あらすじ
友人の死に導かれ夜明けの穴にうずくまる僕。地獄を所有し、安保闘争で傷ついた鷹四。障害児を出産した菜採子。苦渋に満ちた登場人物たちが、四国の谷間の村をさして軽快に出発した。万延元年の村の一揆をなぞるように、神話の森に暴動が起る。幕末から現代につなぐ民衆の心をみごとに形象化し、戦後世代の切実な体験と希求を結実させた画期的長篇。谷崎賞受賞。
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Posted by ブクログ
Jリーグ観るのが好きなのでタイトルが気になって読んだ。この作品においてフットボールとは念仏踊りであり、念仏踊りは歴史の再現なのね。Jリーグは差別に対して毅然と対応してくれるから、こうした懸念を払ってくれる。ありがたい。それはさておき、読むのに体力が要るけど次々と怪人が出てくるから何とか読めた。めちゃめちゃ面白かったのでみんな読んでここに感想を流してほしい。
アンニュイな語り手である蜜が、弟が恥辱に塗れて死ぬまで正論で殴り続けるところが好きだった。英雄になりたい欲を潰すことにかけては自分で「悪意の迫撃砲」とか言うレベルで容赦がない。で、終盤に100年前の一揆について重要な思い違いが判明して、一揆の首謀者だった曾祖父の弟諸共弟のこともまるごと再評価して敗北感を感じたりしちゃうんだけど、そこはもう大江健三郎あるあるの森で生まれ変わるターンに入っているからそうなっちゃっただけで読んだ限り弟が「幼稚なげす」であることは揺るがないよな…となるあたりも良い。冒険が必要→アフリカ行く、って雑さも良かった。
半世紀前の作品だけれど、ヒロイックに語り直された歴史に煽動される閉塞感を抱えた人々、というのはなかなか現代社会でも心当たりがあるようにも思える。とはいえそういう難しいことを気にせずみんな読んでほしい。
Posted by ブクログ
読後の衝撃たるや。それは深部に残り続けるだろうと思います。
友人の不可解な死に導かれ、夜明けの穴にうずくまる僕・根所蜜三郎。
地獄の憂悶を抱え、安保闘争で傷ついた弟の鷹四。
僕の妻・菜採子は、重度の精神障害児を出産してから、アルコールに溺れるようになった。
アメリカでの放浪を終えた鷹四が帰国したのを機に、苦悩に満ちた彼らは故郷・四国の谷間の村を目指して軽快に出発した。
鬱積したエネルギーを発散する鷹四は彼を支持する若者らの信奉を得て、谷間でフットボール・チームを結成する。やがて鷹四に率いられた青年グループを中心に、万延元年(1860年)の一揆をなぞるような暴動が神話の森に起こり…。
大江健三郎の最高傑作とも評されるのも頷ける長編。生硬かつ濃密な文体で綴られる、生きる苦しみ。
ひたすらに内省的な僕「蜜」は、27歳にしてすでに諦観の境地に達したか。
対照的に、その弟「鷹」は、自我を引き裂かれた怪物のような青年で、幕末の一揆を彷彿とさせる暴動を先導する。
「新生活」を始めるため、彼らは故郷・四国の谷間の村に行ったが、地元の青年たちの支持を集めてカリスマ性を発揮する鷹に対し、蜜は倉屋敷に閉じこもり思索に沈む。
内向的すぎてもはや何の行動も起こさない蜜にとって、鷹は血を分けた弟とはいえ、到底理解できる相手ではなく、憎悪の対象でしかない。
たしかに、幕末の一揆を引き起こした曾祖父の弟に自分を重ね、自己陶酔に浸る鷹は恐ろしい存在ですし、絶縁して当然ですが、蜜は弟の暴走を止める対話をできたのでは?しかし、そこは妻がずばり指摘してましたね。
それらすべてを抱え、蜜は再生に踏み出せるか。深遠な問いに読者も道連れにされる、果てしなく重い作品でした。
Posted by ブクログ
当時の大江健三郎のあらゆるエッセンスが詰め込まれた意欲作。
物語の設定とストーリーは、自身の故郷である愛媛の山間の村落、障害を患ったであろう子の誕生、戦後民主主義の中のアメリカ文化、学生運動と命をかける青春(跳ぶ、ほんとうのことなど)などの作者のバックグラウンドが複合して形作られている。
同時に、冒頭の難解な長文はロシアフォルマニズムの異化の手法、弟鷹四の村落への反乱とその消滅は当時からの有力な学説であった異人による日常への祝祭の現出を採用しており、それらをすべて一つの作品で詰め込んだ内容の濃い作品なのだ。
一度目を読むのに時間はかかるが、それだけの意味のある作者の最高傑作。
Posted by ブクログ
レビューすることを放棄したくはないけれど、
この作品を的確に言い表すのは難しい。
中盤まで文章は深く淀み、息苦しい。
得体の知れない嫌悪、不安がまとわりつく。
後半は物語が展開して文章的には読み進めやすくなるが
不安はますます確信めいて目を離すことも出来ない。
寝取られとか読んでるだけでも辛いよ。
これ以上苦しめないで!苦しまないで!
登場人物より読者のほうは思い悩むのは何故だ。
しかし最後前向きに終わるのに違和感がある。
どこに希望があったの……?
Posted by ブクログ
村上春樹『1973年のピンボール』のタイトルの由来といわれる作品で、村の共同体やスーパーマーケットに対する暴動、また主人公の弟鷹四が過去に犯した行為など、美しい自然の描写に反して、内容としてはグロテスクな場面が多い。