あらすじ
世界最初の全身麻酔による乳癌手術に成功し、漢方から蘭医学への過渡期に新時代を開いた紀州の外科医華岡青洲。その不朽の業績の陰には、麻酔剤「通仙散」を完成させるために進んで自らを人体実験に捧げた妻と母とがあった――美談の裏にくりひろげられる、青洲の愛を争う二人の女の激越な葛藤を、封建社会における「家」と女とのつながりの中で浮彫りにした女流文学賞受賞の力作。
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Posted by ブクログ
世界最初の全身麻酔による外科手術を成功させた華岡青洲。
その成功の陰には進んで人体実験に身を捧げた母と妻の姿がありました。
加恵は憧れの於継に息子の嫁にと望まれたことが嬉しくもあり誇らしかったのです。嫁と姑は本当の母娘のように仲良くやっていました。それが一変したのは京都へ遊学していた雲平(青洲)が帰ってきてから。加恵は於継の言動に含みを感じるようになり、華岡家での疎外感を味わうようになったのです。
これといって激しい二人の対立があるのではなく、雲平を巡る物静かな戦いが繰り広げられました。
青洲が麻酔について研究し実験していると知った於継は自分を実験に使ってくれと言い出します。いやいやお母さんではなく私を、と言う加恵。大事な嫁にそんなことはさせられないと言う於継。結局青洲は二人に頼むのですが、実験に使った薬の強さは違うものでした。
嫁、姑の女のたたかい
病になった義理の妹小陸 なんという怖ろしい間柄だろうと思っていた。
「そう思うてなさるのは、嫂さんが勝ったからやわ」
男というのはすごい。母と嫂さんとのことを気づかないわけはないのに知らないふりして薬を飲ませた。私は病気で死ぬけれど嫁にも姑にもならなくてすんで幸せだった。
母と妻の争いを見ていた青洲は何を思っていたのか。この時代だから男と女の違い、ましてや嫁の立場の弱さはあったと思います。嫁にいかず病気でこの世を去った青洲の妹達が幸せだとは私には思えませんでした。医者の家華岡家への貢献度は自分の身を実験に差し出した嫁の加恵、姑の於継に敵わないかもしれませんが、小陸たち青洲の妹達も一丸となってささえたから、手術の成功があったのだと思います。
Posted by ブクログ
人間の本質に、殊におなごの本質に触れるような気がするのよし。永遠のライバル嫁姑。
美談として流布しているのであろう華岡青洲の母と妻は、もしかしたらこういう内情であったのではないか、華岡青洲自身は、科学者ではなくて医学者だけども、わりとマッドサイエンティストという歴史小説。良いとか悪いとか論じるのはナンセンスだと思う。そう言う下地に成り立っているのが今の現実でございましょ?遡って糾弾するなら今の快適、適切は捨てなきゃね。
私は、スルッと「そうかもな」と思えた。
語尾が「〜のよし」「〜いただかして」なんて穏やかで牧歌的な印象なのだけど内容はドロドロの愛憎。綺麗事で人生乗り切れないし、学べることもないのよし。
有吉佐和子さんの鋭い考察にやっぱり感服する。今月の100分de名著は図らずも有吉佐和子さんの特集らしいですね。
琴線に触れる描写が、昭和中期の作品には多い傾向にあるので、その年代を今後も攻めていきます。
Posted by ブクログ
「夫の母親は、妻には敵であった」。
敬愛していた於継(おつぎ)に請われて華岡家に嫁いだ加恵(かえ)。実の親子のように仲良く暮らしていた日々は、3年間の京都遊学を終えた夫 雲平(うんぺい)--後の青洲--の帰郷によって突如終焉する。表面的には普段どおりでも、何事においても嫁を蔑ろにするようになった於継を加恵は憎悪し始め、対抗する……。
自分こそが“家”(=当主)に最も頼みとされる女でありたいという、嫁と姑の静かで激しい争い。雲平が麻酔薬を開発すれば、その実験台として2人して名乗り出、張り合う。母/妻の鑑として周囲には美談めいて伝わるが、その内実はエゴイスティックで醜い。
結果的に加恵のほうが実験により貢献するが失明する。「お母はんに勝った」と得意気な加恵に、病に倒れた義妹 小陸(こりく)は2人の間柄は見ていて恐ろしかった、女二人で争わずに済むから自分は嫁に行かなくて幸福だったと告げる。慌てて於継を褒めちぎって取り繕う加恵に小陸はさらに言う、「そう思うてなさるのは、嫂さんが勝ったからやわ」と。
家制度の呪縛され、翻弄される女性の悲しさ。当主となる男児を産んだと自分する姑 於継と、血縁という壁に阻まれる嫁 加恵。妻や母になっても味わう女性の苦難を、当の息子で夫の雲平は鈍感なのか黙認しているのか何の反応も示さず、研究者や医者としての欲望を優先する。舞台設定は江戸時代だが、女性が透明化され、女性同士の争いですら男性に利用される理不尽さは現代にも通ずるものがある。嫁姑間の凄まじい葛藤を浮き彫りにする作者の腕に感嘆するばかり。映画版(増村保造、1967)ではこれほど伝わらなかった。
本書に関して強いて欠点を挙げるとすれば、註解が多すぎること。年少の読者を想定しているのか、昭和62(1987)年5月の改版からの構成なのか分からぬが、あまりに頻出で読み進めるのに難があった。
Posted by ブクログ
嫁姑の冷ややかな戦いの凄まじさ。花岡青洲という歴史に残る医者のもとで繰り広げられる。
表面に出てこないだけに恐ろしい。でも、ずっと目立たなかった小陸は「嫂さんが勝ったからやわ」と二人の戦いを見抜いていた。
もしかすると今でも同じような戦いが行われているのかもしれない。