【感想・ネタバレ】茜色の空 哲人政治家・大平正芳の生涯のレビュー

あらすじ

スマートとはいえない風貌に「鈍牛」「アーウー」と渾名された訥弁。だが遺した言葉は「環太平洋連帯」「文化の時代」「地域の自主性」等、21世紀の日本を見通していた。青年期から、大蔵官僚として戦後日本の復興に尽くした壮年期、総理大臣の座につくも権力闘争の波に翻弄され壮絶な最期を遂げるまでを描いた長篇小説。

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Posted by ブクログ

70年台から80年台前半にかけて自民党内で鎬を削ったいわゆる「三角大福中」、その中で自分が1番好きな政治家が大平正芳だ。(余談、かつ意外に思われるかもしれないが次に好きなのは福田赳夫だったりする。)
辻井喬、またの名を堤清二が描いた政治家・大平正芳の伝記。史実を徹底的に追う吉村昭と天才的なエンタメ性を持つ司馬遼太郎の中間といった印象を持つ。やや政敵(岸信介や福田赳夫)が悪役に描かれすぎているきらいはあるが、それ以外はバランスの取れたものとなっている。

しかし要所に登場し、岸や福田とは比べ物にならないくらい飛び抜けて悪辣に描写されている架空の政敵、森野元は何者だろうか?某知恵袋ではハマコーなどと言われているが、彼は大平が首相になる頃には大角側についていたので違うだろう。彼と似た性質を持ち、当時かなり名前を上げていたものの不自然に名前が登場しない人物がいるにはいるが…まぁ本人の名誉のためこの辺にしておこう。

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2025年08月26日

Posted by ブクログ

あまり取り上げられることのない第68・69代内閣総理大臣:大平正芳の伝記。とかく、地味で「ア~ウ~宰相」「鈍牛」といった印象ばかりがマスコミによって誇張されていたが、本書には大平正芳の生い立ち、心情、人となり、一貫した政治理念などが著されている。苦学の末、大蔵省官僚、のちに池田勇人氏に請われて政界入り。岸信介、佐藤栄作、田中角栄、福田赳夫など、同時代の歴代首相の素顔についても触れられている。一方で、安保・沖縄返還にまつわる密約事件なども、この頃の出来事。この経緯については、山崎豊子氏が『運命の人』として上梓している。

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2014年09月25日

Posted by ブクログ

大平正芳は、あーうーしか言わない、パッとしない政治家だと思っていたが、意外に褒める人が多い。この本を読んでみて、成程と思った。大蔵省の官僚出身であるものの、若い頃に貧乏した経験もあり、思考に柔軟性もあり、見識も優れている。政治家らしくない政治家であり、田中角栄と親しかったにもかかわらず、クリーンである。
背景に戦前から戦後にかけての日本の政治史があり、日本が本当に民主主義の国になることを理想としていた政治家である。
選挙中に倒れた最期は印象に残っている。
ちょうど「田中角栄」という本を読んだ後で、同時代の政治家に興味があってとった一冊であったが、内容が濃く、充実していて、得した気分だ。
作者の辻井喬は、セゾングループを率いていた堤清二だが、今回初めて読む。感心した。作家としても十分大成したと思う。

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2013年02月23日

Posted by ブクログ

面白かった。
異なる意見を調整する際に、同心円でなく、ふたつの中心を持つ楕円形の収斂を目指す、という表現に共感。
四十日闘争など政局の叙述には物足りない所もあるが、人物としての大平正芳に一層好感を持った。

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2013年01月29日

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近年再評価されつつある、大平正芳を取り上げた小説。関係者への取材に基づいており、政治的事件通りの流れではあるが、架空の人物も登場する。

作者はセゾングループを率いた堤清二=辻井喬。理想と現実とのはざまで、逡巡しながらも行動を続けた大平に、作者は自身の姿を重ね合わせたのかもしれない。

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2025年09月16日

Posted by ブクログ

大平総理の一生
政治家にはいろんな種類の人がいるといいと思った。
貧農の出、田舎出身、クリスチャン、一橋から大蔵省と当時の政治家にない特徴や経験を持っていたからこそ哲人と言われるようになったのではと思った

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2023年09月07日

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辻井喬さんは西武グループ総帥である堤清二さんのペンネーム。
大平さんは三木武夫の後に総理大臣になった人で、任期中の参院選途中で亡くなった。
幼い頃からの生い立ちや総理大臣になる前からなった後の苦悩などがよく理解できた。
中国でとても評価されているとは、今の状況を思えば、奇跡に近い。
辻井喬さんの著作は初めて読んだが、とてもしっかりとした文章を書かれていると感じた。レベルは高い。

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2016年04月26日

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大平総理が東南アジアを歴訪したとき、相手国の代表が総理の人格に感銘を受けたとのコメントを新聞で読んだことがある。「ア~ウ~宰相」「鈍牛」とか、テレビや新聞は明瞭でない物言いばかりを馬鹿にするような記事が多かった。その小さなニュースに国内のマスコミは首相の人となりをちゃんと伝えていないのかな、と思った記憶がある。

宰相、大平正芳の評伝。口下手であまり政治家らしくない印象。若い頃、キリスト教に洗礼したなど、つくづく生真面目な人だったよう。
やはり官僚だった池田勇人から見込まれて政治家になる。宏池会のことなどよく知らなかった戦後政治の勉強になった。
国家のことを懸命に考える官僚出身者が政治家になるのは良いことなんだろう。省益ばかり考えている輩じゃ困るけれど。官僚出身者を目のカタキにする民主党とかみんなの党って頭悪いよね。最終的に闘争相手となった福田赳夫との違いも得心した。派閥の親分というには、かなり遠い人だね。
左寄りの学者や政府に批判的立場の記者とも交流したり、長期的な展望を得ようと学者の協議会を立ち上げたり、バランス感覚のある人というか、自分を離れた目で見ていたのかなと思う。
アメリカとの密約まで踏み込んだ内容になっている。この件はルーピー鳩山の退陣の理由になったと内田樹先生に本にあったな。

筆者は辻井喬こと、西武セゾングループの総裁だった堤清二。父親、堤康次郎の評伝を読んだことがあるが、何故か、本書は文章がこなれてないと思う。大平宰相の評伝を書いた理由も何故なのかと少し疑問が残った。

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2013年03月18日

Posted by ブクログ

堤清二こと辻井喬による伝記風の「小説」である。ノンフィクション作家による「ノンフィクション」ではない。辻井としては、大平の果たした役割についての評価を事実・真実のシーケンスの提示で読者に委ねるという手法ではなく、終戦後に保守・自由主義で日本を再建するという歴史の文脈の中で、たまたま政治家となった「善人」はどのような個人的心情や苦悩の中で生涯をすごしたのか、という点を描出したかったのだろう。社会や政治について書く筆ではなく、人の生き方という「文学」の筆致だということだ。山崎豊子「運命の人」のモデルである毎日・西山記者がモデルとおぼしきキャラクターが「田島」という名で出てきたりしている。

大平は田中角栄とは近しかったが、そのイメージは対象的に、教養豊かで知性的であった。ただし岸や福田のようなエリート臭がないところが特異であった。吉田、池田の系譜を継ぎ、保守良識派と見られていた。現今の政治家のような、論理、迫力、イノベート意欲というところとはかなり異なるが、政治家には色々な人が必要だ。

文人政治家で心臓病で無念の在職死に斃れた人として、大平には昔から興味があり、フィクションはフィクションとして楽しく読めた。ただ、特に序盤で、大平がくだくだと自省低廻する場面が長いのには、やや辟易する。本職の作家に比べるとやはり辻井の筆は、良くも悪くも素人くさい。

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2018年10月14日

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