【感想・ネタバレ】雪の火祭り 吉村昭初期中篇・短篇集のレビュー

あらすじ

未発表原稿「新月」収録! 若き日より生と死を見据え、達観した筆致で人間の在り方を問い続けた作家・吉村昭。後の大作につながる初期の貴重な作品集、初の文庫化。真の生き方にせまる表題作他、全九篇。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

著者の初期である昭和29年から46年にかけて書かれた中短編集。

結核を患った著者の心情や独自の健康法も組み入れられている。

これまで読んできた「破獄」、「漂流」、「三陸海岸大津波」、「桜田門外ノ変」などから、硬質な文体で男の世界を描いたり、静謐なタッチで淡々と綴るのが著者の作風であるという概念を持っていた。

しかし、この作品集には、そういった要素はなく、ストーリー性が豊かで読みやすく、分かりやすいものばかりだ。

ラストに出てくるタイトル作の中編が特に面白く、あっという間に読んでしまった。
義母とうまくいっていない女子高生がシャンソン歌手を目指して上京、苦労しながら演歌歌手になるが、受刑を全うした同郷の友人が地道に生きる姿を見て、身の振り方を考え直すというストーリー。
歌手を目指す人々が、どんな経路をたどり、どんな苦労を味わうか、かなりのページを割いて描かれており、庶民目線で楽しませてもらえた。

「新月」は、結核で肋骨を削除され、骨にこだわりを持つ男が主人公。鼠や蛙の解剖を趣味とする少女知り合う。
「鯛が骨だけで泳いでいる」写真に魅せられ、鳥羽まで出向き、帰宅すると、妻が女児を出産していた。
知り合った少女が赤ん坊を見に来て「子守をさせて」と言い出す。主人公が、解剖を思い出し、不安を抱く場面で終わる。
なんとも、ブラックな余韻が残る作品だ。

「母の化粧」は、金に困った男が、悪党ぶる友人を誘い、二人で夜に母の寝室に潜入、姿を悟られないようにして母を脅し、金を奪う。
その時、母の背後に別の男がいた。
母は、離婚していたが、息子の留守を見計らって計画的に男を引き入れていた。
その後、母と息子は、平穏な日々を送るが、ある時、母が息子に情事の現場を見られたことを知り、自ら命を絶つ

この他、小豆島の遍路宿で手伝いをする娘が、好感を抱いた男の意外な素性に呆然とするが、最後は、優しい気持ちに至る「掌の記憶」、若い妻に不倫された年上の夫が、妻が実家で自殺したことで、逆に義理の親から冷視される「早春の旅」など、波乱含みの展開に加え、興味深い題材、暗さのある松本清張の推理小説風の要素も盛り込まれ、読後感は非常によかった。

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2026年02月12日

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