あらすじ
「ときどき思うのよ。偶然って、本当にあるのかしらって。この世には、私たちには見ることも、思い描くこともできない複雑な糸がはりめぐらされていて、その壮大な布の中では、どれもが、あるべきところにあるとしたら……」(本文より)
降魔士の少年・ジェードは、神と魔物、光と闇が共に宿っているとされる、神聖でありながらも恐ろしい聖域<闇の大井戸>で、魔物から聖なる蝶を守る役目を負って暮らしていた。ある日、ジェードの相棒である少女・ルクランが、聖なる蝶が舞い上がって来る予兆の鬼火に触れる事件が起きる。他の降魔士たちと違い、なぜか、予兆の鬼火に激しく反応してしまうルクランは、聖域を守る者のなかで波紋を呼んでいた。自分がなぜ、そんな反応をするのかを知りたいと願うルクランと、ルクランを守りたいと思うジェード。それぞれの思いをよそに、ふたりは壮大で複雑な運命の糸に絡め取られていく。
1999年から2001年にかけて、上橋菜穂子の代表作である『守り人』シリーズの創作と並行して執筆されたこの物語は、のちの『獣の奏者』、『鹿の王』、そして『香君』にもつながる、作者の創作の軌跡を知ることができる貴重な作品でありながら、これまで書籍化されていませんでした。
この物語は、人と人との関係だけでなく、人間と他の命ある存在との繊細で複雑なつながりを描きたいという著者の想いから生まれました。
執筆から二十年以上の時を経て、円熟の域に達した著者の手で加筆修正され、力強くも美しい物語へと成長した物語が、ついに世界へと解き放たれます。
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Posted by ブクログ
と〜〜っても上橋先生らしいと思いました!
上橋先生の作品で育ってきた私からすると、気持ちよく心に馴染む物語でした。
前情報で数十年前に書かれた作品と知りながら読んだので、読みながらこの作品のテーマはとても香君に近い!?と感じた時は物語そのものではなく上橋先生の変わらぬ興味にワクワクしました。あとがきでその事に触れられていて、心の中で「ありがとうございます。」と拝みました。
香君を書き上げられた後にこの作品を再発見されたということが、また素晴らしい奇跡なのかなと思います。
Posted by ブクログ
上橋菜穂子のファンタジー世界好き。
人々の暮らしとか食べ物とかの描写に押し付けがましくなくて読んでて楽しい。
人間も蝶もラムラーも大きな花に寄生して生きているということを何代か前に認めてしまえば話は単純だったけど、そこは教団とラシェラン人の利権みたいなのがあるんだろうな……
Posted by ブクログ
若き上橋さんが紡いだファンタジー。
いやあすごいなあ。
ファンタジーとしてのイメージが鮮烈で美しくて強烈。
そして闇の大井戸や鬼火や神の蝶、蝶の影の正体に意表をつかされ驚かされた。
それにしても相変わらず世界観の説明が絶妙。
読み始めてすぐにすっと初めての世界に飛び込んでいける。
いやすごい。
守り人シリーズを描いていた時期に執筆されたと言うことだけど、たとえば伝承の歌の中に真実が隠されているのはもちろん『精霊の守り人』を思い出したし、そのイメージのスケール感は『闇の守り人』を彷彿させる。
これは若い頃にしか描けないお話かもしれない。
そう言う意味では最近の作者の作品は、科学的な正しさを意識するあまり、ファンタジーとしての奔放さに少し欠けるきらいがあると感じていたのだけど、このお話はまさにファンタジーとしての豊かなイメージと驚きを与えてもらった。
書籍化に感謝。
Posted by ブクログ
上橋さんらしい素敵な作品。
あとがきの出版されるまでのストーリーも素敵。
「人が、花や蝶と共に生きていることを知り、その生命の巡りの中で幸せに生きられる、そんな世を作ってくれ」
Posted by ブクログ
回収されない伏線(っぽい意味深な設定)そっちのけで大団円を迎えるボーイミーツガールパート。上橋菜穂子先生何があったの⁉ と思っていたのですが、あとがきを読んで納得しました。二十数年前に子供向け雑誌で連載されていたものだったんですね。それを今、書き直さず最小限の修正だけで出版する上橋先生の器に敬服しました。
ジェードがいい子過ぎてなんだかいつもよりページをめくる手が遅くなってしまった。神官を目指しているジェードが相棒のせいで成果を上げられない…16歳の子供がその状況で相棒にあたらずにいられるかと思うと、降魔師たちが訓練し絆を深めていく過程がもっと見たかった気がする。
手放しで絶賛できなくても、この物語を読むことで自分が上橋先生の作品の何に魅力を感じていたのかわかった気がします。
私はきっと人のことなんて気にも留めない命のつながりと何とか折り合いをつけようと権力の目を盗んで真実を伝え続けるマイノリティの伝承に魅力を感じていたんだなと再確認しました。