【感想・ネタバレ】修羅場の王 企業の死と再生を司る「倒産弁護士」142日の記録のレビュー

あらすじ

2兆3200億円という巨額負債を抱え2010年1月19日JALは会社更生法の適用を申請し倒産した。だが、わずか2年8ヶ月後には過去最速で再上場を果たす(それ以前に会社更生法を適用した上場企業138社のうち再上場できたのは9社)。
この歴史的再生劇を巡っては「稲盛和夫という名経営者による奇跡」あるいは「多額の公的資金を投入した偽りの再生」という対極的な二つの物語が流布している。
しかしその背後には、倒産・再建プロフェッショナルたちの壮絶な戦いがあった。その主役こそ「修羅場の王」瀬戸英雄である。マイカル、ヤオハン、SFCG(商工ファンド)など大型企業破綻の修羅場を数多く指揮し、JALでも再建司令塔・管財人統括を務めた瀬戸は、「会社更生法」という伝家の宝刀を抜き、既得権益にまみれた巨大企業の宿痾を断ち切った。JAL問題に関わってから会社更生法申請までわずか142日。銀行、財務省、政治家、労組……数々の「難敵」を相手に法的整理に基づく倒産→再生を目指して八面六臂の働きをした瀬戸は、後に稲盛をして「彼がいなければJAL再生はなかった」とまで言わしめる。
本書では瀬戸が初めて語る赤裸々な証言を軸に、当時の関係者への膨大な取材も交え、巨大企業の死と再生を描きだす。民主党への政権交代、リーマンショックなど激動の時代を背景に、読み物としても抜群の面白さ。
さらには、倒産をタブー視する日本社会に対し「挑戦すれば失敗もする。失敗したら、ケジメをつけてやり直せばいい。そのために倒産法がある。正しく真摯に取り組めば、復活は可能である」とのメッセージを届ける。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

修羅場を経験したことにない者ほど、無用なリスクを恐れる
「小善は大悪に似たり、大善は非常に似たり」
「聖人、君子、小人、愚人」
徳と才を併せ持つが聖人
徳が才を上回ってるのが、君子
才が徳を上回ってるのが、小人
徳も才もないのが愚人
危ないのは小人だ。なまじ才があるので、私利私欲のために組織を危うくする。
多くの人々は青雲の志を抱いて社会に出るが、いつのまにかそうした「当たり前」を忘れ、日々の「手練手管」を仕事だと勘違いしていく

0
2025年11月22日

Posted by ブクログ

2010年1月19日に負債総額2兆円超で倒産したJALは、わずか数年で業績を急回復し、再上場を果たすV字回復を成し遂げました。それには新生JALのかじ取りを担た稲盛和夫氏の功績が良く知られていますが、稲盛氏を迎える前に、JALをきちんと倒産させる必要がありました。信用不安を引き起こさず、1便の欠航も発生させずに倒産させる、その難事業に挑んだ人たちが本書の主人公です。

その難事業の中心となったのが企業の倒産を専門に引き受ける本書登場人物の中心的存在の瀬戸氏です。JALの倒産は、2009年の自民党から民主党への政権交代直後から事態が動き出します。日本のナショナルキャリアを潰さないために動き出す国交大臣の前原誠司氏と、長年の自民党政権のツケを引き受ける事に後ろ向きな民主党政権。一方でJAL内部では、私的整理か法的整理課を巡っての争いや強力な労働組合との交渉、債権放棄を巡る3メガバンクの頭取との交渉、そして再生JALのかじ取りを稲盛氏に引き受けてもらう課程、それらを一つ一つ解決してく様子が詳細に描かれています。

本書で何度も指摘があるように、信用不安を引き起こし、”(再生が)始まる前に(JALが)終わってしまう”事を避けるため、瀬戸氏をはじめとする人たちは細心の注意を払って事業を進めています。結果として、倒産しても我々一般人から見ると、今まで通りにJALの旅客機が世界中で定時運行される状況が産まれました。JALの再生については多くの本が出版されています。しかし本書はその前の段階、まさにJAL再生のエピソード0という位置づけの内容です。

著者の大西氏の企業物の著書は、何冊か読みましたがいずれも引き込まれる内容で期待を裏切りません。本書も企業の倒産に関する多くの知識を分かりやすく解説しつつ、そこに登場する多く人の発言を生生しく描く事で、両者のバランスが絶妙なのだと思います。政権内のやり取りで”イラ菅”とあだ名された菅直人氏が怒鳴る場面、法的整理を記者会見で発表するときの瀬戸氏の発言等々、ドラマの一場面を見ているかのような臨場感がありました。

0
2025年11月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

瀬戸英雄

p6 日本の倒産法には、破産法、会社更生法、民事再生法、および会社法の特別清算に関する規定がある

p16 日本における倒産は失敗のリセットでなく、タブーのままだ

p17 債務者のなけなしの財産を奪って無一文にするより、返済可能な水準まで借金をへらして(免責して)事業を継続させたほうが、最終的な債権回収額は大きくなる

p39 早川種三 会社再建の記

p46 4大法律事務所 西村あさひ法律事務所 アンダーソン毛利友常法律事務所、森濵田松本法律事務所、長嶋大野常松法律事務所

p54 株式会社産業再生機構法は5年間の時限立法だったが、カネボウ、ダイエーの事業再生を終えると高木は一年の運用期間を残して2007年にさっさと産業再生機構を精算してしまう

p58 当代きっての倒産弁護士、高木新二郎と瀬戸英雄の運命が激しく交錯する

p87 前原は京都生まれだが、両親は鳥取県の出身で、子供の頃、夏になるとSLにのって墓参りに連れて行かれた。その影響で鉄道をはじめとする乗り物が大好きになった。中学2年のときに、京都家裁の庶務課に務めていた父親が自殺し、その後は母子家庭で育った

p104 融資でも会社にお金は入るが、借り入れが増える。バランスシートを改善するには、返済の必要がない出資が必要なのだ

p148 辻本 あかん。この人たち、本当にJALがなくなっても構わないと思ってはる。JALの取引先には2万社の中小企業があって、そこが血の海になるなんて、想像もつかへんのやろうな

p249 スイス政府はスイス航空を見捨てるつもりはなかった
しかし2001年10月2日、アイルランドのシャノン空港で燃料会社が代金未払を理由に給油を拒否したため1便が欠航。これをきっかけに他の燃料会社も各国で給油を拒否したことでスイス航空はすべての運行を停止するグラウンディングの状態に陥った

p251 窓口札束積み上げ作戦
ジャスコが再建を支援するとわかった瞬間ヤオハンの棚に商品が溢れ、客足がもどった

p252 この実質倒産企業を相手にしたハイリスクハイリターンの融資をDIPファイナンスと呼ぶ

p257 修羅場を経験したことのない者ほど、無用のリスクをに怯えるんだな

p260 かつて昭和恐慌1927年の折、4度目の大蔵大臣に就任した高橋是清が、片面だけ印刷していない200円札を発行し、それを銀行の店頭にやまのように積み上げて、預金者を安心させ事態を沈静化させたのは有名な逸話だ

p262 日本の組織の危機管理は「事故をおこさない」ことに終始しがちだ。太平洋戦争がそうだったように「勝つこと」が前提で、「負けたときに備える人」は「裏切り者」「腰抜け」と罵られる。しかし米欧では「どんなに完璧を期しても失敗はあり得る」と考え、「退路」を確保しておくのがセオリーだ。「負けてもダメージは最少にする」という思考だ

p286  年たけて また超ゆべしと 思ひきや 命なりけり 小夜の中山 (西行)
この歳になって、再び命懸けでこの難所をこえることになるとは

p287 小善は大善に似たり、大善は非情に似たり 林述斎
小さな善行は良いことをしているように見えて大悪につながってしまうこともある。大きな善行は非情にみえることもある

p312 会社更生法の役割は会社を潰すことでなく、蘇らせることだ

p317 この国は敗者に厳しい、受験の就職も組織内での出世も。あらゆる競争が「負けたら終わり」のトーナメント方式で、敗者復活はない。誰もが勝つことよりも負けないことに必死で、リスクを冒さない

倒産法の要諦は敗者復活にある。1952年に米連邦倒産法第10条の制度を日本に移植した会社更生法が生まれてからこの方、高木新二郎や瀬戸英雄や倒産ムラの弁護士たちが目指したのは、まさに敗者復活だった

p323 米欧の経済記者に、あのシーンのことを聞くと、「あの社長がなぜ泣いているのかまったく分からなかった」

経営の世界でもスポーツの世界でも、敗者を晒し者にするのは、日本的あるいはアジア的な習慣だ

p350 稲盛がよく使う人間の分類に、聖人、君子、小人、愚人というのがある 資治通鑑

徳と才を併せ持つのが聖人。徳が才をうわまっているのが君子、才が徳を上回っているのが小人、徳も才もないのが愚人である
すべて兼ね備えた聖人は滅多にいない。まずは君子をめざすべきだ。才は人並みでも徳を積むことはできるから、凡人は努力次第で君子になれる。危ないのは小人だ。なまじ才があるので、私利私欲のために組織を危うくする

p377 新しき計画の成就は、只不撓不屈の一心にあり さらばひたむきに只想え 気高く強く一筋に 
中村天風

p397 民主党政権の唯一最大の成果といわれたJAL再生

p401 人生なんて結局は自分次第。前を向いていれば、会社がどうなっても、路頭に迷うってことはない

p402 冨山 今、日本の事業再生業界を引っ張っているのは、元山一證券、元日本長期信用銀行、元日本債券信用銀行の人たちです。潰れるはずはない、といわれていた大手金融機関が消えたのは大事件でしたが、あれで日本の事業再生業界に優秀な人材が流れた

p407 「挑戦できる社会」とは「失敗できる社会」である。倒産という、経営上最大の失敗を経てもなお、会社や人はやり直せる。そんな社会でこそ、人々は勇気をもってチャレンジできるのだ。その勇気に報いるために、倒産に至る過程で複雑に絡み合った利害関係を解きほぐす管財人がいる。


稲盛和夫 最後の闘い

0
2025年10月12日

Posted by ブクログ

普段あまりこの手の本は読まないが、エンタテインメントとして面白かった。映画作品にできるかもしれない。ある程度脚色されてはいると思うが、表に出てこない実際の出来事を実名で語られているのは興味深い。

0
2025年11月23日

「ビジネス・経済」ランキング