あらすじ
寿退社後に婚約破棄されたアツコが、行く当てもなく乗り込んだ路線バスの終点で見たもの。学級閉鎖で留守番中のアタル君が巻き込まれた不可思議な事件。自殺同然の事故で兄を亡くした妹が、偶然出会った女子中学生。俳句から着想を得て生まれた物語は、十七音の枠を超え、色彩豊かな無限の世界へ広がってゆく。人生の機微を掬い取るように描く、怖くて、切なくて、涙を誘う、極上の短編集。(解説・倉阪鬼一郎)
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Posted by ブクログ
一話ごとに強い印象が残る、読み応えのある短編集でした。
怖さがあとを引く話、やりきれなさが胸に残る話、思わず痛快な気分になる話と、たった一冊の中でさまざまな感情を揺さぶられましたが、個人的には最後の一編がいちばん心に残りました。
家族の会話だけで構成されているにもかかわらず、その場の空気や家族それぞれの置かれた状況が自然と立ち上がってきて、読み進めるほどに情景が鮮やかに浮かびます。
そしてラストには、微かな花の香りを思わせるような余韻がそっと残り、澄みきった読後感を味わうことができました。
あと驚いたのが、この短編集の成り立ちです。
題名の俳句の出典は気になっていましたが、自身が参加する句会で出てきた俳句から短編集を作るという着想がすごすぎて、改めて宮部さんの作品は素敵だと感じました。
宮部さんは、私が本好きになるキッカケとなった作家ですので、これからも拝読します。
Posted by ブクログ
リアル本にて。
コーチャンフォー若葉台店にて、ランキング1位で短編集だったので、気楽に読めるかなーと購入。
「異国より訪れし婿墓洗う」における主人公、琴子の気持ちが沁みる。琴子は夫を病気でなくしている。しかし、近年見つかった治療法を使えばらもしかしたら回復していたかもしれない。家族の事情、本人の信条などが絡んで、その治療法は使わなかった。なんとかそのことに折り合いを付けようと生活している矢先に、夫の墓参りでその治療法をうけて回復したご近所さんと邂逅する。しかもそのご近所さんは、その治療法を使わなかったことを影でバカにしていた。当然琴子は腸が煮えくり返っているが、その治療法に副作用が見つかることを祈ることで、なんとか心を保っている。。。
どうしようもないことばかりの世の中で、自分が選べなかった選択肢に思いを馳せ、自分が選んだ選択肢をなんとか正当化しようとする。こんなとき、自分の乏しい記憶力がありがたい。いや、忘れるスキルが高くて良かった。
後書きに、この本ができるまでの話が書かれていて、驚いた。著者が立ち上げた句会のメンバーが詠んだ句をタイトルとした短 編小説を書き下ろし、集めたものだという。直接関係するわけではないが、緩く世界観を共にする短編たちのつながりに得心するとともに、著者の感受性と想像力にただたただ舌を巻いた。言葉が豊かになると、そんなことまでできるのか。。。
Posted by ブクログ
宮部みゆきさんがどんなにすごい作家さんかもちろん存じ上げていますが、苦手なタイプの作品が多いので、三島屋変調百物語を数冊読んだ記憶があるくらいで、ほとんど読んだことがありません。
なので、職場のパートさんが貸してくれた時も「怖くない?」なんて、小学生みたいなことを聞いてしまいました。
俳句から着想を得て生まれた物語、との説明を読んで、興味を持って読み始めたら、もう止まらない!「これが宮部みゆきか~!!」と今更ながらその才能に驚愕しました。12つの物語、どれもこれも、俳句からここまでの物語を思いつくなんて、すごいの一言ですが、どのお話も読者の心をぐっと掴んで離さない吸引力があります。
かなりしっかりとした現実的な話から、ちょっとSFチックなお話まで、色々詰まっていました。
「プレゼントコートマフラームートンブーツ」は、とってもあたたかいお話で、これを読みながら、「いや、このままのはずがない。絶対何か怖いことか嫌なことがある。だってこれ、宮部みゆきだよ。」と思っていましたが、予想に反してとにかくほんわかあったかな良いお話でした。
多かったのは、もう、ホント、どうしようもない、というか、救いようがない、というか、芯まで腐ってるんじゃないかと思うような、時には悪魔のような人間が出てくるお話で、そのどうしようもない人間の描き方が素晴らしい。読んでいるこちらもフツフツと怒りと、「こいつ、なんて人間なんだ」という諦めのような思いが煮えたぎるんですけど、その思いが救われる温かいエンディングが多かった気がします。
印象に残ったお話は、私にとっては次の3つです。
「山降りる旅駅ごとに花ひらき」
家族・親戚一同に蔑まれて生きてきた春恵。「春江」と間違った漢字で書かれた母親からの手紙を受け取るところから物語が始まります。一瞬、「母親は認知症か何か・・・」と思いつつ読み進めると、母親を中心として春恵をいじめてきたことがわかり、もう驚きを通り越してポカンとしてしまいました。妹も母親と同じいじめっこ、父親やその他親戚も母親に便乗するか、無視。唯一の見方は姉だけれど、あまり力にならず・・・。ポカンとしてしまいましたが、あまりにも的確に、誰かをいじめの標的にしていないと気が済まないという人間的な本能と、強いものには従うという人間的な守りが描かれていて、これは決してフィクションではなく、あり得る話なんだと思いました。たとえいじめっ子気質であっても、理性とか共感力とかを身に着けて大人になっていくもんじゃなかろうか。母親と妹の人間性が醜すぎて、そんな家族の中で、早くに悟り、自らを律し、まっとうに育った春恵が輝いて見えます。祖父が遺したものはもとより、春恵が姉以外と縁を切ることができたことが何より嬉しい読後でした。
「薔薇落つる丑三つの刻誰ぞいぬ」
これもまた、人間のクズと呼んでもよい輩が出てきます。前にニュースで聞いた事件にもこんな奴らが関わったいたんじゃないかと勝手にその事件を思い出し、むかっ腹が立ってしょうがなかったです。クズどもに拉致され、廃病院の心霊スポットに連れてこられた主人公を救ったのは、その廃墟にいた「人ではない者」。残留思念で形づくられているその「人ではない者」がいなかったら主人公はどうなっていたんだろうと思うとぞっとします。自分の話になりますが、私は成長するにつれ、世の中のあれこれを知り、(何かがあったわけでもなく、幽霊が見えるわけでもないのですが)、「幽霊なんかよりよっぽど生身の人間の方が怖い」という思いを抱くようになりました。まさしくその思いを表してくれている作品だったので、すごく印象に残りました。これは忘れられないお話になりそうです。クズどもがちゃんと捕まってよかった。
「冬晴れの遠出の先の野辺送り」
野辺送りという昔ながらの習慣と、兄を亡くした主人公と少女の偶然の出会いと、そして兄の死の原因と・・・なんとも複雑な思いのまま読み進め、終わってしまった作品でした。「よいご両親にきちんと育てられ」、世間一般にはきちんと働き、ちゃんとした人だった兄がどうして、何がいけなかったのか、答えのない思いに引きずられる作品でした。誰かに執着しすぎる恐ろしさ、気持ち悪さは、「鋏利し庭の鶏頭刎ね尽くす」や「月隠るついさっきまで人だった」でも充分に味わったのに、まだここでもそれが出てくるかという思いがあったから印象に残ったのかもしれません。
いや~、また自分では絶対に選ぶことのない本に出合えて大満足です。短編とは思えないほど、どれも読みごたえがある作品ばかりでした。第二弾、第三弾があるかも、という嬉しい筆者あとがきもありました。おススメです!
Posted by ブクログ
単行本のときから読みたいと思ってたが、なんだがあっという間に文庫になってた。
装丁からもタイトルからもほんわか短編かと思っていたが、宮部みゆきさん、そんな訳なかった。心が黒々する話たちに夢中になってまさに極上の短編集だった。俳句好きには、解説までがたまらない。
Posted by ブクログ
俳句に着想を得た短編12本。いやー、さすが、と、私などがいう相手でもないのは百も承知ですが、さすがです。どの話も、すっと入っていけて、読後に余韻を残す。この短さで、驚きもある。二話目がすごかった。夫の家族に違和感を抱いている妻→夫の妹→夫の部下→夫の母、と、視点が移り替わり、最後、妻の抱いていた違和感の、大きなひっくり返しがある。以下、簡潔にまとめる。
①結婚式間際で、婚約破棄された女がバスに揺られ、植物園に行く。
②事故で亡くなった中学時代の同級生を思い続けている夫とその家族。
③ぬいぐるみ製作にいそしむ少年と、マンションのロビーで、とつぜん行われたチャリティバザー。
④娘が夫に裏切られていることを、偶然知ってしまう母。
⑤永遠の命を手に入れられる世界で、治療よりも、娘の幸せを優先した夫婦。
⑥姉にできた初めての彼氏は、人間の皮を被った化け物だった。
⑦冬になっても枯れないゴーヤの裏に隠してあった、妻の本音。
⑧一族の中で嫌われていた次女に訪れたサプライズ。
⑨引っ越した家から見える丘で、小学生の少年が、行方不明の子供の持ち物を見つける。
⑩彼氏の仲間に拉致され、連れてこられた廃病院で、幽霊と出会う。
⑪野辺送り中に会った少女と、兄の死の真相。
⑫とある家族の、定点観測(会話のみ)
②と⑪が、男の歪んだ恋愛感情を描いたもの。①③④は男の裏切り。⑥⑩は、ヤバい彼氏。⑪の、妹が電話をしようとしていた理由の種明かしが、想像がつかず、よかった。