あらすじ
世界最大の自転車レース「ツール・ド・フランス」のはじまりは、1903年。新聞の拡販キャンペーンとして実施されたことに由来する。そして、2013年6月29日から開幕する大会でちょうど100回目を数える。本書では、歴史を積み重ねてきたツール・ド・フランスのスポーツとしての魅力を、これまでの名勝負・名選手にまつわるエピソードから抽出し、歴史を育んできたフランス、ひいては欧州文化の土壌を紹介する。(講談社現代新書)
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マジでこれ。ロードバイクは脚の負担がほぼ無い。体の負担が小さいランニングみたいなニュアンス。だからランニングハマれない人は基本的にロードバイクの良さそんな分からないと思う。あと自転車だからランニングよりも長い距離行ける。
マイヨ・ジョーヌ (フランス語: maillot jaune) は、自転車ロードレースのツール・ド・フランスにおいて、個人総合成績1位の選手に与えられる黄色のリーダージャージである。 各ステージの所要時間を加算し、合計所要時間が最も少なかった選手がマイヨ・ジョーヌ着用の権利を得る。
山口和幸
スポーツジャーナリスト。ツール・ド・フランス取材歴30年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
ツール・ド・フランス (講談社現代新書)
by 山口和幸
「バラバラバラ」というヘリコプターの大爆音が上空から降りそそぐ。おびただしい数の競技車両、カメラマンを乗せたバイクがあわただしく先を急ぐ。観客たちのボルテージは最高潮に達しようとしていた。そこにフランス憲兵隊の先導バイクが赤色灯を回してやってきた! 「ああ、やってきたぞ! 大集団だ」 カラフルなジャージに身を包んだ選手たちの一団がついに目の前に現れた。その平均時速は 40 km を超える。数時間前から沿道に陣取っていた観客たちの鼻先を、そんなスピードであっという間に通過していく。
ここでは「ツール・ド・フランスっていう名前は聞いたことがあるけど……」という人のために自転車レースの概要と、その中でツール・ド・フランスがどんなカテゴリーに属し、どんなステータスを有しているのかを簡単に紹介してみたい。
自転車はサイクリングなどの気軽なレクリエーション、通勤・通学時の便利な移動手段、荷物を運搬する効率的な道具など、さまざまに活用され親しまれている。元F1レーサーで冒険家の片山右京はこの競技に関しても造詣が深いが、「自転車は子どものときに手に入れる最初の冒険道具だよね」と、取材時に彼の口から聞いたことがある。 まさにそのとおりだと思った。
そんな生活の一部とも言えるシンプルなツールである自転車を使って、勝敗や着順を争うのが自転車競技だ。欧州の人たちにとっては、「自転車なんて毎日乗っている。でも、あんなに速く走れないよ。さすがにあの山は上れないよな」という 憧憬 の念があり、自転車のプロである選手たちをリスペクトする。 そんな土壌をベースとする欧州の人たちによって、ツール・ド・フランスは親しまれ、鍛え上げられてきたのだ。
100年の歴史を持つ伝統レース
ところで、その国土を一周するロードレースは欧州それぞれの国にある。その開催日程はおおむね国土の広さに比例する。つまり、スイスには 10 日間程度のツール・ド・スイスがあり、英国にも1週間前後の一周レースがある。一周するのに3週間以上が必要なのはイタリア、フランス、スペインの3ヵ国で、そこで行われる一周レースが最大規模になったのは自然の成り行きだ。
マラソンのトップ選手がシーズンで数回しかレースに出場できないのに対し、自転車選手はなぜ 23 日間も走り続けられるのかと言えば、路面からの衝撃で体を痛めることが少なく、自らの体重もペダル、ハンドル、サドルに分散でき、ストレスが一部に集中しないことが理由のひとつだ。だからサイクリングはだれでも無理なく継続することが可能で、そのためフィットネスに最適だと言われている。
峠の上り坂はそんな絶好の勝負どころなのだから、決定的瞬間を見ようと世界中からファンが押し寄せることになる。 激 坂 になればなるほど走行スピードは遅くなり、また集団もバラバラになるのでひいき選手をしっかりと見届けることができる。
絶景の中で繰り広げられる壮絶なドラマ。これこそツール・ド・フランスを国際的な人気スポーツに押し上げた最大の理由である。
そんな力ずくの作戦を取りながらも、それと同時に最新鋭機材を次々と導入していく。 流線形状で空気抵抗を削減できるエアロ加工の自転車フレームやパーツを最初に駆使したのはイノーだ。スキーのビンディングと似たような構造の固定式ペダルを使用した。あるときはヘルメットをエアロに。ウエアもエアロ。スポーツサングラスもだれよりも先に愛用した。イノーのこだわりは自転車産業界そのものを飛躍的に進化させたほどだ。
現役引退後はツール・ド・フランス主催者の渉外担当、わかりやすく言えば「ツール・ド・フランスの顔」に就任。今でもレース会場には欠かせぬ存在である。本書もそんなベルナール・イノーの実績から語り始めなければならないだろう。
初出場・初優勝の栄冠を勝ち取ったイノー
そして、最終的にパリに凱旋したときにだれがマイヨジョーヌに袖を通すのか。つまり、それがツール・ド・フランスの総合優勝者。地上で最も強い男なのである。簡単に言い切ってしまえば、ツール・ド・フランスとはこの1枚しかないマイヨジョーヌを争奪する戦いである。 前述したが、ゴールの着順に応じて得点が与えられ、その合計で競う「ポイント賞」は緑色のマイヨベール。峠の通過順に得点が与えられる「山岳賞」は、白地に赤い水玉をあしらったマイヨブラン・アポワルージュ。 25 歳以下の総合成績で競う「新人賞」は純白のマイヨブランである。
麓 のブールドワザンからラルプデュエズ入口までのコーナーには 21 から1までの数字が振られている。世界中から自転車を 携えてやってくるサイクリストは、最初の「 21」コーナーで路面に足をつくほどの厳しさだという。さすがにプロ選手は苦しさに顔をゆがませながらもカウントダウンしていくのだが、 22 歳の新人であるフィニョンはこの年、ゴールまで苦悶の表情を浮かべることはなかった。
「マイヨジョーヌ以外はアクセサリーだよ」というイノーの発言は総合優勝がねらえる王者の意見であって、それは極論だ。キング・オブ・スプリンターが勝ち取るポイント賞も、上り坂の王者を象徴する山岳賞もツール・ド・フランスの歴史に刻まれる立派な記録である。
ベルギーは欧州屈指の自転車大国だ。隣国オランダに平地を得意とするゴールスプリンターが多いのに対し、内陸のベルギーは起伏に富む地形で過酷な自転車レースにうってつけの環境が整っている。自転車競技史上最強と言われるエディ・メルクスを筆頭にして、ベルギー勢は開催国フランスに次ぐツール・ド・フランス優勝回数を誇っているのだ。
「マイヨジョーヌが似合うよ」というイノーの祝福を、レモンが無視したのは言うまでもない。 その翌日はツール・ド・フランス最高の舞台と言われるラルプデュエズだった。バカンス時期のアルプスに熱狂的な自転車ファンが集結していた。麓からゴールまでのコース脇は、自国の英雄が6勝目を達成すると信じたフランス人ファンの人垣で埋め尽くされた。 そんな大舞台。マイヨジョーヌを着るレモンはここで稀代の芝居を演じるのである。
しかし、タイム差は 50 秒。最終日の第 21 ステージ、パリ郊外にあるかつての王宮ベルサイユからパリ・シャンゼリゼまで、わずか 24・5 km という距離で逆転は可能なのか。世界で最も美しいと言われるシャンゼリゼ大通りは完全封鎖され、革命200年に酔うフランスのファンは、マイヨジョーヌのフィニョンがその姿を現す瞬間を待っていた。だれもがフィニョンの勝利を疑わなかった。
フランス革命時代には、ルイ 16 世やマリー・アントワネットが断頭台の露と消えたコンコルド広場にも 50 人からなる音楽隊がスタンバイしていた。表彰式で総合優勝者の栄誉を祝す国歌を吹奏するためで、すでに楽隊にはフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」の楽譜が配られていた。
ところで、アンクティル時代のプロ選手は、現在と同じように企業やブランドの名前を冠した企業スポンサーチームに所属していたのだが、当時のツール・ド・フランスはナショナルチームによる参加形式で争われたため、そのときだけ企業チームという枠を取り外し、選手は国籍別に再編成されて出場していた。五輪やサッカーW杯のようにナショナリズムを前面に打ち出すことで、選手も観客も熱くなるという演出が仕込まれていたのだ。
この年は、ツール・ド・フランス開幕1週間前に開催されたスペイン選手権を制した。自転車ロードレースのしきたりに則って、それから1年間はスペイン国旗の赤と黄色をあしらったスペイン・チャンピオンジャージを着用しなければいけなかった。ところが1週間後のツール・ド・フランスに登場したインデュラインのジャージは、両腕の一部に赤と黄色のラインをあしらっただけ。バスクの誇りにかけてもスペイン国旗はまとわない。優しさの陰に民族の誇りと強い意志を感じずにはいられなかった。
ツール・ド・フランスだけに照準を合わせてシーズンを戦っていけばいいという合理的な考えができたのも、アメリカ人だったからだ。欧州選手の多くはナショナリズムにとらわれた自国ファンの期待を一身に受け、スポンサーや世話役の顔を立てるためにマイナーなレースにも姿を見せなくてはならない。それが欧州のしきたりなのである。
前述のように、同じ年にジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスの両方を制することを「ダブルツール」とよぶが、直近のダブルツール達成者は 98 年のパンターニだ。それまでにコッピ、アンクティル、メルクス、イノー、アイルランドのステファン・ロッシュ、インデュラインがダブルツールを記録していたが、この6選手はタイムトライアルを得意とするオールラウンダーばかりで、山岳スペシャリストが快挙を達成したのはパンターニが最初。そして、パンターニ以降にダブルツールを達成した選手は今のところいない。
沖縄県の石垣島。国内自転車競技界において幾多のトップ選手を輩出するエリアとはまったく無関係のこの南の島で、 新城 幸也 は生まれ育った。フランスの伝統チーム、ヨーロッパカーに所属する新城にとっては2年ぶり3回目のツール・ド・フランス出場だった。これまでにもゴール勝負にくわわるなど、世界最高峰のツール・ド・フランスで存在感を示したことはある。しかし、この日はただならぬ闘志を感じさせた。
「ツール・ド・フランスで初めて日本選手が勝つかもしれない」 ルパンの世界にひたっていながらも感じた胸騒ぎはこれだったのか。 ツール・ド・フランスはまぎれもなく世界最高峰の大会だ。地上で最も過酷なスポーツとさえ言われる。そんな大舞台のステージ優勝争いに日本選手がくわわろうなどと、私は夢見たことはあれども実際のところイメージできなかった。 なぜなら、ツール・ド・フランスの難しさを日本の中ではだれよりも知っているという自負があるからだ。実力だけでは勝てない。総合成績の上位に位置する選手が飛び出せば、マイヨジョーヌを手にするチームがそれを守るためにつぶしにかかる。一緒に先頭集団を形成している選手の中にそんな総合上位が1人でもいれば、ゴールまで逃げ切るのは難しい。
ツール・ド・フランスは世界最高峰の自転車レースであるだけに、世界中の人たちが心待ちにしているイベントだ。真夏のバカンス時期に開催されることもあって、近年は世界中から熱心なファンが沿道にやってくる。フランスは年間8140万人の海外旅行者が訪れる世界1位の観光大国でもあり、ツール・ド・フランスの沿道には必ず息をのむような景観、ワインと美食があるというのも応援がてらにこの地を訪れる人たちの楽しみのひとつとなっている。
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津村記久子さんの『枕元の本棚』でイル・ピラータ(海賊)と呼ばれたレーサーの評伝やらが紹介されていて、昔、アームストロングの本も読んだことを思い出し、急にもっと知りたくなる。
レースのことがよく分かる入門書。
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長年に渡る著者のツール取材の一旦からツールに対する思い、レースそのものの重みを知ることができる。
ツールの歴史、ツールで活躍した選手、アームストロングの影に隠れた選手たち、日本人選手の活躍など、ツールを観るうえで欠かせない基礎の情報が満載。
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日本でブームが起こる以前のツールの歴史がよくわかっておもしろい。ただ、度重なるドーピング問題でその栄光は地に落ちた。帝王として君臨したランス・アームストロングがその記録を抹消され、もはや過去の記録も眉唾ものになってしまった。その後も後を絶たないドーピングを撲滅しない限り、心からこのスポーツを楽しむことは難しい。
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ツール・ド・フランスのこれまでの歴史、背景がわかる本。
自分にとっては、イノーとレモンの85年のツールが印象的であったのだが、その裏にあった物語が理解できた気がする。
(フランスでイノーといえば、長嶋や王のような存在であるという言葉が、しっくりと来た)
今年度はじめて、ツール・ド・フランスをじっくりと見て、エースと呼ばれる存在のほか、選手の中でもいろいろな役割があることがわかったのだが、野球とは異なり、金の取り分が山分けというのには驚いた。
そのほか、レモンのハンドルバーを用いた革新性や、「ラルプデュエズ」のエピソードは非常に興味を持って読むことができた。
また、これまで知らなかったのだが、今中大介さんがツール・ド・フランスに出場した際の状況のほか、別府忠之、また今年も出場した石垣島出身の新城幸也のことも、「カミカゼ・ジャポネ!」という1つのステージを用いて書き記されている。
ツール・ド・フランスに興味を持つ人には、一読してほしい一冊。
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世界最高峰の自転車レース:ツールドフランスの魅力について書かれている本。この大会の始まりからその変遷、活躍した選手を網羅している。
自転車好きにはたまらないないようです。若干、選手名やチーム名が飛び交っていてわかりにくい(覚えにくい)部分もありますが、ツールの臨場感が伝わってきます。
付け加えるならば、選手の顔写真とか、戦っている場面の写真なんかがあるともっと魅力的な本になると思いますが、これ1冊で十分ツールのおもしろさ・魅力がわかるはずです。
Posted by ブクログ
ツール・ド・フランス100回記念の今年(2013年現在)ずっと興味があったツールを今年はTVで追いかけようと思ったのですが。。。
正直ルールがさっぱり分かりませんでした。
そこで、何か参考になる本はないかと物色した書籍のひとつが本書でした。
新書サイズでコンパクトに情報がまとめられていてとても読みやすく、ツールのざっくりとした歴史も知ることが出来ました。
このスポーツの奥深さを知れた一冊でもあり、観戦ガイドとしても役に立ちました。
自転車のスピード感や疾走感、競技者たちの駆け引きと合わせて、人間ドラマも合わせて楽しみたい方におすすめの一冊です
Posted by ブクログ
ロードバイクを初めたのがきっかけで本書を手に取った。
1903年が第1回という伝統のある大会であり、超過酷なレースである。マイヨジョーヌ(いわゆる、黄色いジャージ)をかけた選手たちのむき出しの闘志と連携、裏切りといった駆け引きがすごい。黄色は当時の新聞”ロト”(現在は”レキップ”)の紙面の黄色が由来とのこと。
マイヨジョーヌをめぐる人間の死闘とスポーツにつきものとなってしまったドーピング、実に人間くさい競技である。
2013年出版の書籍であり、著者にはその後のドラマも伝えて欲しい。
Posted by ブクログ
ツール・ド・フランスの歴史の紹介本。
いきなりこれ読んでもよくわからないと思う。
ツール・ド・フランスの歴史を紹介していた映画(タイトル失念)があったからそれを見てからの方が情景をイメージできそう。
Posted by ブクログ
今年100回記念を迎えるレースに合わせて出版されたようす。
ランス・アームストロングがドーピングを認めたらしく、ツールの栄冠を剥奪されてました。livestrongの黄色いリストバンドを誇らしげに手首に付けていた自分がむなしくなりました。
ランスの栄光より、ランスに感銘した人々の思いが奪われたことの方がやるせない。
Posted by ブクログ
過去のスター達から、新城、別府まで入門編として面白い読み物です
最近書かれた本だけに、某アームなんとかさんの全盛期のお茶の濁し方はちょっとアレですが
Posted by ブクログ
現在開催中の「ツール」の歴史とその中で繰り広げられたドラマを紹介してくれる。
伝説の英雄の活躍を読むのは懐かしかったし、楽しかった。
オールラウンドにツールを紹介しようとしているけど、選手間の葛藤とかにもっとフォーカスしてもよかったかも。
自転車そもののの進化にも触れているのだが(かつては山岳コースでも変速機なしで走っていたという)、ここではもっと写真や図版による紹介が欲しかったな(きっと著作権の問題なんだろうけど)。