あらすじ
カフェの店長として忙しく働く清瀬は、恋人の松木とすれ違いが続いている。関係がこじれた原因は彼の「隠し事」にあると思っていた。そんなある日、松木が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。入院中の松木の家を訪れ、彼が隠していたノートを見つけた清瀬は、すれ違いの「本当の理由」を知ることになり――。‶当たり前〟に埋もれた声を丁寧に紡ぎ、他者と交わる痛みとその先の希望を描いた物語。
解説:瀧井朝世
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Posted by ブクログ
偏見は常に誰しものそばにあるし、何かが極端に不得手な人が手を抜いてそうであるとは限らない。そしてそれが分かったからといって必ず理解できるものとも限らない。理解できると思ってはいけないなと思う。だって自分にはそれができてしまうのだから。できる人にできない人の気持ちを理解することはできない。精々できる精一杯が、寄り添うことなんだと思う。無知は罪。でも相手が素直に教えてくれるとも限らない。だから想像する。想像力を持って、仮説を立てて、でも分かった気になってはいけない。
川のほとりに立つ者は、水底に沈む石の数を知りえない。
Posted by ブクログ
あらすじを読んで気になっていた作品だが、朝井リョウさんの『正欲』を読んだ時と近しい心境になった。
身近な人であっても、全てをさらけ出すことは難しい。そうわかっているつもりでも、自分が清瀬の立場なら、絶対同じような思い違いをしてしまう自信がある。
今でこそ様々な障害の存在が周知されてきたが、若者の部類に入るいっちゃんが適切なケアや指導を受けられずに大人になってしまったことがショックだった。母親が障害の可能性を考えておらず、本人の能力や努力不足と認識されてきたことがしんどい。
一番この作品を象徴していると思ったのは、篠ちゃんの「ほんとうの自分とか、そんな確固たるもん、誰も持ってないもん。」という言葉。
コンディション次第でいい部分と悪い部分の濃さが変わるという考え方は、持っていると少し肩の力が抜けるし、救われる。何より、行動で示せば、ほんの僅かでも相手に伝わることがある、といういっちゃんから天音への想いの帰結に繋がっていると感じた。
Posted by ブクログ
帯を見て興味を引かれて手に取りましたが、想像とは違った物語が拡がっていました。
私たちは"無知"な事で他者を傷つけたり、あるいは歩み寄ってあげたいという"善意"で相手を理解したつもりになっている事があるのだと改めて感じました。
ひとつの視点から見たことだけを鵜呑みにせず、その時の状況等により人が見せる表情や感情は様々であるし、タイミングによっては自身の介入がより相手を苦しめてしまわぬよう心がけていきたいと思いました。
どうか皆さんにとって明日がよい日でありますように。
Posted by ブクログ
篠ちゃんの読書感想がわかりみしかなかった笑
また、「いい部分と悪い部分がその時のコンディションによって濃くなったり薄くなったりする」という表現が、言い得て妙だと思った。
発達障害とかの人に対する考え方は人それぞれだと思う。寄り添えられるのが理想なんだろうけど、周りの人の精神的な負担については誰が寄り添ってくれるんだろう…。
ただ、「普通」の基準も人それぞれだと認識しておくのは必要かも。忘れがちだけど。
それにしてもマオは無理。人として無理。
樹のディスレクシアの事を知らずに詰った小学校の同級生以上に下衆だと思った。
Posted by ブクログ
この物語には様々な問題を抱える人物がたくさん登場する。
中でも特に印象的だったのは品川さんだ。
始めは品川さんはなんらかの障害を持っているが、それがわからずに大人になった人なのかと思っていたが、実は自分の障害を隠して懸命に働いている人だった。
障害があるとわかると障害を持っている人という括りで見られて自分を見てくれない。
障害に対する配慮が逆に障害を持っている人を苦しめていることもあるのだ。
普通はこうだよね、など何気なく発する言葉、でも普通とは一体何なのか。
自分にとっては普通なことでも他の人にとってはそうではないかもしれない。
自分の価値観を押し付けてきたことはなかったか。
そんな風に色々と考えさせられる物語だった。