あらすじ
月昂と呼ばれる感染症が広がり、人々を不安に陥れている近未来の日本。一党独裁政権が支配する社会で、感染した青年、冬芽は独裁者の歪んだ願望により、命を賭した闘いを強いられる。生き延びるため、愛を教えてくれた女のため、冬芽は挑み続ける(表題作)。「月」をモチーフに、著者の底知れぬ想像力と卓越した筆力が構築した、かつて見たことのない物語世界。本屋大賞ノミネート、吉川英治文学新人賞&日本SF大賞W受賞という史上初の快挙を成し遂げた真の傑作。
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Posted by ブクログ
月をめぐる、3篇の物語。
日本SF大賞受賞作ではありますが、鴨のイメージは「幻想譚」です。それも、かなり重く、冷たく、じっとりと濡れた味わいの作品ばかりです。
結末らしきものがあるのは、表題作である中編「残月記」のみ。他の2篇は、救いようのない状況でスパッと物語の幕が閉ざされます。はっきりした結末を求める方には、全力で「読まない方が良い」とお勧めします(汗)
要するに、ひたすら暗い作風なわけですが、暗さゆえに、いやむしろ暗いからこそ滲み出る、独特の美学が全作品を貫いています。
どの作品にも共通している構成は、「現実」と「もう一つの世界」の二重構造になっていること。これが例えばディックであれば、現実と虚構が入り混じっていく様を描き出すことでストーリー展開を次の次元に引き上げる/引き下げる効果を生み出すのですが、小田作品においては、二つの世界は基本的に交わることはありません。お互いに多少の干渉はしつつも、どちらの世界も取り残されたままに終わります。この、一抹の希望もないまま結末で放り出される登場人物たちが最後に描く、不思議な諦観。鴨はここに、上手く言えないのですが「後ろ向きの美しさ」を感じます。ある意味、東洋的な価値観なんですかねー。
小田作品が翻訳されて欧米のSFファンの手に渡ったら、どのような評価をされるのか、聞いてみたいです。
Posted by ブクログ
本屋さんで流し読みして、あまりにも素敵な文章に惹かれて購入させてもらいました。
三篇全て読みましたが、作家さんってすごい……
そんな今更なことを痛感させられた作品となりました。
迫害される感染者の悲劇のストーリーか、ディストピアを舞台にした熱い戦いの物語が展開されると思いきや。
最後はやり過ぎなくらい壮大でロマンチック、月世界の中心で愛を叫ぶという意外な結末。
読んでると恥ずかしくなる恋愛小説を読んだ時のあの現象。
それを体感するとは全く思っていなかったので、とても不意を突かれた。
表題作の<残月記>は特に、作者の尋常でない想像(創造)力と洗練された表現力をひたすらにぶちまけられるような作品。
ファンタジー色の強い作品は、設定の押し付けで辟易することが多々あるのですが、それすら感じさせないような迫力で圧倒されました。
私は特に残月の木彫りの像に、全てが収束していく様子が、読んでいて気持ちよかったです。
非常に濃い世界観を壮麗な文章で味わいたい。
そういった人にはきっと良い作品になると思います。