【感想・ネタバレ】ノーメイク鑑定士のレビュー

あらすじ

考えてみれば、人に「化粧をしていますか?」と訊くのは「大便したあと尻を拭きますか?」と訊くのに似ている。

「御社にスッピン社員がいる」という取引先の一言から、塗装会社の営業部員・中村に、「スッピン女子捜し」の密命が下る。
あの手この手で同僚たちの化粧事情を探る中村。しかし、彼女には秘密があった。
実は中村自身が、人生で一度も化粧をしたことがないスッピン女子なのだった――(ノーメイク鑑定士)。

働くみんなの日常は、事件で溢れている。
気鋭の著者が綴る、新時代のお仕事小説全四篇!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

吐く毒が小さくていい。大きな社会問題に切り込むわけでもなく、心のそこからの罵倒でもなく、相手の言葉の隙を突き、日常に旨く潜んでいるハラスメントに対しての肘で小突くような皮肉によって、テンポよく面白く読むことができる。
一篇目の「フットブレイク」では、語り手がとにかく人間味にあふれていてよい。普通の平社員であり、一般的な上司を持つ語り手は、その状況に合わせて自らの行動や感情を揺れ動かしている。注意されたらちょっと腹立っているし、心の中で毒を吐く。本当は気づいていたけど、指摘されたときに初めて気づきましたみたいなリアクションをとる。そして、否定もむなしく水虫であると断定されてしまい、そのときに限り仕事を与えられなくなった語り手は、相棒のパイプ椅子に鎮座しながらも、自らが何も動かなくていい状況に、王のように微笑む。
普段は押さえて生活しているが心の中では案外慌ただしく、雰囲気に応じた調子の乗り方を見せている。そんな語り手の日常のワンシーンを切り取った本篇は読んでいて心地よい。
表題作の「ノーメイク鑑定士」では、メイクの有無と顔面の綺麗さを旨く結びつけることができない人間たちがシニカルに描かれている。これぞ石田夏穂といった一篇で、求めていた要素がふんだんに詰め込まれており、大変満足した。普段メイクをしている人から見ても、イェスかノーかを見抜けない顔面をしている語り手だからこそ、より他の鑑定士たちが皮肉的な目線で写っている。
語り手と谷本さんや原田さんのメイクしているか否かの、疑い合いがどこかライアーゲームを見ているようで面白い。そんな勝負はもちろん語り手の圧勝で終わったが、見破るが見破られない語り手は勝ったといえるのかわからない。見破られるよりも先に自白しているのに、相手によって勝手に施されたメイクが決して剥がれない状況に、思わず笑みがこぼれる。

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2026年03月30日

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