あらすじ
麻薬中毒と自殺未遂の地獄の日々、小市民のモラルと既成の小説概念のいっさいを否定し破壊せんとした前期作品集。“二十世紀旗手"という選ばれた自負と「生れて、すみません」という廃残意識に引き裂かれた現代人の心情をモザイク的構成のうちに定着させた表題作、後年「人間失格」に集約される精神病院入院の体験を綴った『HUMAN LOST』ほか『虚構の春』『創生期』など7編を収録。文体の途中からの変更、助詞の極端な省略、文章の断片による構成、演説体・オペラ風・日記風などの文体の駆使、等々、手練手管の限りを尽くす。(解説・奥野健男)
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Posted by ブクログ
作者の内側、精神世界に、正面から向き合った作品たち。作者の表現への理解が深まった。同時に、今を生きる我々の内なる苦悩、精神的な複雑さをも、戦前の時点で作者が表現し得ている。自分を見つめ直す折に、また読み直したい。
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太宰は小説家というより、詩人みたいだと思う。
読んでいると、断片的な言葉がキラキラと辺りを舞うような感覚になる。
●雌に就いて
2人の人物の会話のみの形式で進んでいく。
理想の女との妄想をくりひろげるはずが、話は妙に具体的。
ずっと会話のみが続くからこそ、最後の地の文の威力、余韻がすごい。
「女は寝返りを打ったばかりに殺された。私は死に損ねた。七年たって、私は未だに生きている」
●喝采
演説形式の話。
独白体が得意な太宰の文と相性が非常に良く、好きだ。
●二十世紀旗手
正直話のすべては理解できなかったが、言葉の巧みさが伝わる。最後のパラグラフがまるごと素敵。
「それも三十にちかき荷物のうち、もっとも安直の、ものの数ならぬ小さいバスケット一箇だけ、きらきら光る真鍮の、南京錠ぴちっとあけて、さて皆様の目の前に飛び出したものは、おや、おや、これは慮外、百千の思念の子蟹、あるじあわてふためき、あれを追い、これを追い、一行書いては破り、一語書きかけては破り、しだいに悲しく、たそがれの部屋の隅にてペン握りしめたまんま、めそめそ泣いていたという」
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含羞は、誰でも心得ています。けれども、一切に眼をつぶって、ひと思いに飛び込むところに真実の行為があるのです。できぬとならば、「薄情。」受けよ、これこそは君の冠。
『HUMAN LOST』丸ごとスクラップしたいくらい。「くたびれたら寝ころべ!」「笑われて、笑われて、つよくなる」本当は岩波文庫がry
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麻薬中毒で精神的に最も錯乱していた時期の作品なので、悲痛ではあるのだけれども、だけどその悲痛さ、混乱、脆さや痛々しさが余計に胸に染みる。
「私の欲していたもの、全世界ではなかった。百年の名声でもなかった。タンポポの花一輪の信頼が欲しくて、チサの葉いちまいのなぐさめが欲しくて、一生を棒に振った」(二十世紀旗手)
この言葉を読むたびに、ひどく泣きたいような気持ちになる。
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声に出したくなるようなとても心地の良いリズム。
歌のよう。
「苦悩高きが故に貴からず。」で始まる序章、"神の焔の苛烈を知れ"
「 罰だ、罰だ、神の罰か、市民の罰か、困難不運、愛憎転換、かの黄金の冠を誰知るまいとこっそりかぶって鏡にむかい、にっとひとりで笑っただけの罪、けれども神はゆるさなかった。
君、神様は、天然の木枯らしと同じくらいに、いやなものだよ。
峻厳、執拗、わが首すじおさえては、ごぼごぼ沈めて水底這わせ、人の子まさに溺死せんとの刹那、せめて、五年ぶりのこの陽を、なお念いりにおがみましょうと、両手合せた、とたん、首筋の御手のちから加わりて、また、また、五百何十回目かの沈下、泥中の亀の子のお家来になりに沈んでゆきます。」
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これは小説であって、フィクションで、創作物で、商業用エンタテイメントです。稼いで薬代少し払わないと、ツギ売ってくれないかもしれない。
脳病院には瞞されて這入らされちゃった。ええ、物書きですから。何でも見聞したり、文字の羅列は売るんです。船橋に遊びに来てください。来るときはお金持ってきてください。
humanlost
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学生時代に読んだときとはだいぶ印象が違う(そりゃそうだ)。
小説中に散りばめられた太宰の甘え。
「こんなに、僕はひとりで苦しんでいるのだから、どうぞ優しくしてください」
好き勝手やって人に迷惑かけて何を言う。と、大人になってしまった私は思う。
だけど、甘えの下からこぼれる悔し涙を、絶望の吐息を、美しい言葉に昇華する。錯乱した精神が、原稿用紙に向かうときだけは研ぎ澄まされるかのように。つくづく純文作家だなあと思う。
Posted by ブクログ
「二十世紀旗手」という
華々しいタイトルに反して
太宰の苦悩や混乱が
感じられる
読みづらいけど
文章のリズムとか表現には
ハッとさせられる
古本屋かえりみちにて購入
Posted by ブクログ
『晩年』の作品群と似た雰囲気をもっている。
モラトリアム期の懊悩を抱えたことがある人なら、なんとなくこの太宰作品群のもつ雰囲気にそれを感じとり、自分が書いたわけでもないのに何だか恥ずかしいような気持ちになるのではないか。
懊悩しながらあっちへいったりこっちへきたり、その勇ましくないクネクネのなかに、ふと美しいワンフレーズや、それはそうだよなと頷くような一文が現れてきます。
中学生の頃は、なんだかつらつら長々とまとまりのないことが書かれているなかに、むやみに魅力的な一節が出てくるなぁという印象だったが、30代の今読むと、つらつら書かれているようにみえて実はリズムよく計算されていることがわかる。
少し気持ちに余裕のあるときに読むのがおすすめ。
Posted by ブクログ
53冊目『二十世紀旗手』(太宰治 著、1972年11月、新潮社)
太宰治が1936年から1937年にかけて発表した、表題作を含む7編を収録。
20代後半だった太宰の苦悩や絶望が赤裸々に著されており、それは85年後の現代を生きる我々にも、身近な心の苦しみとして痛切に感じることが出来る。
描かれている内容は時代を越える普遍性を持っている。
しかし、この時期の太宰は精神的な混乱を抱えており、それが文章にも表れている。
端的に言って、非常に難解で読みづらい作品集である。
「笑われて、笑われて、つよくなる。」
Posted by ブクログ
これについて行けたら人生は多分もはや自分にとって意味がないのではないか、と思う程度に、借金と苦悩と言い訳に満ちた作品集であった。
ヒューマンロスト以外は読み返さなくていい。
Posted by ブクログ
作品集「晩年」の発表前後
麻薬中毒で錯乱していた時の、支離滅裂な作文ばかり集めたもの
「狂言の神」
友人の笠井くんが自殺してしまった
そこで追悼のために、彼のことを書き始めるのだが
じつはその正体が作者自身であることは、すぐに割れてしまう
(執筆前年に単独自殺を試みている)
貧乏に負けたと思われるのが嫌で、ポケットにお金を残しておくのだが
結局死ぬのもやめて、こんな小説を書いている
「虚構の春」
レター教室なんてとても言えない
どれもこれも独りよがり、そうでなきゃ白々しく取り澄まして
読むに耐えない猿面冠者の妄想以下だ
もっとこう、女生徒の日記みたいな色気のあるものを送ってほしい
そんな願いの伝わる書簡集
「雌に就いて」
いい女がそばに居てくれたら自殺しないですむのになあ
そんな理想を形にすべく、友人相手にシミュレーションを行うが
最後はやはり自殺だった
226事件の夜
観客なし、ひたすら陰惨の漫才だった
三島由紀夫などは、太宰のこういうところを意識したのだろう
「創生記」
独善的でなければ小説は書けない
きちんとした小説などスランプのしるしにほかならない
そのように嘯き、人に金を無心しては薬物に耽溺
支離滅裂であることに首尾一貫を見ようとする、凄惨な決意だ
心の平和の訪れは将棋に没頭したときだけなんだ
「喝采」
悲劇役者の柄じゃない、出世はもとより望めない
だから涙の道化なんだな
「二十世紀旗手」
二十世紀はスキャンダルの時代だ
やりたかないけどしかたない、というスタンスで
生まれてすみません!とあらかじめことわってはいる
「HUMAN LOST」
いたわりを要求したのは太宰
金銭を要求したのも太宰である
その結果得られたのが麻薬中毒の苦しみだったとしても
たどりついた場所が精神病院だったとしても
すべて自己責任、自業自得というものだ
しかし、にもかかわらず!被害者づらの太宰であった
いちおう「人間失格」の原型とされている
…精神が回復していく様子も書かれているので安心?してほしい
Posted by ブクログ
うわ〜。これはマジもんに気が違ってます。全編あますところなく気狂いピエロな太宰さんを堪能し、ドン引きさせていただきました。話題の「絶歌」読む気はないですがかの作品の1億倍はダウナーな狂気を味わえることを保証します。「絶歌」より絶対こっち読んだ方がいいですよ!向こうは「治ってる」けどこの時期の太宰さん治っていませんから。「虚構の春」は書簡のみで構成された作品でしたが結構好きです。「HUMAN LOST」は意外と癖になる変なユーモアを感じました。でも中学生が読書感想文に書くと家庭訪問されるからやめておこうね!
Posted by ブクログ
天才作家がジャンキーになると、こんなブッ飛んだ文学が創生されるという見本のような作品集。よくもこんなに様々な言葉が湧いてくるものだと感心するが、線ではなく完全な点の文学である。後の代表作「人間失格」のプロトタイプみたいな「HUMAN LOST」で、内妻の悪口を書いた部分が逆に太宰の人間らしさを感じる。
Posted by ブクログ
私の読解力が足りないので理解できないのかと思ったが、解説を読む限り最初から難解な文章らしい。
でも、自殺にちょうどいい木を見つけて「善は急げ、というユウモラスな言葉が浮かんで」というような一文など、手記のような小説などは、ついクスリと来てしまう部分もある。
Posted by ブクログ
読みながら、うあーどうしたらいいんだろう、何を感じればいいんだろう、わかんないってなった。
太宰でそうなったのは初めてだったからどうしたらいいかわからなかった。
でも不思議なことに、もう一回読みたくなる。
Posted by ブクログ
表現が抽象的、且つ変奏的な文体で単細胞の私には分かりかねた。しかし、解説で奥野さんが仰っているとおり、「錯乱した異常な精神状況を錯乱のまま表現した作品もある」。これはある意味貴重なのではないだろうか・・・。
Posted by ブクログ
ホンマ修治に呆れたわ! マア入水、道化、借金、入水、お酒、薬、借金、道化、道化、自棄、繰り返し繰り返し嘘ばっか。 更にモテモテ。 ありゃしないわ。 此処の見所は明らかに一つ、青年の光栄を背負って鼻先か出ようか、信じがたい世辞や自分の実の才能を疑おうか。 嘗て謹んで虚構した狂乱と違って、human lost に暴れた真狂乱。 その凄まじい人間の自由に対する弱さは美しい。
Posted by ブクログ
すーげ読むのに時間かかっちった。てへ。私小説かと思えば純然たる小説だったり、届いた手紙の記録かと思ったらやはり創作だったり、ドキュメンタリーだと思ったらコントだったり、いやはやどこを切っても太宰治。この「おのれ自身のことなのかそうじゃないのかはっきりしろよ」感。それでいて意外と読後感は爽やかだから参っちゃいますね。私は太宰治を「技巧の人」だと勝手に思い込んでいるんだけども、この一冊は特にその「仕掛けに仕掛けたぜ」的な色合いが濃いと思います。個人的には「狂言の神」「虚構の春」「雌に就いて」「二十世紀旗手」が好き。その他の作品には創作物的興味を惹起されはせぬものの、「またやってるよ」的愛着は感じます。こういうの好きだな、この人。
Posted by ブクログ
太宰治のことを全く知らなかった俺だが、
この本を読んで彼がどんな人生を歩んできたかがわかった。
しかし彼の世界観に浸るまでにはまだまだ時間が必要らしい。。
読んだあと重いものが肩に残っているような暗い感じ。。
彼が入水自殺までいたる、人生の前半期の作品集。
Posted by ブクログ
これは読んでて辛いな。
太宰の苦悩と葛藤がありありと出ています。可哀想ぶってるのをおどけた文章構成で誤魔化してみたり、絶望しきっても書くことしか出来なかったり。
08.04.21
Posted by ブクログ
読ーみーにーくーいー。
創世記なんて、本当に、字が大きくても読みにくい。
HUMAN LOSTを読むために買ったようなもの。
人間失格に通じる物があるから。
金魚の命…。