あらすじ
わたしたちは、自分の周りの世界がどう見えているのだろうか。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚ですべてを捉えているつもりになっている。しかし、まったく暗いところでも眼が見えるハチ、紫外線(鳥)や赤外線(ヘビ)が見えるもの。色の種類をより多く感じ取れるもの(鳥やチョウ)。あるいは眼の機能が悪いもの(ライオン)。超音波で世界を感じるもの(コウモリやイルカ)もいる。イルカは地中に埋まっている物体まで読み取れる。サンゴ礁では波の音のほかに、テッポウエビがハサミを弾く音や、ブダイがサンゴをかじる音が充満しており、この音が他の生物も引き寄せていることをわれわれは知らない。1つの感覚を取り上げても、さまざまだ。人間はどうしても自分の感覚という制限された世界以外を知ることが出来ないのだ。
では地球上にいる動物たちの感覚とは一体どのようなものなのか。本書では五感を動物ごとに人間と比べてその違いを明らかにしてゆく。さらに、電気(魚やカモノハシは電場を使って獲物を感じながら狩りをするし、ハチは電気を感じて蜜のありかを判断する)や磁気(鳥は磁気が見えるので渡りが出来る)といった人間には全く感じられない感覚についても解説する。
われわれは人間中心の感覚でものを捉えてしまう。しかし、動物の感覚にも目が向けられ、かれらが実際にどのように世界を感知しているのかがわかりだしたことで、この世界に対する人間の狭い視野も明らかになってきた。
環世界という観点から、人間も動物の一部でしかなく、その知覚能力も他の動物と比べると優れていたり、劣っていたりすることがわかってきた。人間中心の感覚から脱却することで、壮大な動物の知覚の世界が見えてくる。この世界にはわれわれが感じているよりも、恐ろしく深遠な感覚世界が横たわっている。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
この本は間違いなく僕の今年読んだ面白い本ベスト5に入る。とっても面白い。動物の知られざる能力、人間を超越した素晴らしい能力に圧倒される。
サメやカモノハシは微かな電場も感じとれる。コマドリやウミガメは磁場を感知できる。アシカやアザラシは目には見えなくても魚が泳いだ痕跡を追求できる。クモは飛び回るハエが生み出す気流を感じ取っている。げっ歯類やハチドリは超音波を発する。ガラガラヘビは赤外線が見える。鳥やミツバチは紫外線が見える…
動物が生きる環世界は人間の環世界とは大きく異なっている可能性がある。
すべてを感知できる動物はいないし、すべてを感知する必要のある動物もいない。だからこそ、すべての動物に独自の環世界が存在する。
動物の能力を匂いと味、光、色、痛み、熱、接触と流れ、表面振動、音、エコー、電場、磁場などの観点からこれでもかというくらいに詳しく語る。
特に、電場や磁場の章については、人間は全く感知できない(感知できる人もいるかも知れないが)せいか、特に面白く読むことができた。
人間の尺度で見た動物の桁外れな能力を知ることができ読書の醍醐味を思いっきり感じることのできた1冊でした。
Posted by ブクログ
五感をこえた生物のあらゆる感覚について、非常に詳しく解説してある。実験データによる裏付けもあるが、筆者目線での感想も多い。内容は濃いが、一般の読者に向けて平易に描かれている。磁力をどのように感じているのかなど、実に興味を引く話題に溢れている。量も量なので、読破すれば生物についての雑学博士になれること間違いなし。
Posted by ブクログ
嗅覚 タンパク質が嗅覚センサー
匂いは残留し、先に漂う
フェロモン=同じ種の個体間でメッセージを伝える化学的シグナル
味 :もって生まれた再帰的な性質 五味
匂い:経験と関連付けるまで何の意味も持たない
犬 息とは別の通路から人の2倍の嗅上皮と数10倍のニューロン
蛇 二股の舌でステレオ式に化学物質を収集する 餌を味わない
ナマズ 全身に味蕾 猫も甘いものに反応しない
視覚 オプシン:光を吸収する分子を捕まえるタンパク質
どこが良く見えるか どこを見ているか
見回すのは限られた視野しか持たない人間やハエトリグモだけの行為
家畜は水平方向を見渡せるが上下の視野は狭い
高い解像度で見るには大きなエネルギーが必要
犬には青と黄の二種類の錐体しかない 赤は見えず、くすんだ黄色に
紫外線は白っぽい青? 多くの生物は青色/UV錐体で感知
誰の目から見た色? 獲物が見やすい色 天敵から見た色
触感(機械受容体) 触角は最も研究が進んでいない
人間の指先は感度では最高の部類 ラッコの手は1/5秒で判断、人間の30倍
ホシバナモグラの鼻の触覚 脳まで10ミリ秒 視覚より速い
マナティの体毛 アザラシのひげ 周囲の伴流の痕跡を判断
魚の側線やワニの顎の縁の突起物も同様 鳥は毛状羽で空気を読む
クモやコオロギの毛 特定の周波数にのみ応答
節足動物は気流や水流を感知する毛を持っている
表面振動
カエルの卵 胚が悪い振動を感知して孵化のキッカケに 蛇に襲われた時など
ツノゼミ 植物を介して振動を伝える 空気中より減衰しない
人間の骨伝導 地べたに座り、大地の力を感じる? モグラ サソリ アリジゴク
クモとその監視システムである巣
聴覚
フクロウは顔が外耳 左右非対称の耳の高さ 水平垂直両方の音源の位置が分かる
多くの昆虫には耳がない 触角や弦音機関
鳥は人の3倍 1ミリ秒の音の抑揚が分かる 音節の順序は気にしない
時間解像度か 音の高低の聴覚かいずれかを高める 季節の目的で
クジラは超低周波で歌いながら反響音で海底の地形を地図として把握する
反響定位 目の見えない人間も舌でクリック音を出して
電場
デンキウナギ 100層の500~1万の発電細胞 最強860V
弱電気魚 電場の乱れで全周囲1inchを感知、仲間のシグナルは数ftまで
サメやエイ 受動的電気受容 近くの獲物の電場を感知 1ナノボルトを感知
ハナバチ 花の電場 クモ 巣の電場
磁場 センサー未発見
ボゴンモス 夜飛ぶ ウミガメ 地磁気の傾斜度と強度を感じ海洋地図に
光汚染 騒音汚染
人間は知覚できないが 他の生物の感覚を狂わす
Posted by ブクログ
動物の感覚、環世界についてのガイドブックという感じの本。
一般に感覚というのは、五感という形でまるめられているが、これはあくまで人間の主観からなるものであるということを丁寧に実例をあげて紹介と解説をしている。2025年3月発行で、訳者のあとがきが2025年1月とあるから情報としてかなりフレッシュな内容だとわかる。本文には、通説が否定されていたり、通説の裏付けが説明されていたりして、かなりエキサイティングで面白い。600ページを超えるボリュームだが、そのうちの100ページは引用や参考文献の紹介なので、あまり怯まないでも大丈夫だと思う。差し挟まれる注釈も洒脱で面白く楽しい本だ。時間を作って読み返すのが楽しみな本でもある。
Posted by ブクログ
人間以外の生き物の、人間には感知できない世界が多数紹介されていました。
ナマズは「泳ぐ舌」で体全体が味覚を判別できる、トゥンガラガエルは鳴き声で相手を選ぶ等、それぞれの生き物だけの多彩な世界が興味深かった。