【感想・ネタバレ】夏帆―The Tale of KAHO―のレビュー

あらすじ

私はこの世界の出口を見つけなくてはならない――。女性を主人公にした初の長編小説。「正直いって、君みたいな醜い相手は初めてだよ」 26歳の絵本作家、夏帆は初対面の男にいきなりこう告げられた。とびきり美しくも賢くもなく、ただ少しばかり好奇心の強い彼女は、怒りよりもショックよりも、ただ純粋に驚いた。しかしそれから彼女の周りでは、実にさまざまな奇妙な出来事が起こりはじめる。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

『人生において体験する深刻な混乱の大半は、原因と結果の間に等価性が見いだせないことによって生じるということだ』

『善き物語とは必ず何かしらの有用性を含んでいるものなのだから』

主人公の夏帆は、物語中で数々の深刻な混乱を経験し、その経験と等価の結果を得た。

____
初読みの村上春樹作品。旅先で発売当日に購入。


どんなずっしりした作品かと構えていたが、いざ読み始めてみると、次の展開が気になり、ページを捲る手が止まらなかった。

夏帆が経験したのは、非現実でありながら、れっきとした「現実」の物語であった。ありくいの夫婦、モーターバイクの男、とぎや、シロアリの女王など、ニッチな登場人物が、SFを繰り出していく。現実にはあり得ない展開ながら、地に足つけたまま読めるというなんとも不思議な読書体験。作中作品の絵本も、読み応えのある物語だった。

後半は手に汗握る展開となったが、最終的に、夏帆が自分を信じて行動したことで、母親との関係においても、微かながら展望がひらけていく。

奇妙な光景がありありと目に浮かぶ物語だった。


...ブラジルと夏帆を繋ぐ秘密のピットホールがどこにあったのか、気になっている。

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2026年07月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

優れた物語は読者をして「これは私の物語だ」と確信せしめ、読者ごとの多様な解釈を導く。
自分も優れた物語に導かれ、自分なりの解釈を行ってみたい。

村上春樹は、フェミニズムのいうシスターフッドを信じない。
何の根拠もなく、ギブもなく、女だからというだけで互いにエンパワーできるような、都合のよい関係性は存在しない。守護天使は女性にとってほとんど目一杯不快かつ危険な男であり、母親とシロアリの女王の「女子寮の女友達」のような親密な関係は、母親の生命を蝕む。

そして、人は幼年時代を葬らずに大人になることはできない。
母親に愛されなかったこと、母親を愛していないこと。母親との間に親密なものがなかったこと。
そういった親ガチャ、独親のようなものに縛られている限り、大人にはなれない。
そういう親のクソな部分(子から見てクソでない親はいない)を自分とは全く別の存在の一側面と見て、憎むでもなく受け入れるでもなく、フラットに把握すること。それが親の影響下から脱することであり、親離れすることである。
夏帆が母親を刺すのは、幼年期の夏帆にとっての悪しき母親像を抹消し、母親を純粋な他者として捉え直すプロセスに他ならない。

そういうしんどい経験を通じてしか、人は大人になれない。
繰り返すが、互いが互いをなんの犠牲も必要とせず無限にエンパワーするようなシスターフッドの楽園は、存在しない。
では村上はアンチフェミニストなのか?
否。
村上の物語では、シスターフッドは成立しないが、ホモソーシャルな関係もまた必ず崩壊する。
ネズミ、五反田君、キズキ、免色。
男同士の、根拠なく心を開き合える関係は、一旦成立してから必ず終わる。
村上にとっては、損なわれる可能性を常に孕んだ他者、自分と異なる理解できない存在との関係性だけが、永続する可能性を与えられる。
損なわれうる可能性に耐えろ。理解できない絶望を乗り越えろ。不安や不快を克服することでしか、人は他者と共存し得ない。そういうことのできる大人になるしか、生き延びる道はない。

これが村上のある種の長編で繰り返し暗示されるメッセージだと考える。
たまたま村上が異性愛を書いているだけで、仮にも村神が同性愛を書くとすれば、やはり理解し難い他者との間の損なわれうる関係性だけが、永続する可能性という特権を与えられることになるだろう。

夏帆も、母親を刺すことで、母親をそのような存在として新たに捉え直す。
そうすることで、夏帆と母親との関係性が続く可能性が確保されたことが示唆される。
異性間か同性間かは問題でない。
共生とは、互いに涙と血を流しながら、身体から流出する体液の分量を最小限に抑える試みに他ならない。
人生が、あなたに要求するだけのタフネスを身につけ、大人になって、生き延びてくれ。
それが、村上が本能的に読者に伝えたい彼なりの愛のこもったメッセージである。

とワイは思ったで。

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2026年07月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

高校1年の時に学校の図書室で「羊をめぐる冒険」を読んでから著者の小説はすべて読んできました。

それから約30年、こうして著者の新刊を読めることが先ず何より幸福なことだと感じます。

これまでの著者の小説やインタビューに登場してきた小道具から、これまでの著者の作品を多数思い出しました。

「海辺のカフカ」「1Q84」「騎士団長殺し」「木野」「蜂蜜パイ」「日々移動する腎臓のかたちをした石」「品川猿」「街とその不確かな壁」など。

「あちら側」と「こちら側」
「善きもの」と「悪しきもの」
「そうであったかもしれない可能性」
「地下二階」
「物語」
「総合小説」

女性が主人公であることで、これまでになかった「弱さ」と「強さ」の角度が新鮮な視点だった。そして母親と家族も。

換骨奪胎と言ってしまえばそれまでだけれど、多かれ少なかれ物語は「どのように語るか」の方が大切なのだ。

夏帆は著者であり、私であり、あなたでもあるかもしれない。

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2026年07月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

最高だった。
新作を読む度にいつもの村上春樹なのにどこかアップデートを感じる。自分が1番好きだから感じるところもあるが、村上春樹の本はどこか遠くに自分を連れて行ってくれる。
初の長編での女性の主人公とのことだが、村上春樹にとっての主人公はあくまでも受け皿のようなもの、何かしらのフォーマットのようなものであって、男性、女性は関係がないのかしれない、と思った。いつもさらっとぶち込まれる受動的な性的な行為のシーンがないだけで相変わらずサンドイッチを作って食べて電話にも出ていたし。
武蔵境に関してはタヌキが出るとか、辺境の地だとか何の用事もないだとか無茶苦茶な書かれ方をしていた。何の恨みがあるねん。

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2026年07月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

一言でまとめるならば夏帆が母親について振り返り、母親に対する想いを確認する話だったように思う。シロアリの女王と武蔵境で対面した夏帆は、母親に対する疑念が強まっていて嘘の言葉をほとんど鵜呑みにしてしまった。なんと悲しい。シロアリの女王が棲まうのはお話しの世界だけでは無いよなあ、と思った。悪い行いをする善き者はかなり多く存在するのだ。
物語にピストルが登場するなら、それは必ず発射されなくてはならない。今回もそうで、とくべつな刃物で、無事にシロアリの女王を撃退する。翌朝目覚めた母親は初めて夏帆に親密な言葉をかける、これはどうしてなのだろう。武蔵境に来たことは忘れていても、母親は夏帆が自身を救ったことに気づいていたのだろう、と考えた。
守護天使ってなんだ。そしてこいつはかなりいけすかない男だな。水平対向エンジンがなんだ。
ありくいの奥さんはとてもキュート。後半もいいのだけれどありくいの奥さんがナビゲーターとなって話が進んでいく序盤が好きだった。
ミソラの物語は悲しい。ぺちゃんこになってしまうなんて可哀想に、そしてそれまでやりたくもなかったドッヂボールもやるようになるのか、どうしてこんな結末に?ぺちゃんこになることは夏帆が胸を突き刺すことの示唆なのかな?ミソラが変わったように、母親もシロアリの女王と分離するだけでなく何かが変わったのだろうか。

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2026年07月05日

ネタバレ 購入済み

愛と感謝

いったい、なんの意味があって女性が母親の性的な姿を思い浮かべねばならないのだろう?
読みながら「母親」という言葉から自分の母親を想像してしまったのは私だけではないのでは?
村上春樹は大勢にそんなことを想像させたかったのだろうか?
途中から本と自分の世界を切り分けて読んで、客観的に映像を見るかのように読み進めたものの、
なぜ、娘が母親の乳房を観察しなくてはならないのか?と少々不愉快だった。生理的に不愉快だった。
寝てたらどんなに形の良い乳房でもふっくらはしない。

女性には描けない物語だったろう。

読むんじゃなかった。
それともどこかに高尚な解釈でもある?

子供が山で置き去りにされるところも、なぜ多くの日本人が(村上春樹の読者は少なくない)少女が山で1人きり…ってイメージを想像することになってしまうのか。潜在意識で大勢がイメージしたことって現実になりやすいのに。

まして、読者は何回、キリのような刃物を寝てる他者の胸に刺すことを脳内で再生させられただろう?

ディズニーが買い取ってからのスターウォーズみたいに、大切な私たちのヒーローが息子によって殺されるのとおんなじような不快感と残念さだった。

娘が母親を殺すのはなんのメタファーなの?
どんな意味がこの物語にあるの?

作家に倫理を求めるわけじゃないけれど、どうして村上春樹がこれを書いたんだ?シロアリの女王が彼に書かせた?

読み終わった全ての読者の心に愛と温もりが訪れますように。

#シュール #怖い #ダーク

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2026年07月10日

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