あらすじ
アメリカ合衆国が滅んだ。
元・Corporations生徒会長、アメリアに浸食されて。
片羽『君を見てる』により、全人類は彼女の利他的な精神に同調し、やがて理想的な共同体を形成するに至るだろう。
しかし、終末停滞委員会は、人類の意思を奪う行為を許さない。心葉たちは、誰もが知る“あの人物”に協力を仰ぎ、潜入任務に挑む。
それは恋兎ひかりに次ぐ人類の最高戦力――サンタ・クロース。
崩壊するNYに、ジングル・ベルが鳴り響く。
電子版には書き下ろし短編「神流奈々ちゃん、デートと相対すの巻」を収録!
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Posted by ブクログ
表紙の奈々の可愛さにやられつつ、あらすじ文のトンデモ具合に興味を惹かれた今巻。読んでみれば、一人の少女が神にも届く大望を掲げ、そして人類へと単身挑む物語と思えましたよ…
前巻にて決死の覚悟で手にした『線の人』対策は一旦後回しでとんでもない事態の対応へ
人類に奉仕するというか人類幸福の為に自身を蔑ろに出来るアメリアが至ったのは人類の強制進化か。厄介な点は果たしてアメリアの遣っている事は悪なのかとすぐに断ぜられない点だね。Corporationsでの振る舞いから判るように、彼女の行為は多数にある程度の幸福を届けつつも不幸も齎してしまうもの。Corporationsでは貧富の拡大という結果を示したものの、全人類を同化出来るなら貧富も強弱も存在しなくなる
けども、いずれ来る終末に対して抗い続けると決意した者達の集まりが終末停滞委員会なわけで。己の意思を放棄する遣り方はそもそも受け容れる余地なんて無かったわけだ
この点は本作のテーマ性の一貫が見られて良かったな
ただ、それでもアメリカを支配しつつあるアメリアが強大で打倒し難い存在である点は変わりない。そこで恋兎を派遣するのは納得できるとして、そこにサンタ・クロースも混ぜるんだ!?ほんとに、トンデモ展開ですよ……
だとしても、終末停滞委員会側が不利な事は変わりない。アメリアの支配とは体制の支配ではなく、そこに住まう人々の共生であり同時により良い世の中への変質を見せつけられる。終末停滞委員会として譲れない矜持はあるけれど、個人単位の幸せをこれでもかと見せられれば流石に決意は揺らぐ。倒す覚悟が薄れそうになる。時には銃弾よりも厄介と言える相手
だから心葉達はアメリアのお膝元に潜入しつつ、何とかして彼女を打ち破る道を様々な意味で見つけないといけないのだけど……
そこで奈々に授けられた隠れミッションが心葉をオトすハニトラなんだ!?世界終末寸前で実行されるのが『神流奈々・らぶらぶちゅっちゅ作戦』なんだ!?これ考えたシグリッドは本気で馬鹿なんじゃないのって思ってしまうよ!
まあ、心葉が持つ『a Session』がそれだけアメリアを上回る鍵となるのは判るんだけどねぇ……
と言っても、ここ最近の巻では表紙になったキャラがメインヒロイン級の扱いをされる事が多かったわけだから、今巻も奈々が表紙になった時点でそういう展開は期待していた。けど、これまでのヒロインとは少し異なるアプローチが取られた印象
心葉って過去があまりに壮絶だから、その壮絶さに負けないとか寄り添ってくれるとか、つまりは心葉を包み込む事で彼から好かれ、彼を好くようになる構図が見られたのだけど、奈々はそういった要素には当て嵌まらないね
奈々っていわば重さが無いんだよね。心葉に人生を捧げたLunaやエリフ、異なる世界で心葉と家族となったレアやニャオ・リンは人生が心葉と結び付く要素を持つ。けど、奈々はそこまでの覚悟は無いし、向ける気もない。ただ、好きになっても良いかな?な好印象を持つ心葉に対して普通の手順で好き合う関係になろうとしている
それはいわば普通のラブコメだよね。思えば、二人の始まりは奈々の入浴を心葉が覗いてしまったなんて普通のラブコメみたいなものだったし、今巻も『らぶらぶちゅっちゅ作戦』がバレて、擦れ違って、傷付けたくなくて衝突するという普通のラブコメみたいな展開
勿論、その中には自分の全てを心葉に明かす覚悟を奈々が見せるシーンなんてのも在るけれど、彼女は等身大に心葉へ寄り添おうとしている。そうした等身大さは壮大な物語がなくても心葉を好く人はいるかも知れないという証明でもあって
「君に幸せにしてもらわなくていいから。勝手になるもん、そんなん」という台詞は人と好き合う状態を重々しく捉えていた心葉の心を軽くするものだったんじゃなかろうか
始まった戦争は壮絶の一言。相手方が仕掛けを終えたフィールドで戦うようなものだからどうしたって不利は承知と成らざるを得ない。恋兎だけでなくサンタ・クロースすら容赦なく劣勢となる状態なら決死の潜入すら無に帰しかねない
それでも戦い続ける彼女らの覚悟が良いね。勝つと信じているから戦うのではなく、勝つと信じる人が居るから戦い続ける。それはサンタ・クロースの魔法に通じる概念だ
勝利の委託を信じての戦い。アメリアは人類から幸福の願いを委託されたから全てを同一化しようとして、心葉は仲間達からアメリアを倒してくれると信じられたから一番大事な役目を託されて
だからこそ、託された二人には共通項が浮かび上がってくるわけだ。『a Session』って最高の相棒と心がシンクロした際に出来る奇跡と思っていたんだけど、同じ志しを持つなら敵とでも共奏できるのか
その共奏は同じになる、というより主体をどちらが取るかの決闘。けど、アメリアほど強くはない心葉の限界もアメリアほど大きくはなくて。あれだけ食べた、あれだけ自分を喪った。それでもアメリアには届かなかった。それはどれだけ多くを救いたいかの差だろうか……
だと言うのに、あれだけの怪物となってもアメリアは結局全てを救うなんて出来やしないという限界にぶつかってしまったのは果たして哀しいと表現して良いのか悪いのか…
全てを救えず誰にも救って貰えなかった哀れな少女は最後の最後、サンタの魔法に包まれて逝った。それは彼女とてサンタ・クロースの奇跡を信じる幼い少女だったという証であり、純粋に彼女が皆の幸福を願っていた証とも言えるのかな…
何か大層な事が起きたけれど、結局何も起きていなかったよう元通りになった今回の騒動。渦中にて気になる要素があるとしたら、やはり恋兎が心葉にどのような感情を向けているかという点だろうか?
奈々と心葉の睦み事を目撃して逃げ去り、全てがアメリアになった世界で心葉と交際し。思えば『残響の残骸』では心葉が恋兎に惹かれ告白するなんて展開もあった
それを思えば、恋兎の中で芽生えつつ在る感情は割と実を結びそうな気もするけれど、逆に通常時だと一切心葉への感情を認めようとしない理由が気になってくるかも
今の段階だと心葉に好きになって貰おうと努力する奈々の方が大きくリードしているのかな?
現時点ではあまり心葉のタイプに引っ掛かっている感じはしないけれど、心葉と好き合えるよう努力する様は純粋に好感を持てる
但し、ダナエが言うように、裏で策略的に恋模様を考えている奈々こそ最も彼女の魅力が詰まっている気もするけどね。ただ、こういった面を心葉に見せるのは当分先だろうなぁ
今はまだ、デートの為に10時間フライトを実行できる行動力と淡い恋心の行く先を見守りたいと思いますよ
そういや、心葉がアメリア支配下のアメリカに潜入するとなった時、Lunaが一切抗議しないというか「自分も付いてく!」と言わなかったのは意外だし、なんなら秘密裏に同行しているんじゃないかと思っていたけど、全くそんな事無かったね
一応帰還後の会話にはある程度の湿度が見られるけど、その程度とも言えるし
やはりLunaが手に入れた銃痕の能力が関係し、彼女を安定化させたと言うべきなんだろうなぁ……。今回のLunaは重い行動は取ってないけど、それが逆に重さを感じさせてくれますよ…
ラスト、驚きの人物が物語に絡みだすと知れると共に、“クゥ”と呼ばれた人物のフルネームが明かされる事で更なる疑問が沸き起こって、本作の奥深さを思い知らされた気になりますよ
早く続きが読みたくなるね
Posted by ブクログ
今回もシリーズらしい壮大なスケールと濃密な設定を存分に楽しめた一冊だった。冒頭から「アメリカ合衆国陥落」という衝撃的な展開で一気に物語へ引き込まれ、「今回はどこまで話が広がるんだ」とワクワクが止まらない。世界が激変する中で描かれる戦いや駆け引きは、終始緊張感に満ちていてページをめくる手が止まらなかった。
特に印象的だったのは敵勢力の描き方。単なる悪役ではなく、それぞれに譲れない思想や正義があり、「もし立場が違えばこちらを応援していたかもしれない」と思わせる厚みがある。だからこそ対立に重みが生まれ、ただの勧善懲悪では終わらない面白さがあった。
そして毎巻楽しみにしているヒロインも期待以上の魅力。物語のシリアスさの中でしっかり存在感を放ち、キャラクター同士の掛け合いも心地よい。スケールの大きな世界観と魅力的なキャラクターが高いレベルで両立した、シリーズファンなら大満足の一冊だった。