あらすじ
いつまでも深く胸に残る哀切な幽霊譚
その踏切で撮られた写真には、写るはずのない人影が記録されていた。
大都市の片隅で起こった怪異。
最愛の妻を亡くし、絶望の淵にいる記者が突き止めた真実とは?
哀しみ、怒り、恐怖――読む者の心に様々な感情を喚起する、ホラーを超えた新たな幽霊小説の誕生。
迫真の筆致で描かれた、生と死についての物語。
第169回直木賞候補作
解説・朝宮運河
単行本 2022年10月 文藝春秋刊
文庫版 2025年11月 文春文庫刊
この電子書籍は文春文庫版を底本としています。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
大都会の片隅で起きる「踏切に度々現れる奇妙な人影」の怪異と妻を亡くし絶望の淵にいる記者が交錯するホラー×社会派ミステリーで、怪談話と社会問題という一見合わないであろう二つの要素の鮮やかな融合とエンタメの枠を越えた生と死の物語の側面が胸が締め付けられるも読む側を引き付けて止まない作品に仕上がっていた。
Posted by ブクログ
高野和明『踏切の幽霊』文春文庫。
『ジェノサイド』以来の久し振りの高野和明。単行本の刊行時から気になっていた作品である。
何とも切なく遣る瀬ない結末のホラー・ミステリー小説であった。
単なる幽霊譚ではなく、大都会の中で、過去の傷を引き摺りながら独り生き続けることの苦しさが見事なまでに表現されている。
下北沢の三号踏切で繰り返し起きる怪異。
最愛の妻を失い、絶望の淵に立った元新聞記者で現在はフリーランスの雑誌記者を務める松田法夫はデスクから心霊ネタの取材を任される。松田が取材を進めると下北沢の三号踏切で撮影されたという髪の長い細身の若い女性の霊の写真に行き当たる。
松田がその女性について調べると、2年前に下北沢の三号踏切で他殺体となって発見されていたことが判明する。しかし、女性は身元不明のままで、殺害した犯人が逮捕されていた。
松田はさらに被害者の女性の身元を調べるとキャバクラで働いていたことが判り、当時の同僚や同居者をあたるが、誰も名前を聞いておらず、兎に角暗く、作り笑いの目立つ女性だったという証言しか得られなかった。さらに彼女はキャバクラを辞めて、会員制の銀座のクラブで働いていたという証言を得る。
少しずつ明らかになる女性の過去と恐るべき事件の全容……
読み始めてから読み終わるまでに足掛け3日を要したのだが、うち2日間は訳あって、片道350キロの距離を車で移動するなどあって、殆ど読むことが出来なかった。ストーリーの面白さとリーダビリティの高さからすれば、1日で読めただろう。
本体価格750円
★★★★★
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下北沢にある踏切には女の幽霊が現れる。
そんな嘘か誠かわからない話を雑誌のネタとして追うことになったのは元新聞記者の男。
その男は妻との死別を機に生きる気力をなくしてしまっており、新聞社を辞めた後に拾ってもらった女性雑誌でも熱が入らず、この取材で熱意が戻らねば辞めてもらうと暗に仄めかされていた。
とりあえず飯は食わねばなるまいと、しぶしぶホラーのための取材を始めるが、彼の身には不可解な現象が起き始める。
と、いうように始まり方は王道のホラーのようであるが、その後の展開は驚嘆するほど。
安直なホラーで終わってしまうかと思いきや、彼の人格と彼が求める人生への問いが幽霊は誰で、何があったのかを明らかにしようとする記者の情熱を呼び覚ます。
話の展開はとても面白い。
欲望渦巻く下衆な夜の世界を舞台にしながら、胸焼けしないのは作品を通底して悲しみが覆っているからだと思う。
☆5つでもいい作品だが、あまりにも人生の悲哀を感じさせる作品であったため、容易に人にオススメできないため☆4つとした。
本作品の構想は著者が高校生の時に出来ていたというから天才というのは恐ろしい。
Posted by ブクログ
この小説において大きな嘘は「幽霊がいる」という一点のみであり、その周囲を徹底的に現実の社会描写で埋め尽くすことで、幽霊小説でありながらリアリティレベルの高い作品になっている。全体的に物哀しい孤独感にあふれた作品だが、「踏切の幽霊」という文字通り雲を掴むような話から、地道な取材を通してやがて巨大な疑惑にたどり着くという、ホラーと社会派ミステリーの読み味の融合した傑作と思う。解説でも触れられていたが、読んでいるときに想起したのは宮部みゆき「火車」。
Posted by ブクログ
ホラーではありながらも現実味があり、一人の記者と、一人の女性の人生が詰まっていた。
面白く扱われるような心霊ネタから始まったものが、失望の中にいた記者の心を動かし、人生をかけて一人の人間と向き合う仕事をして、誇りを持って仕事を終える。その中で、胸が苦しくなる場面は数え切れないほどあった。笑い方を知らない女の子、という言葉が、とてつもなく哀しいもので、深く心に突き刺さった。
どのように物語が締め括られるのかと読み進めていたが、唯一明らかにされた、彼女が踏切に向かった理由を知ることができて、哀しくも、やるせなさも感じた。
Posted by ブクログ
大きな事件に巻き込まれて死んでしまった女性の身元を追いかける記者の話だった。
悲しい物語だったが、人が亡くなるということをあらためて自分の中で見つめ直す事が出来る作品。
誰か1人でも自分の死を悼んでくれるのであれば救われる。そうであってほしいと願います。
Posted by ブクログ
すっごい久しぶりの高野和明さんの作品で楽しみでした。ジェノサイド以来かな。
まず、感想として作品の舞台がそうだからなんだけど、めちゃくちゃ昭和の小説を読んでる気分にもなりました。時代背景という部分だけでなく、なんか当時に書いた感溢れてました。解説読んで少し納得かな。
作品のジャンルとしては、何だろう。やはり幽霊小説なのかな。写真や電話やラップ音、降霊など、あらゆる超常現象にも特にカラクリがあるわけでもなく、そのまま不思議なまま。
ふだんミステリばかり読んでるから、そういう観点では少し拍子抜け感ありますが、それなければ話としては好きなタイプ。
なかなか、報われない人が沢山いる話だったけど、事件解決の糸口になった、霊能力者が結局本物だったと言う事だけど、それはつまり、亡くなった松田の奥さんのくだりも、正しかったって事だよね。
それには、松田も読者も救われた気持ちになりますね。
久しぶりの高野さんの作品、満足でした。
Posted by ブクログ
幽霊譚にして骨太な社会派ミステリ。踏切に現れる髪の長い痩せた幽霊は、惨殺された身元不明の女性なのか。記者の取材により徐々に明らかになっていくのは、社会によって「幽霊」とされた一人の女性の人生。物語は至極シンプルで、諸々少し物足りない感はあるが、それが逆にリアリティを生む。午前1時3分… 線路の向こうに馳せた彼女の想いが悲しい余韻を残す。
Posted by ブクログ
【2025年136冊目】
病気で妻を亡くした松田は事件記者から、婦人向け雑誌の担当になり、うだつのあがらない日々を過ごしていた。契約終了まで残り2ヶ月になり、心霊特集を担当することになった松田が出会ったのが踏切での事故だった。いつしか亡くなった女の正体を追いかけるようになったが――。
作家さん買いです。ホラーとミステリーとファンタジーをかけ合わせたようなお話でした。話の方向性や真実がどこに帰着するんだろうなと思いながら読み進めてましたが、もう少し妻要素を絡めて欲しかったな〜と思ったり。どんでん返しというか、大きな驚きもなかったので、結構凪!って感じのお話でした。文体も、ちょっと変わった気がします、気のせいかもですが。
それはそうと、因果応報、悪いやつには罰があたって当然ですと言いたくなる展開は良きでした。