あらすじ
中欧に存在した不思議な「帝国」の一千年史。ドイツはじめ中欧諸国の母胎となったこの帝国は、教皇や周辺諸国、諸候と合従連衡と抗争を繰り返しながら、中世史の一極をなし続けた。その実体を解き明かす。(講談社現代新書)
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Posted by ブクログ
この国にフランスは嫉妬し、イタリアは畏怖し、ローマ教皇は、愛し、かつ憎んだ。
中欧に存在した不思議な「帝国」に一千年史。 ドイツはじめ中欧諸国の母胎となったこの帝国は、教皇や周辺諸国、諸侯と合従連衡と抗争を繰り返しながら、中世史の一極をなし続けた。その実体を解き明かす。
Posted by ブクログ
「なんてわかりにくい・・」というのが中盤以降の本書の感想である。
ただし、わかりにくいのは本書の文章が問題なのではなく、神聖ローマ帝国の歴史自体が問題なのである。
本書の文章は軽妙で、読みやすくわかりやすい。本書『あとがき』でも担当者に感謝を述べているが、随所に挟まれる家系図や地図、巻末の年表も理解を補完する良い手助けになっている。
この著者の作品を読むのは本書が2つ目だが、以前読んだものと変わらぬノリで中世から近世にかけてのドイツ・オーストリア史を気持ちよく知ることができるので他の作品も「読みたいリスト」に加えたくらいだ。
しかし、その著者をもってしても神聖ローマ帝国の歴史はつかみにくい。
近世までの国家は、王朝の交代はあっても交代した王朝を軸として見ていけばその国の有様が把握できるのだが、神聖ローマ帝国はその主体が見えない。王朝はあっても、そこへローマカトリック教会による世俗権力への欲望やドイツ国内での領主間の勢力争い、隣国フランスや北部イタリア諸都市の都合といった様々な勢力の思惑が絡まり合い、建国の早い時期ですら国家の主体がどこにあるのかが分からない。これがわかりにくさの要因なのだろうと思う。
また、国として統一されないまま千年近くを経たこともわかりにくさを助長していると感じた。聖俗の権力争いだけを見てもローマ教会の世俗での権勢欲から始まり、教皇権の伸張と衰退、宗教改革、それを利用した教会領への諸侯の介入というように時代により状況が大きく変化していく。聖俗の関係は、教会組織を利用した王権の直轄支配のもくろみとドイツ地域独特の教会のありようという別の視点でも複雑に絡んでいる問題でもある。選帝侯を含むドイツ諸侯は自領や支配権の拡充だけをもくろみ、皇帝の任命により数が増減しパワーバランスも変化するし、隣国フランスは中央集権化を推し進めて強力になり、北部イタリアでも都市国家の連合から有力都市を中心とした国家へと発展していく。時代が進んでいけばヨーロッパ全体での足の引っ張り合いもあり、近世が近づくほど外部勢力の影響も増えて混迷を深めていく。
神聖ローマ帝国という国は、思っていたよりももっと複雑で、その複雑さには歴史の積み重ね、変化していく複数の勢力の思惑が絡まってできていた、ということはわかった。
貨幣の鋳造権や収税権も手放しているので、本書のなかでも度々問われる『神聖ローマ帝国は国家と言えるのか』という悩みが付きまとい、本書よりもっと細かいくくり(;選帝侯や有力諸侯、包括するいくつもの国)の個々の歴史を知らなければ「全体像を掴みきれない」という感覚は晴れないのではないかと思った。
もうひとつ、本書の影のテーマとして一貫していたのは「ローマ帝国の影」なのだと思う。
本書を読む前はローマ帝国というものの影響がこれほど深いものだとは思いもしなかった。「皇帝」という言葉も一般名詞ではなく、長い間「ローマ”皇帝”」という意味合い、固有名詞だったとは想像もしないことで驚いた。
ビザンツ帝国が滅ぶ15世紀頃には西ヨーロッパ諸国は文化・技術的にもビザンツ帝国に追いついた形になり、ローマ帝国への憧れから解き放たれたと思っていたが、本書を読めばその後も形骸化した東西ローマの皇帝を大事にしていることがわかる。本当の開放はナポレオンの登場する近世まで待たねばならないとは意外だった。
このローマ皇帝への気負いやコンプレックス(= 呪縛?)が神聖ローマ帝国の対外政策や周辺諸国の思惑をねじ曲げて不可解とも思える国外 へ/から の干渉へとつながっており、思惑の絡み合いをややこしくしている。
以下、本書を読んで所々で感じたことの覚え書き。
本書の冒頭は神聖ローマ帝国の最晩年から滅亡(解散)後の様子から始まるが、まずその部分で驚いた。第二帝国も連邦国家! ヴィルヘルム1世とビスマルクの中央集権国家だと思っていたにでびっくり。「これでは神聖ローマ帝国の焼き直しではないか」という思いを抱いてしまった。
本書でときに引用される『ドイツ史はそもそも存在するのか?』という問いに、この序章から本書を読み終わるまで一貫して共感を抱くことになった。
第1章は西ローマ帝国の滅亡からカール大帝の戴冠までの略史。短いがわかりやすく、ローマ教皇庁やフランク王国の思惑もわかりやすく、後の叙任権闘争へと発展していく根本や西欧諸国のローマ帝国への憧れがよくわかる。カール大帝の名前が複数言語で存在する理由もわかった。
支配権は中央集権化していくことが普通だと思っていたが、諸侯による選挙態勢もそれほど異常ではないことがわかった。この有力者による選挙という体制は、神話によらず支配者の箔を付けるという意味でも、劣悪な支配者を廃するという意味でも有効であろうと思われた。中央集権が進めば漢の霍光の事跡が後の世に語り継がれるように、皇帝や王を廃することがとても珍しく、困難なものになるという弊害もあることに思い至った。
簡単な家系図が王朝ごとに載っているのが良い。多数の同じ名前が出てくるので、漫然と読んでいると文章だけでは混乱するが、この家系図がある事で一目で整理することができる。
男系が絶えることで王朝は交代するが血統は続いていることもよくわかる。
選帝侯に司教が何人も入っていることが不思議だったが、これも一言で単純に説明できることでは無い歴史の積み重ね、思惑の絡み合いの結果であることがわかった。
ドイツ地域独特の教会のあり方と、世襲を排しようと教会組織を頼った皇帝の思惑、諸侯の削減にローマ教皇の思惑も作用している。そもそも選帝侯は最初から存在していた制度ではなく、国をまとめるゴタゴタのなかで収斂してきたものでもある。神聖ローマ帝国が一枚岩ではないことや時代と共に制度が大きく変化しわかりにくいことがこの一事からも感じられる。
第9章の三十年戦争やウエストファリア条約以降の内容は短い文章ではよく分からないという印象だった。
これは帝国がすでに体をなしていないためであろうが、ここだけで一冊本を書けるぐらいの内容なので、著者の『戦うハプスブルク家』を読んでみようと思い、地図とにらめっこすることなくぼんやりとした理解で読み進めた。
Posted by ブクログ
神聖ローマ帝国という死んだ国があると聞いて。
それは中世ドイツに存在して、数多くの国を抱えながら消滅していった忘れ去られた帝国だと言う話しだった。
実際に世界史には興味があったわけだけど、やはりカタカナは難しくて手に負えない。カール何人出てくるんだ、という勢いである。
読み進めることに苦労しながら、この本を読んで見えてきたのは、国同士や国対教会の対立の中で数々の王たちが利益や利権を得るために奔走していた中で、曖昧なままに生まれ曖昧なままに死んだ「神聖ローマ帝国」という国の生涯だ。
神聖ローマ帝国というのはドイツが望んだ幻想にしか過ぎない願望の現れでしかなかった。実際に西ヨーロッパには強国がおり教会の力は大きく、内政における諸侯たちも大人しく従うわけでもない。だが神聖ローマ帝国という幻想がつくりあげた海原は諸国を巻き込むには充分だし、時には恵みを一身に受けたりしながら、結局は重荷になった。
帝国は実体のない、空想上のままでありながらその威光を放っていた異常な国とも言える。だからこそ理解しにくく、まただからこそ魅力がある。まさしく幻想が作り出した国だからだ。
これを読んですべてが理解できた、とは言い切れない。だが、神聖ローマ帝国の魅力は充分に感じ取ることはできた。
Posted by ブクログ
この国は「皇帝の国」であるが故に、奇妙な歴史をたどったのかと思った。
神聖ローマ帝国は、イギリスやフランスなどと対比して語られるが、神聖ローマ帝国もそれが包摂する問題があったのだ。
「選挙で選んでいたから、国家としての統一性が失われていた。」などという意見もあるが、カノッサの屈辱を経験した皇帝も叙任権闘争などでローマ法皇と戦ったり、フランスと同じような権力を振るうこともあった。
しかし三十年戦争ののち、やはり選挙で選ぶことの弊害が顕れ、フランスのような自分の領地拡大をする契機がなかったのか、ヴェストファーレン条約によって小さな諸国が主権を得ることになる。フランスもそうならない保障はなかった。
のように、神聖ローマ帝国は「統一国家になりそこねた国家」とも言える。