あらすじ
NHKドラマ化原作、火星と地球をめぐる壮大なヒューマンドラマ
地球外知的生命の探求のために人生をかけて火星にやってきた生物学者のリキ・カワナベは、とある重大な発見をする。いっぽう火星生まれの少女、リリ-E1102は、地球へに観光を夢みて遠心型人工重力施設に通っていた。様々な人の想いが交錯する人間ドラマ。
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Posted by ブクログ
人類が火星への移民を開始し、複数のコロニーが鉱山採掘等で火星上での生活を送っている近未来。宇宙開発を主導する国際機関ISDAが、突然「地球帰還計画」を発表した。しかし、地球と火星を往復する宇宙船のペイロードは極めて限定されており、かつチケットは高額。この計画は、火星開発を見限った地球側政府による、事実上の「棄民政策」だった。一方、火星で地球外生命を研究しているリキ・カワナベは、不可思議な動作をする謎の結晶体「スピラミン」を発見する。この物質が、地球・火星間の政治的緊張に大きく関わることになるとも知らずに・・・
ざくっとまとめると、火星に移民した人々が、地球政府に反旗を翻す(より正確に言うと、翻しかけつつも小川哲節でしっちゃかめっちゃかになる)物語。あれ、ざくっとだけど、どっかで聞いたことがあるような?
そうですねー、ハインラインの古典的名作「月は無慈悲な夜の女王」と、構成的にはよく似ています。
大きな違いは、政治的にも経済的にも軍事的にも圧倒的優位にある地球と対峙するのが月移民ではなく火星移民であることと、反乱(?)を主導するのがコンピューターのマイクではなく、知的で凛とした盲目の女性・リリであること。このリリがまたとんでもなく魅力的なキャラクターで、地球政府側の重鎮の娘という立場上色々と面倒なことに巻き込まれ、辛い思いも多々するのですが、常に前向きで明るくエネルギッシュで、周囲の人々も巻き込んで、きな臭い紛争を解決に繋げます。作品タイトル「火星の女王」は、作中で彼女に付けられたニックネームなのですが、リリ本人はそれをよく思わず、最終的に「火星の応援団長」に落ち着く、というのがさすがの小川哲節(笑)
リリの話と同時並行的に進むスピラミンとカワナベの話が、次第に交差しあって、最終的に「コミュニケーション論」という極めてSF的なテーマにシュッと収束する様は、実に鮮やかです。明るい未来を感じさせるラストシーンも素敵ですし、何よりも特筆すべきことは、小川哲作品に必ず登場する「変な人」が、本作にはほとんど登場しません(笑)いることはいますけどね、大筋には影響しません。
そして、「火星の女王」というタイトルに、ちょっとだけ「えっ、バローズ?」と想起したそこのSF者のアナタ・・・
大丈夫ですよ、鴨も思いました(笑)
ドラマ化が予定されているそうで、今からとても楽しみです!
Posted by ブクログ
直木賞作家が描く早川書房創立80周年記念作品である。さらにNHKの放送100年特集ドラマの原作となっている(2025年12月放送予定)。読んだ印象としては、ドラマ化を前提に書かれたような作品と感じた。また、オーソドックスな「火星もの」として読むことができた。
ただタイトルからしてそうなのだが、ハインラインの<月は無慈悲な夜の女王>を想起した。「月対地球」と「火星対地球」の独立騒動。そして武力衝突(本作では限定的)と来る。
本作では。火星と地球との距離に起因する対面での交渉や会議の「間延び」が問題となっており、ここが物語のミソと言えるだろう。
ちなみに<月は無慈悲な夜の女王>は、<機動戦士ガンダム>のベースというかヒントになってる。モビルスーツは、<宇宙の戦士>のパワードスーツが元になっているけど。
Posted by ブクログ
火星と地球を繋ぐ100年後のSF群像劇。
コミュニケーションの遠さが心の距離に繋がる。
そんなことを感じたSF小説。
人類は直接言葉を交わすことから始まり、言葉を文字にし、文字を歩きや乗り物で運ばせてきた。電話が出来てインターネットが出来て、いよいよ人類のコミュニケーションは光の速度に近づいたが、一方でそれはコミュニケーションの速度の限界でもあった。火星と地球の「面と向かって」話せないことで生まれる軋轢。これは現代の地球上でも同じ。
「面と向かって」話すことが疎かになることで生まれる軋轢は現代でもある。そんな単純な事をSFの視点から改めて考えされられた一冊。
Posted by ブクログ
直木賞受賞作「地図と拳」から「ゲームの王国」で沼落ちした沼落ちファン待望の新作はコテコテのSF
近い未来
火星に移住した者達と地球の1人の青年の交流の物語
移住した者達が背負った過去は決して明るいものではないけれど、歩いてきた道は火星での人生
例えそれが苦しい生活だとしても、遠く離れた場所に住む地球人は新しい歴史を火星で作り上げていく
人類の歴史にある植民地政策と独立戦争を彷彿させる物語の行き着く先にある結末
そして研究者が探し続けた理論の答えは眼の前にずっとあり、新しい開拓者が未来に作る歴史の先に答えがある、と言う壮大な幸せの青い鳥の結末に震えた
読み終えた後に改めて再読したくなる鮮烈な物語でした
Posted by ブクログ
……「だからなんだ」という終わり方。
大々的なクライマックスという訳でもなく、感動もなく、……どうしてこうなったのか、よくわからないまま終わっていた印象。
Posted by ブクログ
NHKドラマ化原作の書下ろしSF小説。
著者だから面白くないわけがないと思いましたが、期待を裏切らない出来だと思います。
NHKサイトの登場人物を見ると小説とは異なっている部分があるので、あくまで小説は原作として扱われるのでしょう。
火星に人が移住できるようになっている2125年あたりが時代背景となっていて、火星で生まれ育った人もいる状況下での地球からの束縛とその反発という政治的な話に新発見物質が絡んで物語が大きく動き出します。
独立とそれを阻止する大国という現代でも見られる構図を宇宙物語に反映させる壮大さはさすがで、戦争にならないで先送り的ではあるが平和的なエンディングはうれしい。