【感想・ネタバレ】永遠の森 博物館惑星のレビュー

あらすじ

〔日本推理作家協会賞受賞作〕全世界の芸術品が収められた衛星軌道上の巨大博物館〈アフロディーテ〉。そこでは、データベース・コンピュータに直接接続した学芸員たちが、日々搬入されるいわく付きの物品に対処するなかで、芸術にこめられた人びとの想いに触れていた。切なさの名手が描く美をめぐる9つの物語

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Posted by ブクログ

ほぼ現在と地続きなようで、少し遠いようで、脳内でネット検索ができるのは果たして便利なのかどうなのか。自分がそれをできるとしたらやるかなーどうかなーと思わず考えながら読んだ。内容はお仕事なストーリーで、ああ、近未来でもこういった面倒臭さは人と人が交わる限りなくならないのか…wと。主人公がそうなんだけど全体的にロマンチックですごく良かった。恋愛的などうこうではなく、その世界がロマンチック。

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2024年09月28日

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データベースコンピューターの名前がかっこいい。どの話も紆余曲折あるけど、登場人物たちがみんなあまり不幸せにはならないように終わってるところがいい。登場する様々な学問分野の話が物語の説得力とか奥行とかを増させてて、著者の頭の良さがうかがえる。ベストSFなのも納得

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2021年08月22日

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 2からSFマガジンで読んでいたが、1も1で面白い。こういう、進歩した世界における人の営みに重きをおいて書かれた作品はすごく好きだ。
 1つ1つで起承転結がありつつも、全体として大きな物語を描き出すような形だともっと好みだが、本作は1編の完成度が高く、様々な趣向が凝らされているのでそうでなくとも面白い。後ろの3つは結構しっかり繋がりもあって良かった。
 思わず唸るようなトリックがあるわけではないが、ミステリを書かれる作家ということもあって、推理小説風味の話の進行は興味深い。多岐に渡る題材からは、美術への深い造詣が伺える。専門用語が多く、想像力の及ばない箇所もままあるが、十分楽しめた。
 キャラクターは魅力に富んでいるし、丁寧な心情描写が胸に響いた。以下、各話の簡単な印象。

1話は若干の物足りなさを感じた。
2話は普通。
3話は言葉遊びに重点を置かれて面白い。
4話はこれまでとは毛色が違っており、ミステリ風味は控えめながら、好みな味わい。
5話はめっちゃいい。こういう細かな問題を扱う話は好き。攻殻の新劇場版を若干彷彿とさせる。
6話は題材が好き。
7話はテクニカルな感じ。
8話は図表があるともっと良かった。
9話は非常に良かった。とりわけキャラクターが魅力的。

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2020年10月11日

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まず設定に引き込まれる。

一編毎に程よい読後感がありながら、後半まとめ上げる感じが良かった。

美とは何か。
感情とは何か。
人間とは…といつの間にか考えさせられる本。

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2019年08月21日

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既知世界における「見物する」の目的語をジャンルをこえほぼすべて網羅する遠未来の博物館惑星を舞台に、学芸員・田代孝弘が出会う事件を描いた連作。

人に頼られたらむげにはできない優しく苦労性の主人公・孝弘のてんてこまいっぷりに笑ったり、「過渡期の技術」の一言で忘れ去られた往年の先輩に対し

「可哀想だって思うことと、哀れに思うことって、違うわよね」

と胸中を吐露するネネに切なくなったり、データベースと直接接続する学芸員の特権に酔い痴れて「反省?なんですかそれ?僕エリートだし」といわんばかりに幼稚なマシューに心底むかついたりと魅力的かつ個性的なキャラクターにはすんなり感情移入できる。

どこの職場にもある上司や同僚との軋轢や人の話を聞かない困ったちゃんの後輩など丁寧に描かれる人間関係の機微が固くなりがちな芸術論の緩衝材となり華々しくアカデミックな会話に絶妙のユーモアを添える。

中でも「ラブ・ソング」は秀逸。
ラストシーンの美しさは圧巻。

芸術を難解に語る言葉をもたない妻が漏らすたった一言の「綺麗ね」を軽んじていたと主人公が猛省する場面に思わず貰い泣き……

主人公の美は対象物以外を夾雑物として除く峻厳な美。
妻・美和子の美は対象物以外のものをも含み全体を成す豊穣な美。

だからこそ主人公は美術品の鑑賞中に隣にいる妻を忘れ
美しいものに接した妻は「愛する人とこれを見たい」と望む。

「貴方みたいに上手く説明できないけど、とても綺麗ね」

抱擁する手は包容する心。
美しいものを美しいと素直に感じる心があり、愛する人が隣にいれば、世界はきっと美しい。

愛することとは互いに見つめあうことではなく同じ方向を見ることだ。
ラストシーンの二人にその言葉を捧げたい。

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2017年08月26日

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先進的なSFのギミックを効かせ芸術に関するモチーフがたっぷり入った連作短編集。絵画・音楽・彫刻・舞踊だけでなく多くの芸術群が登場するが、それらを扱う学芸員は、あるいは人は、どう向き合うのかといった芸術論が展開する。将来ムネモシュネーのようなデータベースやインターフェースが生み出されるのだろうか。それを使える後世の人たちが羨ましい。
素晴らしい作品ばかりだが中でも「きらきら星」が一番好きだなぁ。

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2014年10月10日

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舞台は地球衛星軌道上、世界のあらゆる「美」を蒐集する博物館惑星<アフロディーテ>で勤務する学芸員の日常がささやかな謎とともに描かれる。サイバーパンクなガジェットもそれで知性体とやりあうわけでもなく。SF版日常の謎とでも言おうか、あくまでも人と人や「美」とは何か、といった言ってしまえば地味なテーマが多いが、それをもって余りある美しさ、完成度。音楽を奏でる絵画、雪の中響き渡る篠笛、水の音色、そして弾けるピアノの音。どの篇も良いけど、「ラブ・ソング」のクライマックスほど美しいシーンは滅多にないだろうと思う。

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2016年01月17日

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ネタバレ

最近の生成AIブームを横目に、そういえば脳内で直接AIみたいなものと会話できる設定の小説があったな、と思い出して再読。
接続するAIのバージョンで性能が少しずつ違って、初期バージョンの人が、会話中にじっとしなければならなくなる…という設定が妙にリアルで印象に残っていた。

前にこの本を読んだときは、まだAIなんてかけらも自分たちの手に届くところにはなかったのに、ほんの20年でここまで来るなんて思わなかった。
にもかかわらず、人がつながった先の女神たちは今読んでも違和感がない、どころか、ChatGPTの先には彼女たちがいるだろうと思えるほどで、作品のすごさを思い知る。

技術の進化は芸術分野から始まるんだと言ったのは、中学のときの先生だったけれど(変わった先生だった)、なんだかそれを改めて実感する。

惑星ごと博物館という舞台と、女神たちと脳でつながっているという設定を隅々まで活かした短編は、心地よく読めるのに、少しずつ引っ掛かりを残し、芸術とはなにか、人が人であることはなにかという大きな問いへの答えまできっちり回収していく構成は見事としか言えない。

全体に漂う“博物館っぽい”妙に静謐な雰囲気と、そこで働く面々のけだるさがなんだかうまくかみ合っていて、とても好きな作品。

なにより、自分と直結したムネーモシュネーが欲しくなる。ChatGPTをちゃんと使いこなせば、近づけるんだろうか。

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2025年05月17日

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こんなロマンティックな
SF小説には今まで出会った
ことが無かった。

まるで少女マンガの様な設定に、
ギリシャ神話の女神たちの
名を冠したデータベースやAIなどを
組み合わせて、
唯一無二の世界観を作り出している。

普段SFを読まないという
女性の方にもオススメです。

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2025年04月19日

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連作集。ネット上にあふれるさかしらな言説を振りかざす方達も、もともとはその対象に純粋な気持ちで関心を持ったはず。学ぶことは大切だし、データベースを充実させていくことも大事だけれども、それらはなんのためのものなのかを忘れてはいけないと感じさせられました。

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2022年09月20日

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終始きれいな穏やかな物語だった!

SFだと聞いて読み進め、あれ?ミステリ要素強め??とちょっと戸惑いました。
切羽詰まった感じはなく、日常系のような優しい物語が続きます。

美しい風景がほわ~んと頭に浮かんでくる素敵な小説です。

感嘆詞として形容詞を使っちゃう美和子さん、わたしも同じタイプなのでよくわかります。美術館に行くのは好きだけど、作品たちから何を感じとればいいの!?少し焦る感覚もありました。そんな気を張らずにもっと心から作品に身を委ねるだけで良かったのか〜と感じました。
もう何年も美術館に行けてないけど、また落ち着いたら行きたいなあ〜

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2022年05月29日

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地球の衛星軌道上に浮かぶ人工惑星。そこは地球のあらゆる芸術品を収容する巨大博物館<アフロディーテ>。主人公の田代孝弘はこの博物館で働くいち学芸員。脳外科手術により、芸術に関する膨大な知識を集積したデータベースに直接接続することができる学芸員は、そのテクノロジーを駆使して収容される芸術品の価値を確かめ、その意義を問う。ただし、田代孝弘が所属する総合管轄部署<アポロン>は、専門部署間の調整役が主な仕事であり、彼は常に厄介ごとに巻き込まれるのだが…

うーん、なんともロマンチックな連作短篇集。
それぞれ扱われる芸術作品に主眼を置きつつも、それを取り巻く人間模様がメイン。SF的バックグラウンドもしっかりしており、雄大な自然を有するアフロディーテの描写も相まって、本当にこんな博物館があればいいのにな、と切望してしまったり…

そもそも設定がおもしろいですね。芸術とSFを結び付けた作品はたぶん探せばいくつも出てくるのでしょうが、ひとつの惑星がまるまる博物館で、そこに収容される芸術品をめぐって学芸員がドタバタさせられるというのは、なんとも微笑ましい限り。というのも、よく読むSF小説は、異星人と接触したり、タイムトラベルしたり、地球に危機が訪れたりと、どれも穏やかではないからです。本書は日常系SFみたいな感じで、ゆったりと読み進めることができました。

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2021年05月19日

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芸術を理解しようと探究・分析を進める毎に、美しさからは離れてしまう矛盾。舞台はSF、テーマは芸術、語り口はミステリーだけど、読み終わったら美と愛についての感動的なドラマだった。

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2021年01月20日

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芸術を扱う惑星を舞台としたお話。SFとミステリーを合わせたような感じの作品。全体的にロマンチックな結末で物語として楽しめたし、植物の葉の着き方がフィボナッチ数列になってるとかいう話が出た時は知的好奇心刺激されて色々調べてしまった。

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2020年11月03日

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地球の衛星軌道上に浮かぶ、全世界の美術品と動植物が集められた博物館惑星「アフロディーテ」、データベースと脳を直結させた学芸員、そこで起こる様々な事件にまつわる、SFと芸術とミステリー要素が混淆した物語。という設定だけで堪らない。

様々な要素がある分どれもやや物足りなさはあるが、総合的な設定が秀逸なので余り気にせず楽しむことができた。SF的美術品の数々も面白い。そして何より、芸術を味わう/楽しむってどういうことだろう、というのを改めて考えさせられた。なぜ我々は、美しいものを見て美しいと感じるんだろう?

余談だけど。黄金率が鍵となる物語「きらきら星」を読んで、地球外生命体に向けて放たれた衛星ボイジャーのゴールデンレコードを思い出した。地球人のみならず、知的生命体はロマンチストなのかもしれない。

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2020年10月26日

購入済み

この作品の世界観がとても好きです。どこかノスタルジックな雰囲気で心惹かれます。爽やかな読後感でお気に入りです。

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2019年11月20日

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大昔読んだ気がするが、内容は覚えてなかった
仕事帰りの電車の中で読んでて、最後の最後で泣きそうになった。結末は予想してたんだけど、なんかね、仕事で疲れてたせいもあるけど、いいなあって思った。
続編買いました。

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2019年06月22日

Posted by ブクログ

この作者は初めて読んだが
岡崎二郎作品(『国立博物館物語』は微妙に違うが)にとても似ている
同一人物が書いているといわれても違和感ない
そういうわけでマンガと比較してしまうからかもだが
読みやすいが全体にやや回りくどいかも
芸術は題材であって主題でないのも物足りない
これは無理もないか

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2019年01月12日

Posted by ブクログ

SFと芸術。
一見接点が遠いように思えるが、読んでみると違和感はない。

短話がいくつも連なっている形式だが、毎回別の芸術ジャンルと別の展開が待っていた。
加えて最終話への導線も各話に少しずつ盛り込まれている。

舞台が同じ作品が他にあるなら読んでみたいと思うが、無いなら無いでいい。
この一冊で十分満足した。

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2017年11月24日

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設定はハードSFなのにリリカルな読後感。
わりと大騒ぎな事件もあるのに、全体的にしんと静謐な空気が感じられて、初めて読んだ作家さんだったが、かなり好み。特に最後の「ラブ・ソング」がロマンチックでよかった。

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2016年01月15日

Posted by ブクログ

とても"綺麗"で優しいSF。
芸術やら美術とテクノロジーを融合させた話は読んだことがなかったのですが、面白い。

イメージや「だいたいこんな感じ」で脳と直接接続したデータベースから検索できる技術も、そのうち実現するんだろうなという感想。
今の技術だと、キーワードによるGoogle画像検索で概念がなんとなく調べられるので、それの超発展系のような感じか。

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2016年01月15日

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ゲージュツというのは、一般人ならこの絵が好きとかこの本が面白いとか適当に言ってれば良いけど、博物館とかの専門家にとってはそうもいかないんだろうかなぁ、と。でもフィギュアとか挙句の果てにはスキーのジャンプにまでゲージュツ点みたいなものが付き始めると、その結果に対するもやもや感が半端なく、そうなるとゲージュツを客観的にとらえて点数付ける事が機械でできるようになるのも悪くないか。
というストーリーではなく、男はやっぱりロマンチストという話だった。

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2015年08月31日

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博物館惑星アフロディーテで起こる美術品などについての問題を、コンピュータ(でいいのか?AIではないし…)と脳を直接接続した学芸員が解決していく話。コンピュータでぱぱっと解決するのではなく、結局は想像力やロマンで解決するのがいい。
しかしながら、マシューは最後まで好きになれず、ミワコの魅力もよくわからん。

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2015年03月20日

Posted by ブクログ

久しぶりにSFを読んだので、その世界観に馴染むまで戸惑いましたが、綺麗な読みやすい文章なので読み進められました。
案山子と呼ばれる所長や、困ったちゃんの後輩、気の合う同僚と人間関係も愉しいし、展示物も想像力をかきたてられる。
最後の杮落し公演の場面は、映像を想像しながら読んだ。

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2014年05月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「これは評価されるべき良作だが私は嫌いだ」というのがこの作品の感想。
芸術を題材にしたSF作品は珍しいと思うが、珍しいだけに終わらず2つの要素がどちらも高いレベルであり(;本編中の芸術に関する記述はどれも本当に美しい)、そこに加えて登場人物の人間描写も緻密である。複数の賞を取るだけの作品だと思う。「嫌い」という思いはこれら物語の本質ではなく、設定や登場人物の性格などが私と合わないことから来ている。

『解説』にあるように本作は6年間(単行本への書き下ろしを加えるなら7年以上)をかけて投稿されたものである。そのためだろうか、途中で作品の雰囲気が変化している。
前半部分は現代に近い時間軸の芸術作品をメインにしており、SFとしての設定は甘めで味付け程度。登場人物も少なく手の届く距離の小さな物語が並ぶ。中盤以降は近未来(;作品内の時間軸としては過去、読者から見ると未来)の技術を用いた芸術作品が登場するようになり、科学的な設定も細かく具体的になって登場シーンも増えるので、よりSF作品らしさが増していく。ひとつひとつの物語のスケールも大きくなり、複数部署を巻き込む話やアフロディーテ全体、さらには博物館を超えた大きさの事件を扱っていく。

SF設定については作品内での科学技術のバランスはあまり考えられておらず、生物学に関する部分は現代から近い未来の堅実な設定であるが、環境工学などの工学的内容はそれよりも進んだやや遠い未来のレベル、物理学に至っては魔法に近いレベルで遠い未来の技術となっている。
特に博物館に関する技術は「魔法」と同義のフレーバーだと感じた。「作品を収納・展示するのに困らない広大な土地と、極端な環境も含め芸術作品を維持・展示するために最適な状況を整える魔法」としてのSF設定(ファンタジーに近い)だと思った。
ただ、本作の面白さは、科学技術が発展していくなかでも人間が美しいと感じる心は失われることはなく、それぞれの技術レベルに合わせた美の表現があると描き出している点であり、また、時代が移っても現代と何も変わることのない人間心理(『解説』に因るなら『どこか傷を抱え苦しんでいる』様子)を繊細に描きながら美と科学技術とも上手く混ぜ合わせている点である。SF設定の粗だけを突くのは野暮というところだろう。

SF設定はやや粗いと思う一方で、未来予想のような科学技術に対する優れた描写もある。
8話のデータベースとの接続を絶たれるシーンでは主人公らが右往左往する様が描かれているが、これは現代でもインターネットから切り離されることで誰もが感じるところではないだろうか。現在は私を含め多くの人が知識や(コミュニケーションも)をインターネット上に”外付け”している。専門家でも論文やデータベースでの検索はコンピュータ任せで紙や脳内に完全に収めている人はまれだろう。インターネットが未発達だった本作の発表当時よりも現在の方が多くの人が実感を持って読める部分ではないかと思うとともに、その状況でデータベース(≒ イターネット)への依存をよくイメージしたなと感心した。
最終話の美和子がガイアを育てるところはAIを教育していく過程(教師あり学習やディープラーニングだろうか)を彷彿とさせる。当時のAIはまだ、事前にすべての情報を辞書のように詰め込んでどんな状況にも対応できる即戦力としての考え方が一般的だったと思うので、その中で機械学習の概念を盛り込んでいるのは随分先進的な考え方だったのではないだろうか。



褒めるところはたくさんあるのだが、嫌いな部分の印象が強く「このシリーズは続きを読まなくてもよいかな」と感じている。
どの話も本題に入ってからは気持ちよく物語が進み、途中の展開も面白く、結末も心が温まるような気持ちの良い余韻を残して終わるのだが、そこに入る前の前置きの印象が悪い。主人公の愚痴(妙に生々しいものもあり辟易する)が多く長く、それに加えて前半の内容では毎回底意地の悪いゲストキャラクターが登場してイヤな動きをし、後半は疑問を感じる設定が続いて導入での不快感が強い。この不快な部分がページ数の半分から2/3を締めるのでせっかく気持ちよく話を読み終えても次の冒頭から「またか・・」と気分が盛り下がってしまう。

ゲストキャラクターの性格もだが、主人公である田代孝弘の性格に共感できないこと、全く合わないことも私がこの作品と合わない原因のように思う。実際、孝弘がほとんど登場しない4話、5話は良い話だと感じ「この流れが続けば」と思ったのを覚えている。
孝弘の主な気に入らない点はコミュニケーションの不足と学芸員としての姿勢で、どちらも最終話の伏線なのかもしれないが終始イライラさせられた。コミュニケーションの不足については一言言えば良いだけのことをバカみたいな行動をするせいですれ違い、大ごとになっている。このことに全く共感ができない。「調整部局の奴がこんなことってある?」と思ってしまう。
それぞれの話の導入時に主人公が常に及び腰なのもいただけない。この手の仕事は「難しい問題が来た時ほど面白い」というような感性の人でないと務まらないので「こんな役人みたいな事なかれ主義の奴は向いてないよ」と思ってしまう。相棒のネネの方がよほど学芸員として向いている性格や描写がある。主人公は若いのに向上心を失って無気力に仕事をやり過ごしているように見える。広く深い教養を身につけた者とはとても思えない描写が多く、新しい物事への好奇心も探究心も見えない。「付け焼き刃」のようなその場をやり過ごす表現が多く、詳しくないことを知ろうと踏み込む様子も無い。この辺が非現実的で全く共感できなかった。

後半は組織に関する設定に無理があり過ぎ、入り込めない。前半の物語は「主人公の業務のなかで印象に残った一場面」という感じの小さなお話なので組織の拙劣さは目立たないが、人類を巻き込むような規模になる後半は博物館組織の粗も無視できないようになってくる。
アフロディーテは宇宙一の博物館であるのに人員が少なすぎる。スミソニアンの職員が数千人規模であることを考えれば、面積的にも数万人かもう一桁大きな規模の職員が必要である。その規模の組織で学芸員が所長と気軽に直接やりとりできるはずはなく、彼らの部署の管理者はどうなっているのかという疑問が湧く。アポロンが所長直轄の少数精鋭の組織であるならば所属する学芸員は下位の組織よりもかなり権限が強くなるはずで、作中の名目だけの木っ端役人のような描写とは合わない。逆に博物館全体がテクノロジーを生かしたコンパクトな組織だというなら協働する学芸員は皆、多かれ少なかれ顔見知りであり揉めるにしてももう少しマシなやりとりになる。また、少ない人数で専門的な仕事を回すなら頻繁に他の部局と揉めているような暇はないだろう。どうも描写とあるべき組織の規模が合わずモヤモヤとする。
マシューのような人間を好き勝手させているのもヘンで、世界中の貴重な美術品を大規模に収集している施設でそれらを平気で毀損しそうな人物に首輪を付けられない、上司も出てこないでは組織としての統制がとれていない。
終盤に入ると設定の奇妙さから違和感がさらに強くなる。
8話ではこの規模の組織で広報に関する部署が存在しないのもおかしい。担当でもないただの学芸員が世界的な発見で報道担当をするハズがない。非常時に隔離できるとはいえ世界中の芸術作品が収められている環境工学の粋を尽くした替えの効かない小惑星を未知の物体の分析拠点にする点や、学芸員と研究者だけで地球外の物質の分析を行うことも異常だ。
9話では実務経験も無く、たとえ専門分野の博士や修士を持っていたとしても現場から長く離れている美和子が世界最高峰の学芸員に簡単になれてしまう点や、内部の人間が全く知らされず不信感だけが漂う新しいシステムの秘密裏の運用(:実際、主人公に情動記録の逆流という事故が起きている)、大事なイベントに合わせて行われる新システムの始動、と杜撰すぎる設定が気になってしまう。生物学の専門家がいるであろう担当部署を無視して行われた、何の管理もされていない「雄花と雌花の“実験”」と称するものもエイリアンパニックの導入部(= 大惨事)になり得ると思って閉口した。

どうもアフロディーテのイメージがあべこべなので、あまり大風呂敷は広げず前半のような小さな話にとどめ、それらが全体として緩いつながりを持つ形態にしておいた方が良かったのではないかという感想を抱いた。

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2025年01月28日

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面白くないわけではないものの、今ひとつ入り込めず、途切れ途切れに読んで、かなり時間がかかったかど、最後の3作は一気に読んだ。

入り込めなかったのは、あまりに設定が人工的、技巧的というか、細部まで作り込まれていて、この世界のルール、常識が判らない身には、書かれていない部分をを想像できない、受け身でしか読めない感が強かったからと思う。

後半はもう少し人の内面に踏み込んだ話になってきたので、読みやすかったのかな。

まあ、綺麗なSFではある。

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2021年05月02日

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ネタバレ

国産SF読みたいなーーーと言ってたら教えてもらった作品。
舞台はSFやけど、雰囲気はミステリーって感じかな。でもテーマは一貫してラブだったよラブ。頭に機械埋め込んで、ものいわぬ物品を扱いながら、心と愛情を見つめなおすお話であった。

Ⅴ抱擁はSFだなあと思ったし面白かった。最先端て、すぐ古くなるからね。最先端て古いんだよ。

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2020年10月31日

Posted by ブクログ

2001年のベストSF、星雲賞、日本推理作家協会賞。宇宙に浮かぶ惑星の博物館、音楽・舞台・文芸、絵画・工芸、動植物各部門をもち、人類の芸術品を収集・分析・研究・育成している。新婚の学芸員が遭遇する謎とその解決、9連作短編集。

さすがの受賞作。アートの謎には、感性、情熱、祈り、憧れ、そして愛がある。部門間のいつもの対立に悩む調停役..という連作お定まりの定型句も、最終話のラブストーリーにつながるとは。

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2019年09月18日

Posted by ブクログ

10数年ぶりに再読。
初めて読んだ頃の私は、まだあまりパソコンに馴染みがなくて、”バージョン”とか”接続”とかいうことの意味が本当にはわかっていなかったなあ。
このお話が最初に書かれたのは1993年。SF作家の想像力ってすごいもんだ。

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2015年07月18日

Posted by ブクログ

未来の宇宙に浮かぶ小惑星に設立された博物館の物語。
学芸員タカヒロがいつも通り館長から無理難題を言いつけられる。
音楽が聞こえる絵に美術的価値があるか?
SFっぽい舞台でおこる珍事が面白い。
ほのぼのと読めそうな短編集。

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2014年12月08日

Posted by ブクログ

SFで学芸員が主人公の話って、基本的に私好みではあるのですが、軽いノリのこじゃれたおはなしに仕上がっております。未来の学芸員は脳が直接コンピュータと繋がっており、データベースを自在に操るのである。
それでいて主人公は絵画、音楽、自然という分野の調整役で現代のサラリーマン同様、各セクションの好き勝手な要望のとりまとめに日々頭を悩ませているのである。この設定は面白いのだが、舞台が地球と月のラグランジュ・ポイントに設定された美術館星という設定が話を軽くしているのである。
できればルーブル美術館のあとに建った美術館というような地に足がついた設定にしていただけるともう少し重厚感もでた話になったのではないかと思うのである。

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2014年11月03日

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