あらすじ
白痴の女と火炎の中をのがれ、「生きるための、明日の希望がないから」女を捨てていくはりあいもなく、ただ今朝も太陽の光がそそぐだろうかと考える。戦後の混乱と頽廃の世相にさまよう人々の心に強く訴えかけた表題作など、自嘲的なアウトローの生活をくりひろげながら、「堕落論」の主張を作品化し、観念的私小説を創造してデカダン派と称される著者の代表作7編を収める。
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Posted by ブクログ
ストーリーの展開としては自分の部屋に逃げ込んできた白痴の女と共に戦火から逃げるだけで主要人物は誰も死なない。
しかし、戦禍における伊沢の思想の変化についての表現力が素晴らしい。
Posted by ブクログ
表題作「白痴」について!
伊沢は、繊細で周囲の空気に馴染めず、戦時中の同調圧力にも乗れない人だったと思う。
生きづらさを感じながらも、自分の感性や価値観を大事に抱えながら生きてきた人で、他の人が命や家族や財産、立場を守るために普通ではいられなくなるように、伊沢も自分の価値観を命がけで守ろうとした結果が、終盤の異常性に繋がったんじゃないかなと思った。
周りの人や映画仲間、女たちへの辛辣な物言いは、ただの見下しだけじゃなくて、自分とのあまりにも違う価値観や空気感に対する拒否反応で、疎外感や孤独感から来てるのかなって思う。
そんな中で白痴の女が現れ、それを所有物のように扱うようになった。
人間としては見ていないが、大事な物としては扱っている。
周りの人間達に比べ、その女は戦時中の価値観や空気感から切り離された、唯一の無垢な存在に見えて、それを自分自身の無垢さと重ねてたんだと思う。
ただの所有物として見下す一方で、自分の価値観や感性を守るため、この無垢さを所有していることが、伊沢の価値観の肯定になっていたのかもしれない。
小さい子がぬいぐるみを抱きしめて手放さないみたいな感覚で、伊沢にとって唯一の安全地帯のような存在だったのかなって思う。
伊沢の呼びかけに女が頷いたシーン。
はじめて女に意思を感じた瞬間、伊沢は妙に嬉しそうで、ワクワクした感じで女に夢中になっていた。
それまでは、ずっと抱えてはいるものの無価値で浅ましい人形のように思っていた存在が、自分が思ってたより価値があるものに感じて、自分が肯定されたような気持ちになったのかなって解釈した。
伊沢は特別な異常者というよりも、他の人が命や家族を守るのと同じくらい、自分の感性を守ることが大事だった人なんだと感じた。
女に対しての執着部分については共感はできないけれど、その自分の感性に対する切実な気持ちは、なんとなく分かる気がする!
Posted by ブクログ
今生き残ることより白痴の女と一緒に暮らしてることがバレない方が先決なのか。まあ、よそ様の嫁だしってこと……?最悪の世界だけどとりあえず誰かと一緒にいたかったってことなんだろうか。物言わぬ肉塊。何を思えばいいのかよくわからなかった。空襲描写がとてもリアルで怖かった。絶対絶対こんな怖い目に遭いたくないな〜。