あらすじ
二冬続きの船の訪れに、村じゅうが沸いた。けれども、中の者は皆死に絶えており、骸が着けていた揃いの赤い着物を分配後まもなく、恐ろしい出来事が起った……。嵐の夜、浜で火を焚いて、近づく船を座礁させ、積荷を奪い取る――僻地の貧しい漁村に古くから伝わる、サバイバルのための過酷な風習“お船様”が招いた海辺の悲劇を描いて、著者の新境地を示す異色の長編小説。
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Posted by ブクログ
なんて救いのない物語なんだ。
海辺の寒村で自ら身売りした父の帰りを待つ10歳前後の伊作。母と下の弟妹たち3人と厳しい暮らしを乗り切るために切り詰めて暮らす様子がなんとも苦しい。父のいない間に村では一人前として扱われるようになり、大人たちの間で共有される秘密を知り、まさに大人の階段を登る。
しかし、この苦しさが身を切るようでなんとも憂鬱になる物語ではあるのだが、淡々とした文体にどんどん引き込まれ読み進めてしまう。
吉村昭の本は好きである。
Posted by ブクログ
現代の価値観からすると、
どうして貧しい村を離れ、たとえば皆が身売りする豊かな隣町へ引っ越さないんだろう?
なぜ口減らしを考えながらも子どもを産むんだろう?
祈祷するとか火を焚く以外に、むしろもっと積極的にお船さまを狙ってみては?
お船さまが来たら船を解体せずそれに乗って航海に出かけられないものだろうか?
村おさの言葉を誰彼疑いなく信じてしまうのはなぜ?
などと色々考えてしまうんだが、それは自分が厳しい暮らしを強いられたことのない現代人だからだろう。
毎日の食事にも事欠く日々を送っていたら、現状を変える気力もないだろうし。
第一ご先祖さまや死者の魂をつなぎ、村を存続させていくことが、彼らの正義なのだ。
それにしてもお船さまとは、なんと酷なものか。
お船さまなど来なかったら、村人たちは粛々と慎ましい暮らしを営んでいたはずで。あるいは農業や漁業のやり方を変えるなど、苦しい中でも少しの工夫をしてみたかもしれない。
なのにたまの幸運がもたらされるから、期待してしまう。極寒の冬の夜に火を焚くなんて、辛い所業を行う。
たとえ幸運がもたらされたとしても、村の外に知られないよう常に警戒しながらびくびく暮らさなければならない。幸運が来る時期も理由も、知ることができないから、祈りを捧げるしかない。
お船さまは神様なんかではなく、村を蝕む悪魔だったと思う。そんな偉そうに判定できるのも、自分が恵まれた現代人だからだろうか。
Posted by ブクログ
本作は少年の視点から綴られる僻地の寒村の3年間の物語だ。大人が年季奉公で廻船問屋に売られ、未成熟な子どもが一家の労働力として漁をせざるを得ない貧困。村に大きな幸を齎す“お船様”(難破船)を求めて祈り、実際に到来したなら情け容赦無く積荷を奪い取る共同体全員での犯罪。その“お船様”によって富ではなく疫病を齎され、村があっという間に崩壊寸前にまで追い込まれる厄災。これら苛酷で不幸な日々が無駄を削ぎ落とした簡明な文章によって描写され、読者に強烈なリアリティーを与えてくる。
Posted by ブクログ
戦慄の感染症パニック時代小説(なんだそりゃ)。長引くコロナ禍に読み、ぞくぞく。
最近、近未来のディストピアっぽい小説を読んでたけど、昔の貧しい時代の方がよっぽど地獄だなと思う。
惜しむらくは、農村にしては口調が農民ぽくなくて、ちょい違和感が。昔の農民や侍の語り口とか、知らんけども。
あと、最後にいろいろ種明かしする老人いたけど、そんな詳細に覚えているならもっと早く気付くのでは?と思ったり。