【感想・ネタバレ】晩年(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

妻の裏切りを知らされ、共産主義運動から脱落し、心中から生き残った著者が、自殺を前提に遺書のつもりで書き綴った処女作品集。“撰ばれてあることの 慌惚と不安 と二つわれにあり”というヴェルレーヌのエピグラフで始まる『葉』以下、自己の幼・少年時代を感受性豊かに描いた処女作『思い出』、心中事件前後の内面を前衛的手法で告白した『道化の華』など15編より成る。(解説・奥野健男)

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Posted by ブクログ

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「猿ヶ島」の終わりの一文が凄く好きです。

猿が様々な人間を批判している場面に私達の普段の生活と重なる部分があり、考えさせられました。

主人公が安定した生活を選ぶのか。自分の生きたいように生きるのか。という選択肢が出た際に、後者を選んだ場面が印象に残りました。

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2022年09月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

太宰のデビュー短篇集。
太宰治を知る上でのエッセンスが詰まってると個人的には思います。

「葉」と「猿面冠者」が好き。

「葉」は小説ではなく、アフォリズムっていうのかな?デビュー前の作品やボツになった作品の印象的な断片を集めて散りばめた作品。
いかにも太宰って感じの警句が揃ってる。

「猿面冠者」は『どんな小説を読ませても、はじめの二三行をはしり読みしたばかりで、もうその小説の楽屋裏を見抜いてしまったかのように、鼻で笑って巻を閉じる傲岸不遜の男がいた。』
こんな書き出しで始まる、ある駆け出し作家の話。
本気で読むとラストで肩透かし食らっちゃうかも。
作中作をちゃんと一本描き上げてくれていたらそれはそれで読みたかったなぁ。

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2023年04月09日

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ネタバレ

いやぁ。自分は太宰治の熱心な読者というわけではないですし、自虐と自己憐憫の果てに破滅に至るような作品なのかと身構えていましたが、意外なほどの明るさと瑞々しさを湛えた青春の書じゃないですか。

まずもって、27歳の若さで世に送り出した処女作品集のタイトルが『晩年』って。人生に疲弊し切った老人の繰り言のような題です。が、内容を読むにつけ、人生にそれだけ絶望し尽くすというのもまた若さなのかも、と思わされましたね。年齢ではなく、感性において、太宰は本当に若い。逆に若者でなければ書き得ないような鋭さといいますか、斬新な感覚に満ちています。

妻の裏切りを知らされ、共産主義運動から脱落し、心中から生き残った著者が、自殺を前提に遺書のつもりで書き綴った処女作品集。
“撰ばれてあることの 恍惚と不安と 二つわれにあり”というヴェルレーヌのエピグラフで始まる『葉』以下、自己の幼・少年時代を感受性豊かに描いた『思い出』、心中事件前後の内面を前衛的手法で告白した『道化の華』など15編より成る。

1 葉/2 思い出/3 魚服記/4 列車/5 地獄図/6 猿ヶ島/7雀こ/8 道化の華/9 猿面冠者/10 逆行/11 彼は昔の彼ならず/12 ロマネスク/13 玩具/14 陰火/15 めくら草紙

所々、著者自身による前置きや脚注、解説や弁解めいた文言が挿入されるあたり、鼻につかないではないです。四の五の御託を並べるのはいいから、早く本編に行ってよ!と言いたくなる感じ。が、溢れ出る文才の絵の具をキャンバスに叩きつけたようなアオハルっぷりはたまりません。この純度・深度を他の作家で味わうことは困難ですわ。

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2023年09月17日

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ネタバレ

全体的に、ものすごく前衛的で、語り手である自分に批判的で、詩的で、難解なフランス文学を思い出した。

「魚服記」は結末の意味がわからず、父親に犯されたという解釈を読んでなるほどなぁと思うと同時に何だか後味が悪かった。
「列車」は人間の心理が深く描かれている作品だなぁと感嘆した。
「地球図」はただシロオテに同情。悲しい話だった。純粋な信仰心に感動。
「猿ヶ島」は冒頭の描写にまんまと騙されて、自分が見物されている側だったというオチをまさに体験した。
「道化の華」は、一人称と三人称が交錯する型破りな形式で、こちらが恥ずかしくなるくらい己を曝け出し自己批判に終始していたが文章が美しくて惹き込まれてしまった。魔物だなぁ。
「猿面冠者」は構成が凝っていて難解だったけれどオチを理解したら面白かった。
「彼は昔の彼ならず」は「晩年」のなかで一番好きな作品だなぁと思った。「彼」の「芸術家」らしさに心惹かれるあまり家賃の滞納を許してしまう大家が、「彼」に幻滅するまでの心理の移り変わりが鋭く描かれていて素晴らしかった。いるよねああいう人。
「ロマネスク」はおとぎ話を読んでいるような不思議な感覚だった。

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2020年06月18日

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ネタバレ

昭和十一年刊行の太宰治の処女作品集。

以前、別のアンソロジーで「富嶽百景」を読んだとき、自分がどう見られているのかをすごく気にする人だと感じたが、それは本書収録の作品にも直截的に書かれている。また、(意識的か苦しまげれかはさておき)小説の筋をいったん止めて作者自身が説明や言い訳をしたり、とりとめのない文句をコラージュ的に並べて雰囲気を演出したり、または箴言めいたことを書いてみたり、気取っていて自意識が非常に強い。解説には二十三、四歳のころに書かれたとされているので、そうなるのも当然ではあるのだろうけれど、いま一歩作品に入り込めない。思春期に読んでいれば、また印象は違ったのだろうとは思う。
どの作品にも作者自身が反映された登場人物が出てくる。


以下は印象的だった作品

・「猿ヶ島」
猿の流れ着いた島が、実は動物園だったと判明する。
先着の猿が語るさまざまな職業についての皮肉が面白い。

・「猿面冠者」
人生の岐路に立たされたとき、見知らぬ人から手紙が送られてくる、「風の便り」という小説を書く過程を作者の思考を交えながら描く。小説のなかで小説を書くという入れ子構造になっている。
同じ手法をとっている「道化の華」(本書収録)では、読者に見られることを意識したうえで悩み、卑下している感がある。

・「彼は昔の彼ならず」
親の遺産を譲り受けた青年は、木下青扇という男に家を貸したが、いっこうに家賃を払う気配がない。取り立てに行っても、いつもうまい具合にごまかされてしまう。働くようにすすめるも、女房が変わるたびに手をつける仕事も変わり、稼げている様子はない。なかば放っておいているところに、青扇の最初の女房が青年のもとを訪れる。

・「ロマネスク(仙術太郎 / 喧嘩二郎兵衛 / 噓の三郎)」
蔵にこもって仙術を会得した太郎。喧嘩の腕を磨こうと鍛錬を積む二郎兵衛。幼いころから嘘をつき続けてきた三郎。思うよういかない三人を、おとぎ話のような形で滑稽に描く。

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2023年03月20日

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