あらすじ
「どうしたらよいか迷った時は、自分の損になる方を選ぶといい」小学校の担任坂部の信念と優しさに強い影響を受けた北森竜太は、タコ部屋の朝鮮人労働者を匿う温かい家庭で成長し、昭和12年に教師になった。炭鉱町の小学校で「綴り方」の授業を推進するなど教育の理想を目指す竜太のもとに、言論統制の暗い影が忍びよる――。戦争に突入する昭和10年代の事件と世相を背景に、青年教師の愛と苦悩を描いた感動大作。
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Posted by ブクログ
80年以上も前の事件、それに巻き込まれる羽目に陥った人物という題材を軸とした物語で、30年も以前に発表された小説ではある。が、そういう「何十年前」という変な旧さは微塵も無い。現在の時点でも考えさせられる内容を大いに含む小説だ。
美瑛を訪ねた際に、十勝岳噴火の災害に纏わる話題として小説『泥流地帯』が知られているということを何度も聞いていて、思い切って入手して読んでみた。実質的な上下巻ながら、別作品扱いである『続 泥流地帯』と併せて読み、これが非常に好かったので「同じ作者の別な作品」と三浦綾子作品を何作か続けて読んでみた。何れも、新聞や雑誌の連載で初登場、そして単行本が初めて登場という時期が半世紀やそれ以上も前という作品だった。
三浦綾子は『氷点』でのデビュー以降、概ね35年間の作家活動という経過が在る。その活動の後期というような頃には、少し体調も好くなかったということだが、1990年代にも深い問題意識で幾つもの作品を発表している。その1990年代の作品と言っても、既に30年程度も以前ではあるが。
本作は少年時代に小学校の教員を志すようになり、その道へ進んだという北森竜太という青年が主人公だ。作中の殆どの部分がこの北森竜太の目線で綴られている。
上巻は北森竜太の少年時代、長じて教員となり、教員としての活動に励みながら、同じく教員となった子ども時代からの馴染である女性と幸せな家庭を築くことを夢見るようになって行くという展開である。昭和に元号が改まったような頃から、昭和17年頃迄の経過となる。
この竜太の来し方が描かれている旭川での場面だが、昭和の初め頃の雰囲気が活写されていて凄く読ませる感じだ。そして教員となって赴任するのは空知管内の炭鉱町である。この炭鉱町の雰囲気が、何か凄くリアルに伝わる感じだ。
そして教員としての活動に関することだが、「あの時代の学校?」という様子が非常に詳しく描かれる。そして熱心に授業に取組む竜太達の様子も凄く引き込まれるモノが在る。
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前半は素晴らしい教師との出会い。教師になることの素晴らしさを知り、教師になって婚約者もでき、ハッピーな予感、という感じ。
後半は戦争真っ只中の中、人々が亡くなる様子が書かれていて戦争なんて2度と繰り返して欲しくないなと思った。
戦争って人も物も感情も何もかもを奪っていき、残るものんて無いんだよな。
自分がどんな状況に置かれても、自分の信念だけは貫き、大切な人を守れる自分でいようと強く思った。
すごーーーーく読み応えのある素晴らしい本でした。
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教師の狭くも深い世界を、主人公の成長を楽しみながら垣間見ることができる。いとこの楠夫との対比は主人公への理解を深める上でとても効果的だし、主人公の純愛も美しく清涼感溢れていた。子供ができたら読ませたいなと思わせるフレーズがいくつもあった。
物語が転回する下巻も楽しみ。
Posted by ブクログ
昔、NHKのドラマで綴方教室をテーマにしていたのがあったが、ちゃんと見ていなかった。その原作を探したがこれというものは確認できなかったが、これがテーマとしては一番合致していた。
上巻は主人公が教師になるまで、そして、なってからどのような考え方をしているかを描いている。いわゆる受難は下巻から。
師範学校出の教師のあまりの純粋さに驚くばかり。これは三浦綾子の特有のものかもしれないが、世情のうとさ、ひとつの価値観への盲信、時代かもしれないが、もどかしさを感じる。
だからこそ、「石ころのうた」なのかもしれない。
Posted by ブクログ
主人公が塩狩峠の人に似てる!
不穏な時代でも、自分の信念を貫いてる人たちがでてくる、見習いたい。
竜太、政太郎、美千代、芳子、坂部先生、沖島先生、木下先生等々。
「迷ったときは、自分の損する方を選んだらいい」
「人間は誰でも、尋ねられたくないものをもっているもんだ。隠しておきたいことは、聞いても語らんだろうし、聞いて欲しいことは、聞かんでも自分で語るもんだ」
「自分の人生をいきるということは、いわば真っ白な布の上を歩いていくようなもんだ。そこに記された自分の足跡が乱れるのも乱れないのも、自分の責任だ」
チェーホフ『孤独が恐ろしかったら結婚するな』
Posted by ブクログ
教師になろうと思っている人に是非読んでもらいたい本。
戦争によって言語、思想統制が行なわれる中で、どのように教え生きてゆくのか、時代が違っても主人公の「教育」に対する熱意は、現代の教育にも通ずるものがあると思う。
教えるということの難しさを再確認できた作品。
Posted by ブクログ
戦時中の昭和を舞台に、主人公が教師を目指し、そして戦争に巻き込まれていく。
言論統制により、見に覚えのない罪に問われ、教壇を下りることとなる主人公。自由に、ものを言えない、思想を抱くことのできないことの恐ろしさを感じさせられました。
本書の中に度々出てくる「神」というテーマ。正しい行いをしている者が必ずしも幸せな生涯を送るわけではない。神がいるならば、正しいものにこそそれに見合った幸せな人生が与えられるものではないのか・・・。正直、私もそう感じます。しかし、「見返りを期待して、正しい行いをしているわけではない」のです。自分の中の神様に背かない生き方をしたいと感じました。常に、自分に向けられている銃口・・・それを感じていなければならないのかもしれません。