あらすじ
被災・疎開の極限状況から敗戦という未曽有の経験の中で、我が身を燃焼させつつ書きのこした後期作品16編。太宰最後の境地をかいま見させる未完の絶筆「グッド・バイ」をはじめ、時代の転換に触発された痛切なる告白「苦悩の年鑑」「十五年間」、戦前戦中と毫も変らない戦後の現実、どうにもならぬ日本人への絶望を吐露した2戯曲「冬の花火」「春の枯葉」ほか「饗応夫人」「眉山」など。(解説・奥野健男)
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Posted by ブクログ
太宰治特有の面白さが滲み出ていた文章で読み進む手を止められなかったが、未完なのが唯一残念。
女たらしな男がこれからどんな風にズタボロになりながら愛人達と別れていくのか、今までも面白かったが物語はこれから…!というところで作品は終わっている。
そこで一つ、この後の展開について私が思うことを書くことにする。
まず、水原ケイ子の兄には絶対殴られるであろう。(太宰治の事だ、ここで殴らないで兄と仲良くする展開になるだろうか…それはきっと、ないだろう。)とメタ発言は置いておいて、あの見返りを常に求めるキヌ子が、報酬も何も提示しない状態で助けてくれる訳などまずないだろう。ケイ子を誑かしていたのはあくまで田島だけなのだから、キヌ子が殴られる理由もなし。
また損をする田島が残り8人近くの愛人と別れる時にキヌ子に対してどういう行動をとるのかが太宰治にしか表現できないのが非常に勿体無い。妄想のしようがないのかもしれない…。
そして田島は田舎から妻子を呼び寄せ、幸せな家庭を築こうとしているが果たして本当にこの夢が叶うのだろうか。呼び寄せる、ということは、田島のいる場所に来てもらうということであるが、田島の周りには、愛人の女達10人近く、そしてキヌ子がいるのである。手伝ってやった田島の妻子という絶好の機会をキヌ子が逃すことはあるだろうか?愛人との別れの途中で弱味一つ握れば、それだけで田島を思い通りに動かせるかもしれない。
田島は最初から最後までキヌ子の掌の上で踊らされ、得する事などなく最後は妻子にまでフラれる…こういう展開になるのではないだろうか?
今長々と述べた事は全て私の妄想であるが、他の考えの人もたくさんいるだろうから他のラストを想像している意見も是非読んでみたいと思う。
Posted by ブクログ
好きな作品とそうでない作品が入り乱れていた。でも、結局表題作の「グッド・バイ」で最後に盛大なコメディで締めくくられて、ああこれが太宰かと。遺作がグッド・バイで良かったなと思える、明るく軽快で未来を向いた作品だった。
もったいない、もったいない、続きが読めないなんて。でもなんだかこれを書きかけで逝ってしまうのはとても、喜劇みたいな、悲劇みたいな、人生。
戦後ずっと、世の中の変わらなさに絶望しつづけていた太宰が、この遺作でこんなことを言う。驚いた。
「けれども、それから三年経ち、何だか気持ちが変わって来た。世の中が、何かしら微妙に変わってきたせいか、...(中略)小さい家を一軒買い、田舎から女房子供を呼び寄せて、......という里心に似たものが、ふいと胸をかすめて通ることが多くなった。」
以下、その他の作品について
■薄明
子煩悩な平凡な父の姿。結膜炎になった子がしんぱいでおろおろ、酒を飲んでも酔えず、吐き、路傍で合掌。
父親の姿が見られほっこり。その一方戦争だけが太宰を家庭につなぎとめ、命をつなぎとめていたようにも感じてしまう。
「もし、この子がこれっきり一生、眼があかなかったならば、もう自分は文学も名誉も何も要らない。みんな捨ててしまって、この子の傍にばかりついていてやろう、とも思った。」
「『そうか、偉いね。よくここまで、あんよが出来たね』」
■冬の花火、春の枯葉
2作とも戯曲のスタイル。新ハムレットより完成度が高い。戦後日本に対するみじめで、やりきれない思いが、とても悲しく美しい旋律の中で繰り広げられる、悲劇。
「冬の花火、冬の花火、ばからしくて間が抜けて、清蔵さん、あなたもあたしも、いいえ、日本の人全部が、こんな、冬の花火みたいなものだわ。」
「永い冬の間、昼も夜も、雪の下積になって我慢して、いったい何を待っていたのだろう。ぞっとするね。雪が消えて、こんなきたならしい姿をあらわしたところで、生きかえるわけはないんだし、これは、このまま腐って行くだけなんだ。めぐり来たれる春も、このくたびれ切った枯葉たちは、無意味だ。」
■フォレスフォレッセンス
太宰にとっては夢も現もすべて同じ。小説も生活も同じ。どこまでも一元的で主観的で、だから好きなんだろうなと思わされた話でした。
■男女同権
時代的に仕方ないのかもしれないが、かなり無理。
太宰は好きだけどこれは......
Posted by ブクログ
連載中に作者が自死してしまった為未完のままの小説。
主人公が田島(太宰の本名 津島)、複数の愛人、酒豪である事から自己を登場させている模様。人間失格や斜陽でも必ず太宰らしき人が出てきますしね。
太宰の友人、坂口には不評でしたが(笑)私は楽しんで読めました。エンターテイナー太宰を感じる事が出来る小説だと思います。
愛人に別れを告げる為、容姿端麗なキヌ子に妻として装ってもらう事をお願いする田島でしたが…。当時としては珍しく女性性に囚われない生き方をしているキヌ子に戸惑う田島。
もりもりと食事をし(田島のお金で)、服を買い(田島のお金で)、髪をセットしてもらいます(田島のお金で)
まだまだ読みどころはあるのですがこの辺で。
青空文庫であればアプリでもWEBでも無料で読む事ができます。