【感想・ネタバレ】野火のレビュー

あらすじ

敗北が決定的となったフィリッピン戦線で結核に冒され、わずか数本の芋を渡されて本隊を追放された田村一等兵。野火の燃えひろがる原野を彷徨う田村は、極度の飢えに襲われ、自分の血を吸った蛭まで食べたあげく、友軍の屍体に目を向ける……。平凡な一人の中年男の異常な戦争体験をもとにして、彼がなぜ人肉嗜食に踏み切れなかったかをたどる戦争文学の代表的名作である。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

綺麗事じゃ済まない世界があって、仲間から俺が死んだら遺体を食べていいよって言われる壮絶な状況がひしひしと伝わってきた。人を食べるか食べないかで思い悩むって、そんなむごいことある?と。一度はその場を離れるが、思い悩んで再びその彼の元に戻った時には既に腐敗が進みとても食べられる肉体ではなくなっていた。仲間を食べさせないという神の愛だと主人公は思う。結果、直接書かれてはいないけど、主人公は人の肉を食べていると思う。でもそれは自分が撃ったものではなく、永松という男が撃った物ばかりだった。でも永松のことも責められないとも思う、生き抜くために必死だったのだから。想像力豊かな人ほどグロテスクに感じる描写はあるけど、私は戦争を知らない世代には是非読んで欲しいと思う小説だった。主人公は生き残ったけど、精神を病んでしまって食べ物も受け付けない体に。色々考えさせられる小説だった。間違いなく気は重くなる。

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2025年03月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

我深き淵より汝を呼べり。

社会から切り離された孤独と近代合理性の失敗である異常な戦時下での人間性の崩壊。絶対的な神の崩壊。

フィリピンで肺を病み隊から追放され、野戦病院からも追い出された主人公は行く当てもなく彷徨する。あるのは死へ向かう乾いた身勝手な自由。
山間の芋畑を見つけ飢えを満たすが、遠くに見える教会に心を惹かれ街に降りる決意をする。街は廃墟となっており野犬と死体の山だけだった。

教会に入り休んでいるとフィリピン人の男女と遭遇してしまい女を銃殺してしまう。街を離れ日本兵と行き合い仲間に加えてもらう。敵の銃撃を越えた先には死屍累々の敗残兵が道のそこここに倒れているという地獄だった。主人公は猛烈な空腹と理性の葛藤の末に人の肉を口にしてしまう。神に世界に怒り、自らの存在と過酷すぎる現実を受け止められない主人公は狂ってしまう。

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2024年09月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

先に塚本晋也監督の映画を見たので戦争描写のイメージが強かったが、小説を読んでより本来的な内容を味わうことができた。恐らく、この作品のテーマは12章「象徴」で語られている。

> あの快感を罪と感じた私の感情が正しいか、その感情を否定して、現世的感情の斜面に身を任せた成人の知恵が正しいか、そのいずれかである。(p59より引用)

飢えて人肉を食べようとする右手は後者で、それを制止する左手は前者になる。殺人は犯しながらも人肉食への衝動には極限まで抵抗するのも、少年時の性的習慣と同じく、それを罪と感じる快感があるからだろう。
戦争での人肉食という極端な場面で表現されているが、この葛藤は全ての人間が大なり小なり直面する普遍的なものだと思う。現代の大きな社会課題も、突き詰めればあの快感を罪とする感情を個々の人間が日常生活において否定し続けるために生じていると言えなくもない。

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2024年09月11日

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