あらすじ
太宰文学のうちには、旧家に生れた者の暗い宿命がある。古沼のような“家”からどうして脱出するか。さらに自分自身からいかにして逃亡するか。しかしこうした運命を凝視し懐かしく回想するような刹那が、一度彼に訪れた。それは昭和19年、津軽風土記の執筆を依頼され3週間にわたって津軽を旅行したときで、こうして生れた本書は、全作品のなかで特異な位置を占める佳品となった。(解説・亀井勝一郎)
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
太宰治が故郷・津軽を3週間旅をした話。
今まで読んだ作品の中で、1・2位を争うくらい好き作品。
松尾芭蕉の行脚掟(あんぎゃのおきて)を、独自の解釈で破ってお酒を飲むところ、また
「他の短を挙げて、己が長を顕すことなかれ。
人を誹りておのれに誇るは甚だいやし。」
の掟を破り、「芭蕉だって、他門の俳諧の悪口は、チクチク言ったに違いない。」と、某五十代作家(志賀直哉だと言われている)の悪口を言うシーンは、太宰治の卑屈さとユーモアある性格が現れていて笑った。
また津軽の歴史や寺社仏閣、その土地柄の人たちの性格・風土について知ることができたのも良かった。
津軽へ行く機会があったら、必ずこの本を片手に旅したい。
ラストの、たけと30年ぶりに再会するシーンの描写が好き。スッキリとした爽やかな読後感がある。
Posted by ブクログ
太宰治の作品をちゃんと読んだのは、これがはじめてかもしれない。
ほぼ「走れメロス」を小学生の時に読んだきりだった。
中高6年間教わった国語の先生は、あまり太宰がお好きでなかったため、太宰に対してはネガティブな印象を持っていた。
しかし、今回、青森への旅を機に読んでみて、その印象は好ましいものへと変わった。
津軽への帰郷の旅行記という体裁をとる本書は、戦時中にもかかわらず、道中始終酒を飲み、
世の中に、酒というものさえなかったら、私は或いは聖人にでもなれたのではなかろうか
などと述懐するあたりの人間臭さがよかった。
最後に太宰が、自分の育ての親とも言うべき女性と再会する場面は感動的だった。
青森旅行中に現地で読み終えられなかったのは、残念。
Posted by ブクログ
かなり集中して読まないと100%楽しむのは難しい。太宰治と行く!津軽探索、そして酒。といった感じの一冊。
内心、小説らしい物語を期待していたから、少し残念な気持ちも無くはないが、全体的に面白かった。酒を求めて歩き回り、太宰治の故郷を作者自身の目で体感できたことは面白かった。
ただ、自分が津軽に対してイメージする事が難しく、綺麗な風景や何もない長屋が並んだ村など、戦時中の津軽はこんな感じなんだと思いながら読んでいた為、感動も薄かったかもしれない。
人に慣らされた景色、人の匂いのする景色。この表現はとても秀逸だ。どれだけ綺麗な場所であっても、観光客が押し寄せ、たくさんの人の目に晒されるほど、魅力が弱まったりする事もある。穴場スポットを見つけて、自分だけが自然を体感できる時こそ、これ以上ない充実感を得られるものかもしれない。その部分には深く共感をすることができた。
郷土の話も多く出てくる為、少し難しい部分もあるが、調べながら読んだりするととても面白い一冊だと思う。
Posted by ブクログ
津軽史の引用や土地の説明が読みにくい…知人とのやりとりも退屈…と思いながら無理して読み進めていたが、ラストで一気に面白くなった。
田舎の駅舎での場面の切り取りがとても綺麗だった。
たけとの再会もグッときた。
生まれ故郷について、自虐的に語る一方で誇り高く思っていたり、家族や知人との関係を悲観的に語りながらも意外に良好であったり、自身を卑下するのに無遠慮なところがあったり、理解が難しかった。読んでるこちらも不安定な気持ちになる。
太宰の生い立ちには暗いイメージを持っていたけれど、想像とは異なり色々な人からたくさん愛情を受けて育った人なのだと感じた。
「信じるところに現実はあるのであって、現実は決して人を信じさせる事ができない」という言葉が深い。