あらすじ
作家を志して上京した青年小泉純一は、有名な作家を訪ねたり、医科大学生大村に啓発されたりして日々を過す一方、劇場で知りあった謎の目をもつ坂井未亡人とも交渉を重ねる。しかし、夫人を追ってきた箱根で、夫人が美しい肉の塊にすぎないと感じた時純一は、今こそ何か書けそうな気がしてくるのだった。――青春の事件を通して、一人の青年の内面の成長過程を追求した長編。(解説・高橋義孝)
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Posted by ブクログ
純一の成長、というよりは、なんでもない日常 のように見えた
上京して、新しい人に出会って、経験が増えたからといって文才が育つわけではないし、
純一はきっと、大きく成長したりはしない これからも不条理な感情を持って、やらなければならないことを後回しにする ただ、流れるように、時が過ぎて行くだけ
Posted by ブクログ
小泉主人公に感情移入するにしたがって、自分の嫌な部分を暴かれるような嫌な気持ちを味わった。
大村青年は『ノルウェイの森』の先輩と似た雰囲気があったように思えた。
頻出するフランス語が瀬戸放浪人との対比なのか、注釈との往復が大変だった。
誘われ行った福住は、坂井夫人は岡村画家と親密な関係を築いていて、ありありと眼前でその光景を見せつけられている。しかも大晦日の夜だった。
もし、この光景を見せつけるために招いたのなら、裏切りでもなく羨むでもないこの余韻はなんだろう。良い気分ではなかった。
読後感?(読後感という言葉は慣れていたないが、余韻としてあまりよいものではなかった)。
とはいうものの、小泉主人公の目線から言えば恋人ではないのに、どうして坂井未亡人の元へと向かったのが、恋愛ではないと言っているくせに、それは情欲のためかとするならば、その裏切りとかそういう感情は、違うだろうと言えるが……。
Posted by ブクログ
上京した純朴な美青年小泉純一が、医学生の大村や法学者の未亡人坂井夫人との交流を通して世間を知っていく話、のように思えた。特に前半では、キラキラした目のきゅるんとした純な少年、といった感じの描写をされている純一が、坂井夫人に出会ってまんまと(?)「男の貞操」を捧げてしまったあたりから、人間はいかに生きるべきか、自分は真の自由を持っているのか、そんなことを当事者性を持って考えている気がする。大村は純一の精神面の成長に、坂井夫人は身体を持った一個の人間としての成長に寄与している。純一は自分の精神の自由、選択の自由をあえて意識しながらその実、自分の欲望の前に自分は自由ではなくて、あれこれ言い訳をしながらも坂井夫人を訪ねてしまうのを自覚している。それが、坂井夫人を追うようにして行った箱根で坂井夫人が画家の岡村と一緒に夫婦のようにして過ごしているのを目の当たりにして、もうこの生活をやめようと自分で決心し、今こそ文章が書けるような気がしてくる。リルケだったか、詩を書くためには恋をすることや瀕死の病人の手を握ることや、人生の経験を積むことが必要だというようなことを言っていたような(慶應文2008年の小論)記憶があるけれど、それと同じで、上京したてのただ純粋なだけの青年には書けなかったものが、自分の中の葛藤や嫉妬や制御不可能なものや、人生のいろいろなままならなさを知ることが、文学者としてのスタート地点だよなと思った。