら昭子とその家族に対し、どんな支援ができるだろうか。私は地域保健に関わる職業に就いているが、それをずっと考えさせられた。

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2026年01月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

『恍惚の人』は、認知症という言葉がまだ一般的でなかった時代に、「老い」と「介護」を真正面から描いた作品です。
舞台はごく普通の家庭。特別な不幸が起きるわけではありません。ただ、年を重ねた父が少しずつ変わっていく。その変化に、家族がどう向き合わされていくのかが、淡々と、しかし容赦なく描かれます。

象的なのは、誰かが明確に「悪者」になるわけではないことです。
介護する側も、される側も、みな必死に「正しく」あろうとする。
それでも、苛立ち、疲弊し、思ってもいない言葉が口をついて出る。その現実が、非常に生々しい。

この作品が突きつけてくるのは、
「家族だから支えられる」という理想と、
「家族だからこそ壊れていく」という現実のあいだの、どうしようもない揺らぎです。

特に心に残るのは、介護が進むにつれて、
・本人の尊厳とは何か
・家族の生活を守ることは“冷たさ”なのか
・献身と自己犠牲の境界線はどこにあるのか
といった問いが、読者自身に突き返されてくる点です。

制度も、専門職も、十分に整っていない時代背景だからこそ、
「支え合いは美しい」という言葉の裏にある重さが、際立ちます。
そしてそれは、制度が整った現代においても、決して過去の話ではありません。

『恍惚の人』は、感動的な物語ではありますが、読後に残るのは“救い”よりも“問い”です。
それでもなお、この問いを避けずに見つめること。
それ自体が、老いと共に生きる社会への、静かな第一歩なのだと感じさせられます。

介護や支援に関わる人にとっては、自身の実践をふり返る鏡として。
関わりのない人にとっても、いつか必ず訪れる現実を、少し先取りして考えるための一冊として。
今なお読む価値を失わない作品です。

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2026年01月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

老人問題を取り上げた小説は何冊か読んでいるのに、元祖であり大ベストセラーであるこの作品をまだ読んでいなかった。
心の片隅で、もう古いのではないかと思っていたのかもしれない。
読み終えてみれば、土下座して謝りたいほど、「現代の」老人問題が描かれていた。
時代的には、私の親世代の家庭であるが、昭子(あきこ)がフルタイムで事務員として働いているという状況は、当時では比較的新しい家庭であったのかもしれない。

優しかった姑が離れで急死した日、嫁の昭子は、舅の茂造の様子がおかしいと初めて気づいた。
症状が出始めたことを息子夫婦には隠して、姑が一人で面倒を見ていたのだろう。
姑は、狷介でわがままな茂造の看護婦か奴隷のようなものであった。
立花家において、執拗な嫁いびりは茂造の仕事で、姑が間に入って取りなしていたのである。
しかし、ボケた茂造は、意地悪も忘れ、昭子さん昭子さんと頼りにするようになる。
そこからは、認知症老人の迷惑行動見本帳のように、茂造は次々と段階を進める。
介護はもちろん地獄だが、昭子と信利(のぶとし)の夫婦は、茂造の姿に自分たちの行く末を思い描いて、むしろそちらに戦慄する。
高校生の息子・敏(さとし)は介護に協力的だが、「パパもママもこんなに長生きしないでね」と言い放つ。
「老人福祉指導主事」の、「老人を抱えたら誰かが犠牲になることはどうしようもない」という言葉も、今もそのまんまである。おまけにヤングケアラーの問題まで浮上しているから、現代ではこの小説の状況より悪くなっているのではないかと思うほど。
考えれば考えるほど、ズブズブと泥濘に沈んでいく心地がする。
自分だっていずれは老人になるのだから、という言葉は、きれい事であると同時に恐ろしい呪文でもある。

こういう場合、あまりにも定番すぎるけれど、「男は役に立たない」ということもやはり書いておかねばならない。
昭子の夫であり、茂造の長男・信利は、少しは手伝ってと言われて「二言目には、自分の親だろう親だろうと言うんじゃない、当てつけか!」などど逆ギレする。
後半、昭子が聖母のように見えてくるが、そうらやっぱり女性の方が介護に向いているんだなどと言う輩が出てきそうで、女を取り巻く状況はこの昭和47年(1972年)からほとんど変わっていないと思うのだった。
そう思うにつけ、この作品は、時代が変わっても色褪せない傑作と言わざるを得ない。

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2024年12月19日

e3

ネタバレ 購入済み

レビューというより感想です

まず時代性なんかが今と違うのが面白い。主人公が普通に戦争経験者で、主人公の夫も戦地帰り。息子は学生運動の世代。うちの祖父母が主人公世代って考えると、すごく不思議な気持ちだった。
でも、文体なんかは別に古くさくもない。いうて現代だもんね。

認知症ってのは今は普通に知られてて、それ用の受け入れ施設もあるけど、当時は大変だったろうな。働く主婦の主人公が、仕事と介護の間で悩むあたりは、現代でもそんなに代わらない問題だなって思ったし。今どきは嫁が義父母の介護をする・・・なんて価値観も古くなってるけど、全く無くなってるってわけでもない。その価値観転換のスタート地点を読んだんだなって思った。

通底して書かれてたのは人間の尊厳とか死生の境界みたいなものかなと思った。現代でも尊厳死とか安楽死とかが語られるけど、それのもっとプリミティブな問題提起だったんだろうな。

それに繋げて、(意識の)死と客体化っていうのを考えた。

お爺ちゃんが認知症になって、自分が誰なのか今何をしてるのかも分からなくなって、口さがない人(実の息子なども)は「こんなんなら死んだ方がマシだ」なんて言う。けど、主人公はそのお爺ちゃんの生に意味を見いだす。生きていてほしいと思って世話をするようになる。
本人に自意識がなくとも、他者から客体化されることでその人の生に意味が見いだされるっていうのは「死んだ後はどうなるの?」っていう問題にもちょっと似てる。
死の前にある死のようなものとして認知症はあるんだと思った。
本人の意識は生きてるのか死んでるのか分からないけど、周りの人たちはその人をちゃんと認識してて世話もしたりしてて、本人の意識も、何か断片のようなものはそこにあって。
それは、物語の最初に死んだおばあちゃんについての言及がほとんどないのは象徴的で、死の前にある死と生の間の何かとして認知症を書いていて、おばあちゃんは明確に生の世界とは切り離されてるんだと思った。(これは深読みしすぎかな?)

山岸夫妻が出てきたあたり、お爺ちゃんが「恍惚」状態に至ったところは作品のクライマックス。生老病死なんて言葉があるけど、そういう現世の苦難から全て解放されてる感じがして、解脱ってこういうことかなって思ったりした。
急転直下からの怒濤のエンディング、最後の敏と昭子のやりとりも良かった。

全体的には読んでてしんどい部分が多かったけど、総合的にはすごく良かったです。

#深い #タメになる

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2025年06月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

8月中旬に買ってバスの中とか寝る前とかにゆっくり読み進めた。
戦後10年経った東京を舞台に「老い」を書いた作品。主人公の義理の母が死んでしまい残った義父が認知症になってしまう。認知症の義父の世話を1人で受け持っている主人公の昭子の視点から義父が亡くなるまでの日常(介護という非日常が日常になってしまう。)が細かい描写で記されている。
印象に残ったメッセージは、「人は誰しも必ず老いるということを皆忘れているのではないか」だった。自分も祖父祖母と接する時、時偶面倒くさいと感じてしまう。しかし、自分も必ずその立場になる。そう思うと高齢者を無下にしてはいけないと思う。
そして老いが生々しく描かれているからこそ老いることに恐怖を感じた。どんどん幼児化していく義父が最終的には喋らなくなり意思を持っているのかわからないが嬉しいときに屈託のない無言の笑顔を見せる描写にゾッとした。
いい作品だった。

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2025年02月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

共働きの夫婦が認知症という言葉もまだない時代に自宅介護をして看取るまでを描いた作品。
登場人物の考え方にはさすがに時代を感じたが、老人ホーム等の施設に簡単には入れないというところは変わっていない。今の時代に家でお世話するのが本人にとって一番幸せだなんて福祉関係者が家族に言おうもんなら訴えられそう。
旦那さんはほとんど何もしないのに一人で頑張るお嫁さんは本当にすごい。普通なら夫婦関係もっと悪化しそう。
割と早めにおじいちゃんがなくなったから自宅介護でなんとかなったけどこれがもっと長引いて更に状況が悪化したらと考えると本当に地獄だと思う。自分が認知症になって何も解らなくなったらと思うと、尊厳死とかリアルに考えてしまう。
ロスト・ケアとテーマが重なる部分があって、いくら考えても答えの出ない問題。人間ていうのは本当によくできた作りをしているのに老いるという問題はまだ解決できない。
老いて死ぬのが自然の摂理であり美しさでもあるけど、美しく終われない場合があるので難しい。人類はいつか永遠に若々しく生きられるようになるだろうか。死にたいと思った時に死を選択できるような。そういうSF小説はきっとあるだろうな。

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2025年12月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

小説というより事実が淡々と描かれているという印象だった。
いじめられた舅の介護なんて絶対にしたくないと思うが、その心境の変化が興味深い。

楽になったと思ってもそこからまた新たな問題が湧き出してくる...
働くこと、介護すること、女性とは...
色々と考えさせられ、またなにも理解できてなかったと思い知らされた。

母に読ませてしまったけど、どんな風に感じたかな?
読ませるべきでなかったか...

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2025年08月17日

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