あらすじ
今でも彼の指先が、耳の後ろの小さな窪みに触れた瞬間を覚えている。まずいつもの手つきでびんの蓋を開けた。それから一滴の香水で人差し指を濡らし、もう片方の手で髪をかき上げ、私の身体で一番温かい場所に触れた――。孔雀の羽根、記憶の泉、調香師、数学の問題……いくつかのキーワードから死者をたずねる謎解きが始まる。
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Posted by ブクログ
何が面白かったかとか、
どこが良かったのかとか、
言葉にするのはとても難しいけど、
読んでいてただただ心地良かったです。
敢えて言うなら文章が心地良い。言葉選びとかリズムが好きです。
最愛の人を突然失った女性のお話。
調香師の彼からオリジナルの香水をプレゼントされた翌日に彼は自殺…
それだけでもかなりの喪失感なのに、彼が死んでから彼に関する新事実がどんどん明らかになっていくので、物理的にそばに居ないという喪失感に加えて心の中にあった彼がどんどん崩れていく様な精神的な喪失感が積み重なっていきます。
彼が死んで"私の中の彼"を大事に手で包んでそれを拠り所に自分を支えたいのに、どんどん指の間からこぼれてしまって気付いたら手の中には最後にもらった香水しか残っていなかった…そんな感じ。
ルーキーの自殺の原因が結局分からないこともそうだけど、これだけの存在感がありながらルーキーの「人となり」というか「本質」というかルーキーという人が最後まで掴めません。周りにいる人はみんなルーキーに吸い寄せられるように惹かれながら、ルーキーを理解していた人はいなかったんでしょうねきっと。
香りって本当に過去の記憶を呼び起こします。
安心するにおい。
元気になるにおい。
泣きそうになるにおい。
良いにおいとはちょっと違う、自分だけの好きなにおい。
Posted by ブクログ
とても静かな最後になって、この作品にふさわしい終わり方をしたなと思う
まだ悲しさと静けさが漂っているかのような不思議な感覚が無くならない
結局ルーキーがなぜ自殺したのか、履歴書に嘘を書いたのか、関わった全ての人に異なった情報を与え続けたのか、答えは分からなかった。
ただ目の前に彼が息をして言葉を操って確かに存在していたことだけが事実、死んでしまった人の事で新しくわかることなんてそうそうないし真実は分からないことの具現化みたいな小説だったな
今現実に起こっていること、目に見えているもの、それだけがリアルでそれだけが思い出になる
死んでしまって過ぎた過去の中で生きていた人間はもう「記憶」の中にしか存在しないものになってしまう、それ以上でもそれ以下でもない
ただ、今までが嘘みたいに " そうであった、そうだったと思う、きっとそうだった " に変わってゆくだけなんだろうなと思った
記憶は書き換えられていくし人によって濃度も記憶する種類も異なる、一度過去になってしまったら最後 突然薄っぺらい写真のように紙のように平面になるだけ、それが記憶
人は死んだら最後、なにも残らず更新されずその瞬間で全ての時が止まるのだと改めて実感した
周りの人間しかり、死んだ人間しかり
ただそこにはちゃんと一人の人生があって思いがあって記憶がある、生活があった環境があった好きなことがあった
その全てが文字通り「凍りついた」ものになるの興味深かったな いつか私もそうなるんだし
人間、人生、不条理、冷淡、事実、って感じだった
私はこれから、これを超える作品に出会えるかな
Posted by ブクログ
結局夫がなぜ死んだのか明確な答えは記されずに終わるの、ふつうだったらそこにめっちゃモヤモヤしちゃうだけなんだけど、何故かすんなり受け入れられた。とにかくずっと漂う閉鎖的な雰囲気が大好きでラストもこれ以上はないなって思う
Posted by ブクログ
結論とか答えみたいなものはこの物語の中に明確に描かれておらず、すでに亡くなった人の足跡を辿る道のりは奇妙さと焦燥感があるのだけど、不思議と満足感を味わえる。
自分から傷つきに行ったり泥を被ることで、受ける傷の深さを想定の範囲内で済ませようとする人の繊細さ、優しさ、弱さ、強さを考えてしまう。
Posted by ブクログ
死んだ恋人の影を追っていく、記憶を辿る旅。
残された者の孤独と苦しみが美しい。静かな悲しみが芯から伝わって、長い走馬灯を見ているみたいだった。
Posted by ブクログ
主人公の夫が序盤から自殺してしまうが、亡くなった夫に対する悲しみや愛がひしひしと伝わる。読み進めていくうち胸が締め付けられる。さすが小川洋子さん!といった作品だと思う。