あらすじ
困難な戦争期にあって、深く芸術世界に沈潜することで時代への抵抗の姿勢を堅持し、日本文学の伝統を支えぬいた太宰中期の作品から、古典や民話に取材したものを収める。“カチカチ山”など誰もが知っている昔話のユーモラスな口調を生かしながら、人間宿命の深淵をかいま見させた「お伽草紙」、西鶴に題材を借り、現世に生きる人間の裸の姿を鋭くとらえた「新釈諸国噺」ほか3編。(解説・奥野健男)
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Posted by ブクログ
・あらすじ
第二次世界大戦中に描かれた太宰治中期の作品集。
中国と日本の古典、お伽話をベースに太宰のユーモアと観察眼、空想力が存分に発揮された作品。
・感想
先にYouTubeの朗読で全部聞いてたけど、今回は改めて朗読を聴きつつ(読むスピードに合わせたので1.5倍速だけど)本を読んでみた。
太宰らしいユーモアが溢れつつ生真面目、ちょっと自虐的で笑えるところが多々あって面白かったw
特に好きなのはやはりお伽草子。
日本のお伽草子を太宰が二次創作?するにあたりキャラクター設定、舞台設定、ストーリー展開について太宰なりに肉付けしてるんだけどそれがまたとても面白い。
こういう作品を読むと太宰の繊細さ、観察眼、洞察力がよくわかる。
カチカチ山であれだけの苛烈な罰を狸が受けるには…と空想巡らした結果があの狸とウサギのキャラ設定なのが絶妙(男性はやっぱり「狸かわいそう」と思ってしまうのかもだけど)
後半なんて特に狸が今後一切近寄ってほしくない不快すぎる生物としてウザキモに書かれてるのすごいなって…。
あの結末に少しの同情心も湧かないw
あとは桃太郎さんを太宰が書けない言い訳をだらだら書いてるところもユーモラスすぎて好き。
「日本一の快男児なんて日本ニ、三にすらなったことない作者に書けるわけない」みたいに書いてるところ笑った。
太宰はあと駆け込み訴え、風の便り、ろまん燈籠、女生徒、畜犬談、皮膚と心、黄村先生言行録あたりも本で読みたい。
他にあの太宰にしては珍しいミステリー調のやつ…題名忘れたけどあれも読みたいな。
Posted by ブクログ
浦島太郎とカチカチ山がとにかく面白い。作者の批評精神が全開で、この人はずっとこう言う世間と人間に対する不満というか醒めた見方を何処かで持ち続けて居たのだなと思う。斜陽等の長編にも通底して、この世の中に対する虚無めいた見方が流れているように感じる。
反面、この文庫に収録の他の作品はあまり面白いと感じられなかった。特に新釈諸国話は正直、読むのがつらい。いかに作者のエッセンスで翻案したとは言え、余りに元の西鶴のストーリーと合っていないと感じ、読んでも何ひとつ感じるものがない。
お伽草紙は良かったのだが、他が上記なので、個人的には文庫全体としての評価は低めとなってしまった。残念。
Posted by ブクログ
初めてしっかりと太宰治を読んだが現代の作家たちとは何もかも違く読みにくかった。個人的に面白い話も多々あったためまた太宰治の作品を読んでみたいと思う。昔話を面白く作り変えるのはとてもユーモアがあり、彼しかできないのではないかと思った。
Posted by ブクログ
カルチャーショック!
それぞれの昔話の解釈がすごい。
カチカチ山のたぬきが中年のやらしい、きたない親父で、うさぎが残酷な15.6の少女という解釈には、圧倒された。いくらひどい仕打ちをされても、惚れている弱味でついつい近づいちゃう、みたいな。
最後の「古来、世界中の文芸の哀話の主題は一にここにかかっていると言っても過言ではあるまい。女性にはすべてこの無慈悲な兎が一匹住んでいるし、男性には、あの善良な狸がいつと溺れかかってあがいている」には、なんともいいがたいものがある。
こぶとりじいさんにしても、だれも悪く無いのに不幸な人が生まれてしまったと。
人間って本当にさまざまな考え方を持っているもんだな。
そして、こういうパロディ?を読むと、原本をハッキリ知らなかったんだなともおもう。
1989 の感想を転記