あらすじ
暖炉に押し込められた令嬢、身体を切り裂かれた老婦人……誰が、いかにして殺したのか? 推理小説が一般的になる半世紀も前に、不可能犯罪に挑戦する世界最初の探偵・デュパンを世に出した「モルグ街の殺人」。160年の時を経て、いまなお色褪せない映像的恐怖を描き出した「黒猫」など、代表的8篇。多才を謳われながら不遇のうちにその生涯を閉じた、ポーの魅力を堪能できる短編集。
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ポーの独特の語りに引き込まれます。不気味すぎる話にゾクゾクしながら、「この後どうなる?」という期待感にあふれました。8編の短編それぞれが個性的で、心情描写のうまさに脱帽でした。
「モルグ街の殺人」は“推理小説の元祖”と、解説にありました。謎解きが論理的に進み、最後に解き明かされる流れは明快で、数学の難しい問題が解けたときのような痛快さを感じました。
訳者あとがきに、明治時代「黒猫」を訳した饗庭篁村(あえばこうそん)、内田魯庵についてのエピソードがあり、当時の翻訳事情が垣間見られて興味深かったです。
角川文庫の河合祥一郎訳と小川高義訳を比較すると、本書の方が心持ち、分かりやすいかなと思いました。しかし、どちらの訳も甲乙つけがたく、高い英文読解力と優れた日本語の使い手でないと翻訳のお仕事はできないと、感じたしだいです。同じ英文でありながら、日本語の表現がこんなにも違うということが驚きでした。
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1841年(日本は当時江戸時代)に発表された「モルグ街の殺人」。
世界最初の探偵と呼ばれるデュパンの推理が光ります。
奇々怪々の殺人事件、戦慄の光景、衝撃の真相が心に焼きつきました。
巻末にあるエドガー・アラン・ポー年譜もじっくり眺めさせていただき、ポーの生涯にしばし想いを馳せました。
古典は読んだことがなかったのですが、思い切って挑戦してみて良かったです。
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コレは面白い。読み終わった後に、思わず『おもしれー』と、声が漏れました。いまから190年近く前の作品たちですが、どれもコレも内容は秀逸で、暗くて、怪奇的です。アメリカで発表された時、日本に初めて入ってきた当時の読者の感想や驚きが、今からでは全く想像できません。中でも黒猫、ウィリアム・ウィルソンは素晴らしいですね。モルグ街の殺人はとても有名なので一読したかった作品です。当時のヨーロッパの空気感を感じる素晴らしい内容でした。
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黒猫
細かい心理描写に背が凍る作品。小道具や言葉の一つ一つが作品を作り出していると強く意識させられた。
モルグ街の殺人
推理小説の原点に相応しい作品。ここから歴史は作られたのかと脱帽した。
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『黒猫』がとにかく秀逸。170年以上前の小説であるとは驚き。
「訳者あとがき」にもあるが、一般論や抽象論などの「まくら」から本題に入るという流れに、落語と共通した雰囲気が感じられて興味深い。
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「アモンティリャードの樽」
一文あらすじ
幻のワイン「アモンティリャード」を餌に、憎き男を生き埋めにして復讐を果たす、ある貴族の話。
メモ
首尾一貫して、主人公の男がなぜ殺人を決行するのか、その理由が明かされない。わかるのは、彼の家の訓戒が「侮辱ニハ逆襲アリ」ということだけ。彼が憎む男は、永久に地下墓所の岩にくくりつけられたまま、完全犯罪が成し遂げられておわる。謎が謎のままにされるところ、それがこの作品のおもしろさだろうと思う。復讐する男の歓喜と恐怖の雄叫び、復讐される男の吠えるかのような絶叫・・・ふたつの声の不協和音が、いつまでも耳にこびりつく。
引用
すると鎖につないだはずの影が、喉から振り絞った声を、裂帛の気合いのように浴びせてきた。思わずたじろいで、おかしいと思いながら、身震いする。私は剣の鞘を払って、穴の中にさぐりを入れた。だが、ちょっと
考えればわかることだ。地下墓所の岩肌に手をあてて安心する。また石の壁に寄りつく。わめき立てる声に応じてやった。響きを返し、唱和してから、大きく強くおしかぶせた。それでもう奥の騒ぎは静まった。―46頁
「告げ口心臓」について
一文あらすじ
ある男が、老人の禿鷹のような眼をわけもなく恐れ、ついには殺してしまうが、自分自身の心臓が激しく波打つのに耐えかね、罪を自白してしまう話。
メモ
主人公の男は、老人を嫌っているのではない。そうではなくて、彼の禿鷹のような眼を恐れている。理由は明かにされない。事件がおこる直前、真夜中、男は老人の眼をランプで照らす。暗闇のなかに浮かぶ眼・・・つぎの瞬間、老人は切り刻まれた屍に変わり、床下に隠される。男は上機嫌だった。けれど、時間が経つごとに胸がざわつく。次第に心臓の打つ音が高まり、屍のある床下からとくに激しくきこえる。男は耐えきれず、ついに罪を自白する。
主人公の男は、「老人の眼」=「自分を縛ろうとするもの」が怖かったのだろうか。暗闇に眼だけを浮かび上がらせるポーの手法は、読者に強烈な恐怖感を与える。物語前半の息苦しいほどの慎重さ、後半の刹那。このコントラストが、なんともいえなく美しい。殺人と自白の衝動がどんどんと高まっていく描写は、読者が頁をめくるスピードをも早める。人間の心性を、見事に描き出した作品であると思う。
引用
だが鼓動が高まる。高まる。もう破裂すると思った。こうなると別の心配にとらわれる。近隣に聞こえるのではないか!もはや生かしてはおけない!私は大きく叫び、ランタンを全開にして、部屋へ飛び込んだ。老人が一声だけ悲鳴をあげた。たったの一声。すぐに私が床に引き下ろし、重いベッドをかぶせて下敷きにした。ここまでは上首尾で、にんまり笑ってしまった。ところが、かなり長いこと、心臓がこもった音を出して打っていた。―55頁
「ウィリアム・ウィルソン」について
一文あらすじ
同姓同名、誕生日も同じ男に半生を追いまわされる話。
メモ
話はイギリスからはじまる。貴族の子息であるウィリアム・ウィルソンは、学校で自分と同姓同名、誕生日も一緒の少年に出会う。性悪な主人公に対し、この少年は分別があり、よくできた人間だった。彼は主人公の悪を明らかにし、打ち負かす。主人公は、少年の言葉や行動の妥当性に言い返す言葉もない。さらには、容姿やしぐさまで日増しに自分とそっくりになっていく少年に、恐怖さえ感じるようになる。
再転校で少年と別れたのち、主人公は悪事に身を染めはじめる。しかし、罪を犯そうとするたび、自分と瓜二つの彼があらわれ、主人公を窮地に追い込む。彼から逃れるように、主人公はヨーロッパを転々とするが、どこにいても彼はあらわれ、主人公を断罪する。彼に対する憎悪を高める主人公は、ついに彼を殺す。
主人公に瓜二つの少年を、ここでは「善きウィリアム」と呼ぼう。善きウィリアムは、主人公の良心の象徴であり、彼の死は、主人公の良心の滅びを意味するようである。すなわち、この物語は、悪人の良心がいかにして滅びるのかを、主人公ウィリアムと善きウィリアムのせめぎ合いでもって表現している。
ポーの短編は、どれも理詰めの作品であり、あるゴール(ポーの狙い)に向かって物語が進む。それゆえか理解しやすく、読み終えたあとに腑に落ちた感覚が残る。謎めいた言葉、長たらしい導入部分、一見すると無意味な節が、終盤になっていきなりつながりはじめる。バラバラだった破片が、あっという間に一つの絵となり、読者に強烈な印象を残して幕が下りる。この作品であれば、冒頭の引用文―「何と言おうか、この真面目くさった良心 行く手に立つ亡霊」(チェンバレン『ファロンニダ』)―がこの作品のオチを暗示し、善きウィリアムが死ぬクライマックスは、読者の視覚にうったえる表現でもって、映像をみているかのような錯覚をもたらす。見事だと思う。教訓めいていないところが、人間のその実をあらわすかのようで、またさらによい。
推理小説的要素と映画のような迫力、そういうものがあいまって、ポーの作品は現代でもなお愛されているのだろうと思う。
引用
さあ、おまえの勝ちだ。おれは負ける。だが、これからは、おまえも死んでいると思うがいい。この世にも、天界にも、希望にも、無縁になったと思え。おれがいたから、おまえも生きた。おれが死ぬところを、ようく見ておけ。この姿でわかるだろう。これがおまえだ。どれ
だけ己を滅ぼしてしまったか知るがいい。―110頁
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古典ミステリーを読むシリーズ。意外に面白かったです。短編ホラーがたくさん。ホラー、これくらい短い方がインパクト強くて良いな〜。洗練された文章でした。
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翻訳の小川高義さんの力によるところもあるとはおもうけど、今から180年近く昔、日本では江戸時代の後期にあたる時期に書かれたとは思えないくらい読みやすくて面白かった。
特に「早すぎた埋葬」はものすごく怖かった。
「モルグ街の殺人」が推理小説の元祖だと解説を読んで初めて知りました。
いわゆるエンタメである「推理小説」っていうジャンルを確立したことが本当に凄いと思うけど、推理小説として面白いかどうかというとそんなに面白くなかった。
良心と邪悪さの対比や、ダメなことだと思えば思うほど実行したくなる人の心の描写がうまくてとても怖さを煽るけれど、ポーはお酒が原因で体調も精神も不安定だったようで、もし素で頭の中がこんな感じだったら相当アレだと思った…
巻末の解説、年譜、役者あとがきがとても読み応えあり。
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「黒猫」の恐怖を再認識。最後の段落の色彩表現に震え上がる。初読の際にトラウマになった「早すぎた埋葬」は意外にあっけらかんとしたラスト。「翻訳は一種の探偵業」と語る訳者による「解説」は必読。新訳文庫らしいお勧めの1冊
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推理小説の祖と思っていたが、いわゆる推理小説は一編、どちらかというとサスペンス、怪談という感じのものや、さらにはエッセイみたいなのもあっておどろいた。短編集なので読みやすい。
宗教観含めた内面も少し。
日本ではぎりぎり江戸時代だった頃らしい。それほど古臭く感じなかった。
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ポーです
もちろん再読ですが、当時は推理小説愛好家であれば一度は読んでおくべき必読の書として義務感みたいなのに駆られて読んだ記憶があります
基本的に頭のおかしい奴の妄言です
いろんな意味でなんか恐っ!てなる話なんですが、注意深く読み進めていくと、あれなんかちゃんとしてない?ってなるんです
唐突にあれすごいロジカルじゃない?っとことに気付くんですな
そこらへんが未だにポーが読まれている所以なのかと思ったりします
そしてポーと言えば江戸川乱歩の名前の元になったことでも有名ですよね
エドガー・アラン・ポー→江戸川乱歩
初めて知ったときに、すげーセンス!となぜか感動した覚えがありますが、本人は結構テキトーに付けたって話もあります
そしてそして探偵小説の始まりとされる『モルグ街の殺人』ですが、初めて読んだときに、なんかちょっとずるいって思ったのを思い出しましたよ
一番最初でこんなことしちゃだめだろって
もちろんポーは最初の探偵小説なんて言われることになるとは思ってもいなかったでしょうけどね
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表題作の一つである「モルグ街の殺人」(1841)は史上初の推理小説であるとのこと、また、他の短編の怪奇小説の味わいなどから、コナン・ドイルや江戸川乱歩に与えた影響をしみじみと感じた。一話が短いのでとても読みやすい(たまに難解な部分もあるが)。
本書には、恐らく笑うところではないと思いながらも、突き抜けた悪人ぶりがちょっと笑えるなぁと思った点がいくつかあった。
ポーは以前児童向けの文庫で(表題作を含む)一冊だけ読んだことがあったが、今回、「翻訳は一種の探偵業」という、訳者ならではの解説とあとがきを読んで、より楽しむことができた。一般論または抽象論(私には難しくてよくわからない)+本題という「話の運びが落語調」という指摘には大いに納得した。
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「黒猫」4
「本能vs理性:黒い猫について」3
「アモンティリャードの樽」3
「告げ口心臓」3
「邪鬼」4
「ウィリアム・ウィルソン」5
「早すぎた埋葬」5
「モルグ街の殺人」5
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「黒猫」1843年天保14年発表アルコール依存症により飼っている黒猫を惨殺しそっくりな黒猫に次第に追い詰められる恐怖小説「モルグ街の殺人」1841年天保12年発表記念すべき史上初推理探偵小説。頭脳明晰素人探偵デュパン登場。モルグ街二人暮らしの母娘惨殺事件。
娘はアパートの4階密室内の暖炉煙突に逆立ち状態、母は裏庭で首をかき切られ発見される。犯人が超意外でビックリ!!
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黒猫 この手の小説をあまり読んだことがないのでちょっととっつきにくかった。もっと感覚を鋭敏にして入り込んで読んだら楽しめるのかなと思った。
名作、有名作品と呼ばれてるのにぴんと来ることができなくて悔しかった。もっと味わって深くまで読むことができるようになろうと思った。
解説を読んだらなるほど面白いと思った。
けどやっぱり解説は少なくとも一度自分で読んだ後に読むべきだと思った。
アモンティリヤードの樽
これも少しわかりづらいと感じてしまうところがあったが、主人公とフォルトゥナートの間に何があったのかわからないところがよいそう。個人的にはフォルトゥナートがあんな状況でアモンティリヤード(ワイン)のことばっかり言ってるのがおもしろかった。
告げ口心臓
すごい面白かった。自分のことをおかしくないと思ってるすでに狂った人の話かな。
老人に関しても考察したら面白そう。
邪気
論評みたいな文が続いて、考えていると急に現実感のある人間の語り、リアルな世界に引き戻されるのが面白かった。してはいけないからこそしてしまう抗えない衝動。
あ、そっちの方なのねってなった。
ポーの作品には自分の心を発生源として自分で苦しんで破滅へ向かう人物が多いような気がする。
→これはこの短編集の作者がそのテーマで選んだそうだ。
ウィリアム・ウィルソン
信用できない語り手的な面があるのかと思ったけど別にそういうわけじゃないらしい。とっつきやすい話ではあった。面白かった。
早すぎた埋葬
欧州では19cは土葬が一般的で、だからこそ大衆は興味を惹かれたそう。自分はあまりピンと来なかった。
もっと目が覚めてる時に読んで最後のオチをちゃんと理解したい。
ポーが暗闇に対する恐怖を持っていたという知識を手に入れてから読んだらもっと深く読めたのだろう。
深い読みを手に入れるのは大変そうだ。
モルグ街の殺人
めっちゃ面白かった。結末が意外すぎた。江戸川乱歩のD坂の殺人事件を読んでいる時と同じ感情で読んでいた。
真の想像には分析がともなう。という作中の言葉の通りだった。世界初の名探偵デュパンの出てくる作品が他にも2つあるそうなので読みたい。
デュパンが、警察は想像が甘いみたいな、先入観に囚われてるみたいな感じのことを言っていて、自分も警察と全く同じだった。面白い。
解説も面白かった。なるほどと思うと同時に自分の読みの甘さを知った。
(メモ)ポーの作品は恐怖と分析のどのあたりに目盛りが触れるかを見ながら読むのが一つの指針とならりうるらしい。前者はとにかく迫る恐怖。分析しようがない怪奇。アッシャー家の崩壊など。後者はモルグ街の殺人。怪奇などない。
ポーは理詰めゆえ、結論から考えそこにたどり着く道筋を決めて読者を驚かすそう。
自分の決めた通りに読まれたがってるので、何も分からないか、モルグ街の殺人のように完璧に全てを示すかどうかの両方の傾向があるとか。
Posted by ブクログ
人間の内面に宿る狂気を浮き彫りにするような、共感をぎりぎりもてるような際どい作品群。
特に印象に残るのはやはり表題の2作品。モルグ街の殺人でもデュパンはまんまシャーロック・ホームズです。デュパンものは他に2作品しかないのが残念です。黒猫は、妻を殺したところが淡々と書かれかえって恐怖度が増し、物語に引き込まれます。
早すぎた埋葬は、もし自分が生きたまま埋葬されたとしたら…と考えずにはいられません。
ウィリアム・ウィルソンは壮大な前振りが面倒ですが読み終えた後に新しさを感じます。
江戸川乱歩やコナン・ドイルをはじめ後の小説家に影響を与えたことに納得です。
江戸時代後期に書かれた作品とは思えないほど近代の小説のテイストを感じます。訳し方の素晴らしさと自分の外国文化的観念のズレとは思いますが。
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黒猫、アモンティリャードの樽、告げ口心臓、邪鬼、ウィリアム・ウィルソン、早すぎた埋葬、モルグ街の殺人を収録。
飜訳が素晴らしく、明晰で平明なポーを読むことができる。
明晰で平明である分、作品の意図が明確に伝わってくる。
「黒猫」のラストシーンがこんなに鮮烈だということははじめて知った。
ポーの作品は、ずっと昔、創元推理文庫の「ポオ小説全集」でいくつか読んだことがあって、ここに収められた作品もその時通過していたはずだ。
その全集は、錚々たる飜訳陣を揃えたものだったが、たぶん重厚すぎたのだろう。こちらは文章についていくのがやっとで、内容を味わう余裕までなかった。結果、怖くも何ともない、ちっとも面白くないという印象しかなかった。
今回の新しい飜訳は、分厚い錆をこそぎ落としたら、下からツヤツヤした鋼板があらわれたという印象。ポーもなかなか面白いことがわかった。
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いやはや、ポーである。
普通の小説を「、」や「。」の句読点だとするならば、この短編集を読んだ読後の印象は「!」や「!!!」の感嘆符だ。
そんな印象を受けた僕が末尾の解説を読んで連想するに、ポーとは映画で言えばスピルバーグであり、漫画で言えば楳図かずおなのではなかったか!!と思うのだった。
「黒猫」~去らぬ黒猫の記憶=自虐の発露
「本能VS理性ー黒い猫について」~人間のみが理性的か?
「アモンティリャードの樽」~なぜ俺を罰しない!?
「告げ口心臓」~行き詰りの呵責
「邪気」~だめなことほどやってみたくなるだろう?
「ウィリアムウィルソン」~待っていたのは大鏡
「早すぎた埋葬」~マイナスベクトルの想像力パワー
「モルグ街の殺人」~戯画化された究極の分析力と知性
江戸川乱歩がこの名前を選んだのは、やはりベクトルが同じなのだな、と納得できた。
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本日2度目の『モルグ街の殺人』であるが(^^;)、これは素晴らしい!
翻訳は小川高義という方。『黒猫』『モル殺』はおそらく翻訳違いのをそれぞれ3つ以上は読みましたが、先ほど読んだ新潮文庫のポー短編集Ⅱの巽孝之の翻訳などに比べても圧倒的な読みやすさです。同時読み比べをすると、ワンセンテンスが短く、平易な語彙が用いられていることが明らかです。ポオの晦渋で格調高い文章を楽しみたい方にはおすすめできませんが、物語を全力で楽しみたい方にはこれがぴったりでしょう。
『本能vs理性 黒い猫について』
ポーの飼っていた黒猫を例にとって本能と理性の境界の曖昧性について説くエッセイ。知的生命体という驕りによって、我々は理性を神格化する。
『アモンティリヤードの樽』
こちらも犯罪小説。地下室、壁、モルタル、塗り固め、『黒猫』の人間版であり成功バージョン。やはり慢心は良くない。
『告げ口心臓』
なんとこちらも犯罪小説。『黒猫』の使い回し多すぎ笑 しかしこちらは異常心理を持った犯罪者ではなく、罪悪感によって心臓が掻き乱されるような等身大の人間でありました。
『邪鬼』
おいおいこれも犯罪小説だった。人間の行動原理は器官の作用によるもの。それとは別にひねくれた精神による作用「邪鬼」が存在するという。たとえば動機がないのが動機、というようなもの。それは魔性の情熱となり、人間を犯罪に駆り立てる。犯罪を白状させたのは理性かそれとも…
『早すぎた埋葬』 6点
こちらもどっかで書評済み…かと思いきやしてなかった。医学が未発達だった頃、生きたまま埋葬されることへの恐怖は尋常じゃなかったのでしょう。この作品集だけでも生者の埋葬は既に3作目、ポーはこのネタ多いよね。こちらはユーモア小説。ヨカッタネ
Posted by ブクログ
青い鳥文庫のパスワードシリーズを読んでミステリーの古典作品に興味を持って手に取った本。
血腥い話・恐怖心を煽られる話は基本的に苦手なため、1話読んで借りたことを後悔した。
しかし、モルグ街の殺人に辿り着きたい一心で読み進めた。(今思えば、そこだけ読めば良かった気もする)
前置きが長いのも、普段読まない作風で慣れていないと難しい。
お目当てのモルグ街の殺人。真相が意外で面白かった。表現はやっぱりグロテスクでゾッとしたが。
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黒猫は正直よくわからん。理性と本能?みたいな話だったかな?
モルグ街の殺人は面白かった!デュパンが考えていることをさささっと当ててしまうところ(このエピソード、モルグ街だったよね?)にすごく感心して、それに、動物が犯人だという、世界初の探偵小説なのに展開も斬新すぎてめちゃくちゃ記憶に残ってる
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狂人の描き方が見事。
短編でとっつきやすくスッキリ読める。
「モルグ街の殺人」は推理小説の祖としていまや超有名だが、内容を一切知らずに読んだのでとても新鮮に楽しめた。これはすごい。
全作通じて、個人的には推理小説的な要素よりも心理描写(特に狂人)に惹きこまれた。
Posted by ブクログ
表題作の『黒猫』に寄せた作品が6編と、有名な『モルグ街の殺人』。悪意と良心の葛藤という『黒猫』のモチーフが前面に押し出された構成。
似たような作品が続くので、ポーの書き癖が見えやすい。訳者あとがきで落語との親近性が指摘されていたがその通りで、最初に抽象的な一般論がだらだら続き、本編は感情の動きメインで出来事の描写は控えめ。そしていいところでストンと終わる。
注釈や修飾も多くストレスフリーな文体とは言えないが、それだけごちゃごちゃ言わなければ説明がつかないような奇妙な心情描写には妙に納得させられる。『黒猫』の「悪くなるために悪いことをしたいという得体の知れない願望」という一節には共感した。
巻末のポー年譜を見るに、ポー自身も作中人物のようなダメ人間だったらしい。そう考えると私小説のようでもあり、ジャンルもの小説の元祖とばかり思っていたが偏見だったようだ。
ポー作品の中でも偏った選び方ではあるので、姉妹編の『黄金虫/アッシャー家の崩壊』もそのうち読んでみたい。
Posted by ブクログ
謎解きミステリーにどんでん返しは私の大好物。
本作におさめられている「モルグ街の殺人」から始まった推理小説の歴史。
まさに原点となる作品をようやく手にしました。
本書は「モルグ街の殺人」以外にも「黒猫」「本能vs.理性ーー黒い猫について」「アンモティリャードの樽」「告げ口心臓」「邪鬼」「ウィリアム・ウィルソン」「早すぎた埋葬」の計8作からなる短編集。
「モルグ街の殺人」も60p弱の作品なので、サクッと読み終えました。
まるで詰将棋。
作者が決めた答えに導いていく思考は、今の時代の何気ない日常の中でも使える思考法で、作品の舞台裏を覗き見たような感覚を味わいました。
本作で謎解きをするデュパンこそが世界初の推理探偵であり、モルグ街…こそが推理小説の扉を開いた作品。
古い作品ではありますが、古さを感じる事なく読み終えました。
お見事。
説明
内容紹介
■黒猫の真の恐怖がよみがえる。眩惑へと誘う、ポーの決定訳
怪奇趣味の奥に仕掛けられた真の狙いとは。難解な原文の中に著者ポーが残した手がかりから、「現場」を見事に再現する、翻訳家=探偵の「名推理」がここに。
出版社からのコメント
■怪異と知性、恐怖と探索
推理小説が一般的になる半世紀も前に、不可能犯罪に挑戦する世界最初の探偵・デュパンを世に出した「モルグ街の殺人」。160年の時を経て、いまなお色褪せない映像的恐怖を描き出した「黒猫」。多才を謳われながら不遇のうちにその生涯を閉じた、ポーの魅力を堪能できる短編集。
内容(「BOOK」データベースより)
推理小説が一般的になる半世紀も前に、不可能犯罪に挑戦する世界最初の探偵・デュパンを世に出した「モルグ街の殺人」。160年の時を経て、いまなお色褪せない映像的恐怖を描き出した「黒猫」。多才を謳われながら不遇のうちにその生涯を閉じた、ポーの魅力を堪能できる短編集。
著者について
エドガー・アラン・ポー [1809-1849]
アメリカの作家、詩人。推理小説の祖とも言われる。計算された恐怖を創作する「理詰めの芸術派」。旅役者の両親に早く死なれ、27歳のとき13歳の従妹と結婚するが病気で先立たれ、職に恵まれず酒に溺れる。断酒会に参加したものの40歳で死去。主な作品に「アッシャー家の崩壊」、「黄金虫」、詩集『大鴉』など。
[訳者]小川高義
1956年生まれ。横浜市立大学準教授。訳書に『永遠を背負う男』(ウィンターソン)、『リリィ、はちみつ色の夏』(キッド)、『調律師の恋』(メイスン)、『灰の庭』(ボック)、『さゆり』(ゴールデン)、『停電の夜に』(ラヒリ)、『第四の手』(アーヴィング)、『骨』(イン)ほか多数。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ポー,エドガー・アラン
1809‐1849。アメリカの作家、詩人。推理小説の祖とも言われる。計算された恐怖を創作する「理詰めの芸術派」。旅役者の両親に早く死なれ、27歳のとき13歳の従妹と結婚するが病気で先立たれ、職に恵まれず酒に溺れる。断酒会に参加したものの40歳で死去
小川/高義
1956年生まれ。横浜市立大学準教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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推理小説にはまってから約20年経って初めて手にしたエドガー・アラン・ポーの短編集。
幾度となくタイトルだけは目にして知っていた「モルグ街の殺人」が推理小説の元祖(と名高い)という驚きと、そもそも推理小説と呼べるような作品が「モルグ街の殺人」のみだったことへの驚き。
他は、内なる恐怖を「世にも奇妙な物語」仕立てに描かれていて、謎解きでもなんでもなかったけれど、1篇自体が短いのもあって読みやすかったし楽しめた。
日本に黒船が来る前に書かれた作品ってだけでも驚き。
Posted by ブクログ
「モルグ街の殺人」は、探偵小説として楽しめたが、ミステリーとしては少し納得が行かない。
「黒猫」がポーの真骨頂なのかと感じる。矛盾したドス黒い感情がありありと伝わってきて面白かった。自分がどんどん暗い方向へ変わっていくのは一種のホラーで恐ろしいものなのか、それとも変化している自分にはそれはわからないのか。