あらすじ
18世紀末、商船から英国軍艦ベリポテント号に強制徴用された若きビリー・バッド。新米水兵ながら誰からも愛される存在だった彼を待ち受けていたのは、あたかも邪悪な謀略のような「運命の罠」だった……。緊張感みなぎるストーリー展開と哲学的な考察につらぬかれた現代性。アメリカ最大の作家メルヴィル(『白鯨』)の遺作にして最大の問題作が、いま鮮烈な新訳で甦る。
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Posted by ブクログ
18世紀末、若きフォアトップマン、ビリー・バッドは、商船ライツ・オブ・マン号から、英国軍艦ベリポテント豪に強制徴用された。強制徴用とは、対ナポレオン戦争の時に、絶対的に水夫が不足していたイギリスが、商船や酒場から、拉致するようにして水夫を集めた、かなり無茶なやり方だった。人材不足が極まった時は、囚人を水夫に採用することもあったそうだ。本意で集められたわけではないため、水夫の反乱も起こっている。文中でもノア湾での反乱について言及されている。つまり、強制徴用した船の船長や、もとからいた乗組員には、強制徴用された水夫達に対して、もとから不信感があった。
その事を前提にすると、ビリーの行為に対する厳しすぎる処置の、エクスキューズにはなる。ベリポテント号の艦長ヴィアは、ビリーの「あなたともお別れです。いとしきライツ・オブ・マン号よ」という、去り際の挨拶を聞いている。ビリー自身は、特に強制徴用に深い恨みを抱いていたわけではなく、冗談のつもりだった。彼はきわめて性格がよく、彼がいたことで商船の人間関係がよくなるほど、調整能力もある。二人が直接話せば、わかりあえたのではないかとすら思える。しかし、二人の間には、楽園に入り込む蛇のような男がいた。
先任衛兵長クラガートが、艦長フォアにビリーを危険人物として名指しした事から、二人の間がぎくしゃくし始め、決定的な出来事が起こってしまう。この理不尽に読者を放り出していいのか?という気がするが、逆にこの理不尽をこそ、メルヴィルが訴えたかったことではないか。
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メルヴィル 「 ビリーバッド 」著者の遺作 中編小説
キリスト教道徳の寓話にも読めるし、共同体の中で 秩序と苦悩を描いた小説にも読める。著者の人生の総決算としての思想哲学 にも感じる。
著者が描きたかったのは 多様で複雑で曖昧な現実の世界。そんな世界で どのように秩序を守るのかを 伝えたかった と捉えた
船中という人種や身分が多様な共同体が舞台。一神教的な 善と悪の二項対立では 共同体の秩序は保たれない。善の象徴である主人公のビリーバッド、知性の象徴であるヴィア艦長。ヴィア艦長の苦悩と共同体の秩序を保つ姿が印象的
キリスト教道徳の寓話
*狡知に対して 経験、才覚に欠け〜なりふり構わず 身を守ろうという感覚もないことは無力→ 無垢な善では自分すら守れない
ヴィア艦長の本の好み
*内容より文体にひたるものではない
*至上の秩序を備えた全ての真摯な精神〜が惹かれる
*どんな時代でも 現実の人間と出来事を扱う
*モンテーニュのように しきたりに囚われない
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程よい長さの作品でメルヴィルっぽさもあり読む価値のある作家であることが伺える作品。最初に「白鯨」を手にして挫折する前にこの作品でメルヴィルに慣れておくのも悪く無いと思う。たしかに脱線はよくするし衒学的なところもある。それでも、読むに値する内容が伴っている。なので、読み通す価値は十分にあるように思う。読むと色んな事を考えさせられるいい作品だと思います。
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白鯨を読む前に一度著者の雰囲気を知っておきたかったので、手短に読めるこの本を一読。何とも言えない終わり方だが、これが作家の雰囲気らしい。物語としては秀逸。白鯨を読むかどうかは暫くおいておこう。
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昔の文体で読みにくいけど、解説やあとがきを読んで理解が深まった。
吃音の描写があるから読んだけど、結構少なかった。なので読むのに時間かかった。
Posted by ブクログ
どこかでオススメとして紹介されていた本。
ハーマン・メルヴィルははじめて読んだ。
作品もモビーディックしか知らないし、なんか怖そう&暗そうな作品としか知らなかった…。
本書も不穏な終わり方をするらしいことははじめからチラチラと提示されている。
ストーリーは短いし、実際かなり薄い本なのだけど、前半は作者自身が言うように、舞台装置の説明以外のことでも寄り道が多くて、なかなかストーリーが動き出さないのでちょっと退屈でした。
そのぶん、中盤でストーリーは突然トップギアに入り、そのままブンブンと突き進んで終了。
え、えー。不穏は不穏だけどそういう方向なんだなあ…。
登場人物三人がオセロそのまんまだな、と思ったけど、実際シェークスピアの影響大きめの作家だったそう。(神話や聖書の引用もあちこちにあり、カジュアル寄りが持ち味のこの光文社シリーズでなければ読み通すのは無理だったかも。)
あのおじいさん船員、印象的なわりに、出番が少なくてびっくり。最後とかさ、なにか証言してくれてもいいんだよ…?(;_;)
解説と訳者後書きでようやくメルヴィル周辺を理解した。イギリスの作家、海の桂冠詩人と呼ばれたメイスフィールドを思い出す。メルヴィルのほうがかなり年上だけど、クリッパー船員の体験もあるのだし。
17世紀ウィリアム・ダンピアの手記のころから何も変わらない、海の中、船の上という、この隔絶された小世界での、いろんな恐怖が印象に残った。
前科者が過去を隠して乗り込む&無理やり徴用された船員→いつ暴動が起きるかわからないという事前の状況からすでに圧力高めの世界なのに、当たり外れの大きな獲物や戦争、いつ暴力が席巻するかわからない船。
そりゃあ、鞭打ち刑やら一方的な船内裁判やらも起きるかもしれませんな。
しかし怖いなあ。今でも閉ざされた環境の特殊な職場だとこんな空気は大きく変わっていないのではないかな。
ところで光文社のこのシリーズ、前にも書いたけど、こんな良シリーズに育ってくれるとは正直、シリーズ発売当初は全然予想もしていなかった。
手に取る気にさせる古典、この功績は大きい。
この売り方をされると、古典を読んでみようかなと思える層がたくさんあったということね。
岩波とかの古典的な訳書も好きではあるけど、新しい読者を得ていくのは、何より大きな課題ではある。
光文社はそこをうまくクリアしていて、そのもたらすものは本当に大きいと思われます。
何が言いたいかといえば、とにかく、関係者の尽力に感謝です。
Posted by ブクログ
國分功一郎の『中動態の世界』において、中動態の概念の事例として用いられていたことから興味を覚えた。中動態~の中であらすじは語られてしまっていたので、淡々と読み進めた感じだったが、國分の主張と含めて、人間の意志と決断、そして責任についてあたらためて考えるようになった。なにげにメルヴィルは初めてだったので、巻末のメルヴィル評が、一番集中できたところだった。最近注意が散漫。
18.3.14