あらすじ
差別も貧困も、なくならないのか?
今なお続く「在留外国人問題」に切り込む、慟哭必至の社会派巨編
在日朝鮮人帰還事業――
1959年に始まったそれは、人類史上最悪の「大量殺戮」への序章だった。
二人の若者がそれぞれ経験した「地獄」を描き、現代に通ずる差別の源流と、政治家・マスコミらが犯した大罪に迫る。
なんやおまえ、チョーセンやないけ――。
1959年大阪。在日朝鮮人への差別がはびこる街で、復興を遂げ平等を実現し「地上の楽園」と称される北朝鮮への「帰国運動」が過熱していた。
学問の道を志す高校生の孔仁学は、ヤクザの抗争に巻きこまれ窮地に立つ親友・玄勇太に「帰国」を勧める。
家族とともに北朝鮮へ行くことを決めた勇太だったが、帰国船内の食事の貧弱さや寝床の汚さに、「楽園」への違和感を覚え始め……。
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Posted by ブクログ
とにもかくにも第2部がよすぎます。
勇太が最高です。いい男です、ほんとに。かっこいい。
騙されて北朝鮮に住むことになるが、船に乗った瞬間からもう何もかもおかしいって全員が感じてるのが第1部とはぜんぜん違います。
村に送られるバスからもう最悪、バスのボロさ、車内の汚さ、風景を見た反応から勇太家族の絶望がわかります。
村に着いてからの生活は最悪すぎて、ここから先に希望がまったく見えないのが読んでて怖かった。勇太が結婚し、子供が生まれたからさすがにこれ以上悪いことは起きないか?と思えばそれよりさらにひどいことが起きるとは。
この2部を読んでいけたのは勇太という人のおかげ。彼以外の視点だとあまりにも希望がなくて読み進められなかった。
「俺らが裕福やて、どんな国やねん、ここは」勇太の言葉が子気味良い。
1部では仁学が隠岐みたいに人を騙す話。
途中、途中で違和感を覚えながらもそんなことはないと言い聞かせやり遂げます。
彼が終盤にようやくするべきことを見つけられたのは良かったのかな。
月村さんで北朝鮮なら脱北航路もあるし
関西弁で北朝鮮に行き脱北すると言えば国境ですよね!途中川で撃たれるとこも一緒やったし。
寺尾吾朗の本、小泉やったこと、仁学が言う今は小泉ブームなんだよ!が恐ろしかったですね。今となにが違うんって。
Posted by ブクログ
2025/09/25予約9
星5では足らない。
北朝鮮帰還事業、こういうことだったのか。不勉強でわからないことが多すぎて調べながら読み、第一部で孔仁学のつき進む方向がそっちじゃないのに頭がよく正義感に溢れた若者だったからか、そそのかされうまく使われてしまう。今読んでいる私たちは間違いがわかるが、当時は知識って本からあるいは信頼する人から得るもので、偏ってることがわからない。リアルタイムの情報も無く信じて北朝鮮に帰還(帰国)するなんて。第二部はとにかく辛い。金賢姫の手記を読んだ時の驚きがよみがえった。家族をみんな失ったのに脱北し生き続けた玄勇太、私の語彙力ではすごい、以上の事が言えないのがもどかしい。第三部で勇太は仁学を探し出す。そして新潟で別れた高の娘と共に真実を伝えるため書籍を日韓で刊行しようとする。
科学の発展は人の諍いを生んでしまった、確かにそれも思う。ネットだけでない真実を知らなければならないと強く思う。巻末の参考資料、読めるものは読んでみよう。
小説という形で歴史を知るきっかけを与えてくれて感謝です。
今年一番の本かも、おすすめです。
Posted by ブクログ
地上の楽園
著者:月村了衛
発行:2025年10月25日
中央公論新社
初出:『中央公論』2024年4月号~2025年4月号(連載)
今年の本屋大賞へのノミネート作品発表が、2月6日、今週の金曜日に発表になるが、候補になり、大賞を取ってもおかしくないほどの傑作だった。475ページの大作である点も、書店員好みと言える。ただし、ノミネート作品予想をいろんな人がしているが、この本を挙げた人は今のところ見つからない(^o^)。昨年中に読んでいれば、間違いなくナンバーワン本。
1960年から実際に始まった在日朝鮮人の朝鮮人民共和国への帰国。北朝鮮本国の公認で行われた朝鮮総連による「帰国運動」、日本政府が閣議了解した「北朝鮮帰還」により実現したが、日本の政界では、共産党や社会党のみならず、超党派による「在日朝鮮人帰国協力会」が支援した。中心人物は自民党の鳩山一郎と小泉純也らだった。「地上の楽園」との宣伝文句に騙された在日朝鮮人や日本人妻、子たちには地獄の生活が待っていたというのは、今さら言うまでもない。
本書の注釈では、その歴史の暗部に関して「歴史的経緯を踏まえて書かれたフィクション」としている。多くの人を騙した書籍類や新聞記事なども実名で登場し、小泉純也ほか人物もそのまま出てくる。第1部に出てくる「朝鮮人帰還事業意見交換会」という東京でのイベントは創作だとしているが、言葉を変えれば、あとはみんな実際にあったこと、つまりノンフィクションに近い本ともいえるわけである。そういう意味で、この問題に関する歴史の勉強にもなった。
なぜ、著者が、今のタイミングでこれを書こうと考えたのか?インタビューでも答えているが、この問題に関して誰も責任を取っていないではないか、ということを言いたかったようである。朝鮮半島の2つの政府は、北も南も独立してできたばかり、日本からの帰国者を受け入れる余裕などなかった。李承晩の独裁政権である南は、はっきりと拒否し、「北送」を批判した。一方の金日成独裁政権である北は、受け入れる気がないくせに受け入れを発表し、国際的に〝成功者〟であることを示す路線をとったが、実際はそうではなく、帰国者を殆ど人として扱わず、逆らうものは次々に銃で撃ち、奴隷のように働かせ、餓死や拷問死、衰弱死、自殺などでその数を減らしていった。「終章」にあるが、拉致問題も帰国運動も根はひとつ、ということ。本質は同じである。
そして、帰国運動は日本政府や政治家たちも支援した。超党派の組織を作ったが、その中心人物が小泉純也だった。一方、拉致問題解決の突破口を開いたと日本で大変な評価を得た政治家は、時の首相である小泉純一郎だった。2世議員が地獄へ在日朝鮮人を送り込み、3世議員であるその息子が拉致された日本人を連れ戻す。根が一つであるなら、親子で行ったマッチポンプとしか言いようがない。父親がしたことの責任は、一体、誰がとるのか?
もちろん、その前に、朝鮮半島への侵略や、大勢の朝鮮人を日本に連れて、苦難の生活を強いたのは誰か?その責任を誰もとっていないし、それを隠すために帰国運動の支援をしたのである。これが著者の一番言いたかった点であろう。
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第1部は大阪が舞台。孔仁学という在日朝鮮人の高校生が主人公で、北尾吾郎著『38度線の北』(新日本出版社)を読み、帰国運動の重要性を感じ、人に本を貸すなどして帰国を勧めるようになった。孔一家は貧しく、学校でも町でも職場でも、えげつない差別を受けて暮らす。ただ、仁学は勉強ができたため、公立高校へ行って大学進学を目指していた。兄、妹、弟がいたが、兄も工場で働きながらそれを心から応援していた。不安定な仕事しかない父親は、覚めた目でみていた。大学を出たって差別される社会では、ろくに仕事なんかない、という具合だった。
もちろん、仁学自身も将来は帰国を希望、一家揃って北朝鮮でやり直したいと考えていた。そんな活動や姿勢が朝鮮総連幹部の耳に入り、総連の手伝いをしないかとスカウトされた。高校生でありながら、東京のイベントに招かれ、大阪での自分たちの現状などをあるがままに堂々と訴えた。彼は一躍スターとなり、帰阪すると英雄のような扱いを受けた。総連大阪本部で働き、将来の幹部候補に。もちろん、近所でも有名になった。
そんななか、兄が工場内の自己で左手の指を4本落としてしまった。僅かなお金を渡されてクビになり、もう大学へは行かせられないと仁学に詫びた。仁学は大学をあきらめ、父親の仕事を手伝ってドブさらいなどをしていたが、いよいよ帰国の第1便が出ることになり、日本では仕事がなく生きていけない兄を一足先に帰国させようと提案、総連に頼み込んで船に乗せた。
さらに、幼馴染みの一人である玄勇太が、在日のヤクザ組織と結びついている愚連隊に入り、殺人の手伝いをさせられてしまい、警察にも組織にも狙われていることを知り、勇太も帰国させることにした。勇太も仁学から北朝鮮の話を聞き、本も読んで「地上の楽園」ぶりに感激し、大喜び、大感謝で船に乗り込んだ。
ところが、兄からは全くの梨のつぶて。帰国を勧めた人たちからも、同じ。しばらくしてやっと帰国者の親族から手紙が来たが、欲しいものはなんでもあり、食べ物もなんでもあって美味しいと、その「地上の楽園」ぶりを報告しているものの、食べ物や衣類、日用品を大量に送ってくれとも書かれている。さらに、現金も。これはきっと検閲を誤魔化すために嘘の文面を書いているに違いない、本当はとても大変な生活をしているのだ、と親族は見抜いた。なぜなら、書いてあることが嘘の場合に分かる暗号のようなものを事前に取り決めしていたからだった。
(本当の話なら「前略」「草々」、嘘なら「拝啓」「敬具」と書け、など)
そう言われた孔仁学は、最初は信じなかったが段々と疑い始め、総連幹部に確かめにいく。何度も食い下がり始めると、幹部たちは態度を急に変えて、仁学のことを反逆者呼ばわりし、総連から追い出し、痛い目にあわせようとしはじめる。さらに、在日の人たちからは、彼は総連の嘘の片棒を担いだという評価になり、暴力を含めた散々な目にあうことになる。仁学は心から玄勇太をはじめ、自分が帰国を勧めた人たちにお詫びをしたいと思い、殺して欲しいとさえ思い始めた。
ここで一部は終わり、2部となる。
2分の主人公は、玄勇太。
彼の地獄のような生活が描かれる。腕っ節が強く、体力があり、正義感に溢れる彼は、なんとか生きのびていき、帰国女性と結婚をし、娘も生まれる。幸せを感じ始めた矢先、彼は役人に目を付けられ、妻子と引き離されて管理所送りになる。もう、一生出られない。もちろん、妻子も殺されていることだろう。自暴自棄になった彼は、自らの命などまったく惜しくないと思って奴隷のような生活を送っていた。ところが、あることがあり、このまま死ぬのはだめだ、この実態を世界中に知らせようと決意する。そして、脱北をはかる。
銃で撃たれながらも、豆満江を越え、中国の朝鮮族村に。脱北成功。
3部は、2000年代の日本が舞台。
埼玉県八潮市に住む孔仁学、韓国の出先機関(裏の仕事をしている)で働いてきた玄勇太、やはり脱北に成功して企業経営者として大成功した女性・高美花(大阪出身で仁学や勇太も知っている)の3人が登場し、本書で言いたい一番の本質を露わにしつつ、この問題、この歴史に関する本の出版へと話を進めていく。すなわち、本書がそれに重なってくるわけである。
Posted by ブクログ
本書は1959年から1967年にかけて行われた在日朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)による北朝鮮帰国運動をベースに書かれた小説である。
北朝鮮帰国運動は、在日朝鮮人とその家族を集団的に北朝鮮へ帰国させるための運動で、約9万3千人が永住帰国した。
日本社会でひどい民俗差別を受け、貧困生活を送っていた在日朝鮮人たちは、朝鮮総聯が、衣食住の心配のない「地上の楽園」と喧伝する北朝鮮での暮らしに夢を託した。
ところが、帰国した先に待ち受けていたのは、常軌を逸した強制重労働と非人間的生活環境だった。
彼らは、北朝鮮の社会主義体制のもと、「在胞」、「帰胞」として新たな差別を受け、思想教育や監視の対象になることもあり、絶えず、飢餓や処刑の恐怖に苛まれる地獄の苦しみを味わうことになった。
要するに、北朝鮮は、韓国に対する政治的優位性と無償の労働力を得んがため、人道主義を謳って、在日朝鮮人の帰還をぶち上げたのである。
対して、韓国は北朝鮮を非難しながら自国の出身者を受け入れようとしなかった。
「帰国運動」は、朝鮮戦争を根源にした国際社会の思惑によって演出された「死と流血の茶番劇」だったのである。
本書は、帰国に希望の光を見出し、熱情を抱いた若い二人の主人公を通して、彼らの夢がどのように踏みにじられ、どれほど深い絶望の淵に陥れられたかを濃密に描いている。
1959年、大阪鶴橋周辺で暮らす主人公ら在日朝鮮人の間では、「帰還運動」(日本政府は北朝鮮を国家として承認していなかったので「帰国運動」と呼ばなかった)が過熱していた。
学問の道を志し、公立高校で学ぶ孔仁学は、恩師の山崎先生が勧めてくれた寺尾五郎の著書「38度線の北」に感化され、帰還運動に次第に傾倒、総聯の活動に関与していく。
彼は、職場の事故でのケガで失職した兄やヤクザの抗争に巻き込まれた親友・勇太の一家を苦境から救おうとして、第一次帰還船に乗せる。
だが、その後、帰国者たちから「騙された」ことを暗に伝える知らせが次々と届く。
愕然とする仁学に対し、同胞は卑劣な売国奴として罵詈雑言を浴びせ、家族への嫌がらせが続く。恩師の山崎先生は責任を感じて自殺する。
大阪は仁学にとって「生き地獄」と化す。ここまでの話が第一部。
第二部では、もう一人の主人公・勇太が北朝鮮に帰還して味わう「死と隣り合わせの地獄」を描く。
わくわくしながら帰還船に乗り込んだ勇太は、船内の食事の貧弱さや寝床の汚さに違和感を覚え、着岸した港で出迎える人々の貧しい身なりを見て、ここは楽園ではないと気づく。
現地に降り立つと、自由に住んで働く場所を選べるはずが、強制連行、そして、社会の最下層としての差別、強制労働。
劣悪な住環境と食事で体力は奪われ、反動分子と見なされると公開処刑が待っている。
勇太の親族、新しい家族や仲間も次々と命を落としていく。
凄惨で衝撃的な描写が、これでもかというほど続き、さすがにうんざりしたが、著者は、彼ら帰国者の苦悩の重さをなんとしてでも強く訴えたかったのだろうと感じた。
最後は、年を重ねた二人が再会し、過去の問題に目を背けず、明らかにして追及することで拉致問題など現在の問題の解決につなげるべきだとの希望を見いだす結末となる。
小泉純一郎の父、純也が帰還運動の中心的役割を担ったこと、日本における民俗差別が北朝鮮への帰国を促す一因になったことなど、深い歴史的意義を知ることができた一冊だった。