あらすじ
「うちはしあわせになってはいけんのじゃ」愛する者たちを原爆で失った美津江は、一人だけ生き残った負い目から、恋のときめきからも身を引こうとする。そんな娘を思いやるあまり「恋の応援団長」をかってでて励ます父・竹造は、実はもはやこの世の人ではない――。「わしの分まで生きてちょんだいよォー」父の願いが、ついに底なしの絶望から娘をよみがえらせる、魂の再生の物語。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
母に薦められて読んだ本。
全く何の知識もなく読み始めて、まえがきで原爆のことなのだとわかり、覚悟して読む。
読みながら、思いがけず3.11の津波のことを考えた。津波の後、この作品の父と娘の別れの回想と同じような体験談を読み、胸がえぐられた。全編通して、とても辛いのだけど、父の思いが前を向いていて、救いがある。
原爆の資料集めやその際の言論が占領軍によってコントロールされていたのは知っていたけど、民間人がひしひしと感じ、そして話せない沈黙の中でどれだけのものが失われ続けただろうと考えると、やるせないし、また、原爆被害にあったものの子孫として、自分のこれだけの距離感はこの「話せない」「話さない」ことに根をもつものであり、そうであるならば、辛くても積極的にもっと読み、次につないでいかなければならないと感じた。
「太陽二つをすぐそこに1、2秒」という原爆の描写は、子どもにもわかる描写でシンプルに、だからこそ恐ろしい。この小さな劇は私の中でずっと生き続ける。
薦めてくれた母に感謝。
Posted by ブクログ
原爆直下という生きているのが不自然な状況を生きた人の話。
映画を観て、文章で読みたくなって。
広島弁は未だに「仁義なき戦い」のイメージからか、言葉として強い印象があったけど、この作品の柔らかい広島弁が良かった。
p. 80 美津江:あんときの広島では死ぬるんが自然で、生きのこるんが不自然なことやったんじゃ。そいじゃけえ、うちが生きとるんはおかしい。
p. 106 美津江:おとったん、ありがとありました。
Posted by ブクログ
演劇も映画も通ったことがないのに、戯曲から入るのはアリなのか…?と思いながらも読み始めてみたら、やっぱり面白かった
世界でたった2つ、原爆が落とされた地、広島と長崎
今作は広島に住み、原爆ですべての身寄りを失った若い女性、美津江に焦点を当てている。
美津江が親友・父を失った時の記憶を語る場面では、やはり原爆の本当の苦しみは経験した人にしかわからないのだろうなぁと、戦争を自分と遠いものにしてしまいそうになったが、恋に落ちてしまい葛藤する美津江と、そんな美津江を優しく見守りながらも応援する父・竹造の広島弁でのやりとりが温かく、物語に入り込むことができた。
作者あとがきと解説にあるように、竹造とは美津江が自分で作り出した幻像であり、実際は「恋を成就して幸せになりたい美津江」と「生き残った申し訳なさから、自分が幸せになってはいけないと思い込む美津江」の対立を軸に物語が進んでいる。
これは「生きている死者・竹造」との対話なのだ!という解説にももちろん納得したが、答えはとっくに美津江自身の中にあったのだ、とも読めるなと思った。
Posted by ブクログ
戦争で自分だけが生き残ってしまった娘の心中の葛藤が綺麗に文章によって著されていた。一人二役だが、そうに見えない。麦湯のシーンなど所々に垣間見える、父がこの世に居ないと表現する描写がとても良かった。
1人の娘としての幸せをつかみたいという希望が、父となって現れ、罪悪感に苦しむ娘を幸せに導いていく。しかし、最終的には父が娘との最期の別れのシーンをを語った。死者しか持ち得ない記憶を娘と語るこのシーンから、父は唯の娘の願望の擬人化ではなく、あの日原爆で亡くなった人々の思い出を含んでいたことが分かった。
原爆の苦しみ、取り残されたものの葛藤、死者との別れ様々な物が取り込まれ最後に綺麗に纏まって終わっていた。読み終わった後にとてもスッキリとした。読んで良かった。
Posted by ブクログ
おもしろい。りくつぬきに、おもしろい。何なんだろう。すべての登場人物がすべてやさしいからだ。美津江さん、おしあわせに。明日は私の娘の彼があいさつに来る。どうやっていじめたろうか?!