【感想・ネタバレ】ははのれんあいのレビュー

あらすじ

夫とは職場の友人を通じて知り合った。口数は少ないし、ぶっきらぼうだけど、優しい。結婚して智晴(ちはる)が生まれ、慎ましいながらも幸せな3人生活が始まった。しかし生活はなかなか立ち行かない。息子を預けて働きに出た由紀子は、久しぶりの仕事で足を引っ張りながらも何とか食らいつき、家庭と両立していく。そんな矢先に発覚した、双子の次男と三男の妊娠……家族が増えてより賑やかになる一方、由紀子の前に立ち塞がる義母の死、夫との不和、そして――。「家族は時々、形を変えることがあるの。だけど、家族はずっと家族なの」。どんな形をしていても「家族」としてどれも間違ってない、ということを伝えたかったと語る直木賞作家・窪美澄が放つ、渾身の家族小説。文庫版には家族のその後を描いたスピンオフ短編「ははのけっこん」も収録。解説・白石一文

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Posted by ブクログ

ネタバレ

うう…。泣いた。もう、号泣。
ずっと「読みたい本」に登録してたんだけど、なぜ早く読まなかったのか後悔。

「ははのれんあい」というタイトルなんだけど、前半は、「母」が3人出てきて、いったい誰の恋愛の話になるのか?どう考えても主人公は「由紀子」なのだが、由紀子の恋愛の話になりそうにはないので、早くその真相が知りたくて夢中で読み進めた。

時代は昭和50年代くらいじゃないかと思われる。つまり団塊の世代の女性が、時代の変化のさなかで必死で子育てをしている。まず、出てくる登場人物に、誰も「悪い人」がいないところが切ない。まぁ、でも、由紀子の夫の智久は、私からすると、悪い人ではないかもしれないけどやっぱり絶対に許せない夫だ。
昭和の核家族の、典型的な家事や育児ができない男で、結婚して自分が家族を養う、と思っている。(しかし実際には稼ぎが非常に少ないため、由紀子は自分も働きたい、と考える。)学歴も、秀でた特技もない由紀子だが、「家族(子ども)のために何でもする」という覚悟で、必死で働く。今はパートで、後々正社員にもなれる、という希望をもって、子どもを保育園に預け、必死で働く。夫の智久は(稼ぎ少ないくせに笑)、そんなにしてまで働かなきゃいけないのか、子どもが一番ではないのか?などと由紀子に問うこともある。しかし基本的には良い夫であり、良い父であり、子どもに愛情をもって接しているし、お風呂に入れたり、ミルクを(おそるおそる)あげてみたり、保育園のお迎えに行ったり、その時代の男の中では家事・育児に参加する方ではある。
しかし、可愛かった妻が、家事に育児に仕事にと奔走し、だんだんたくましく、強くなり、更に双子も生まれ、母子の関係が強くなっていくと、家庭に居場所をなくし、水商売の外国人女性と恋仲になってしまう。
男が、妻が子供のことに一生懸命で色気がなくなり、もう女とは思えなくなった、という感じで家に居つかなくなる過程を、すごくうまく描いている。
しかし多くの、子育て経験のある女性は、これはどうしても許せないと思う。もちろん私も許せない。まじで死ね!って思う笑。私は年子の兄妹を育てた。この物語では、由紀子はやっとのことでパートの仕事に就いたと思ったら次の子どもを妊娠し、しかもそれが男の子の双子で、一気に3人の子どもの母になりつつも、また仕事に戻り、夫の両親とも良い関係を築きながら、必死で子育てをしている。学歴はなく、もともとただ大人しく可愛いだけの妻だったが、否応なく強い母になっていき、夫に対して言いたいことがあってもたいがいはこらえている。しかし、子どものために必要だと思えば、勇気を出してきちんと話し合いを持とうとする。
そんな彼女に、責めるべき要素は一ミリも見当たらない。それでも、「いい人」であるはずの智久は家に居場所を見つけられず、浮気をする。
女性(母)目線からすると、「おいおいおいおいおいおい!居場所は自分で作れや!家事と育児をお前もやれや!」としか思えない。由紀子が仕事をしようとするのを、近くに住む智久の両親も、少し離れたところに住む由紀子の母も、全力で支えてくれる様子も、私にとってはとても切ない気持ちで読んだ。私もそうやって子育てをしてきたからだ。
ここでは、智久の「母」も、由紀子の「母」も、とても尊い存在で、「母なるもの」の偉大さを感じずにはおれない。
そのどこに「ははのれんあい」が出てくるんだ?と思う。

しかし後半。急に主語が、由紀子の長男の智晴に切り替わる。いや、前半部分も、主に由紀子が主語だが時々夫が主語になったりするので、智晴が主語になっても違和感はなく、流れは自然だ。
智晴は本当に良い子に育つ。前半、智晴がまだ幼児のときに双子の弟が生まれ、家族がみんな大変になる場面では、智晴は両親からも祖父母からも「お兄ちゃん」と呼ばれ、混乱する。令和の子育てでは、上の子を「お兄ちゃん」とは呼ばないだろう(多分)。でも昭和では当たり前だったんじゃないかな。読んでいると、まだ幼いのに「お兄ちゃん」と呼ばれ、我慢させられ続けて智晴はどうなるんだろう?と心配になって来るが、智晴は立派なお兄ちゃんになり、忙しい母に代わって二人の弟の面倒を見る。
後半はそんな智晴の物語になるのだ。
自分たちを捨てて他の女性と家庭を築いた父への嫌悪。母を助けたいという想い。弟たちが父を慕う気持ち。友人と幼馴染の女の子との三角関係。智晴の葛藤と、成長の物語だ。
切なくて、いじらしくて、愛おしくて、泣ける。

私はやっぱり智久のことを許すことはできない、と思うけど、それでも物語は一応ハッピーエンドだ。
前半を読んでいるとき、必死に子育てをする由紀子に共感してしまい、どうか由紀子が不幸になりませんように。幸せになってほしいと祈るような気持ちになる。できれば、智久はよその女のところに入り浸ったりしないで、まっすぐ家に帰り、家事と育児を分担し、由紀子に寄り添って二人で幸せになってほしい。それが正解だと思う。
しかし、智久が出て行って、更に強くならざるを得なくてますます強く、たくましい「働く女」になった由紀子だからこそ、もしかして「本当の自分」を見つけ、「本当に愛し合える相手」を見つけたかもしれないのだ。なんてことだろう…。
そんな「ははのれんあい」も受け入れることができる智晴、すごい。

ちょうどこの本を読む前に、「不機嫌な夫婦」という新書を読んでいて、女性と母性について論じられていたので、すごくリンクして胸が痛かった。「母」は、母性優先でなければならないのか?「子どものために自分の人生が犠牲になっている」と考えてしまいがちな現代は、何が間違っているのか?という問題提起がされているのだが、まさに由紀子は「子どものために」という一心で、仕事と家事と育児を必死でやってきた。
前半の方で、「三人の子どもを抱えながら、仕事をすることは、ぴーんと張ったロープの上で綱渡りをするようなものだ」という記述があるが、私もまさにそうやって生きてきた。
由紀子への共感、由紀子の母世代の母性への敬意、智晴の成長に対する感動、そして悔しいが、すべて読み終えると智久に対する許しの感情すら生まれてしまう・・・。
いろんな人におススメしたい小説でした。

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2025年10月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

スピンオフの最後はちょっとうまく収めすぎに思えたけど、、全体として良かった。
寡黙系の智久と不器用な恋を経て結婚した由紀子。智久の、由紀子が仕事をすることに対する考え方とかその伝え方(というか伝えないで態度に先に現れる感じ)とか、嫌だった、、、リアルですね、、、。
家事育児の負担感の描写もリアルであーーやっぱり結婚全然したいと思えないなあーーと思ったんだけど、幼い智晴がそれを上回る愛しさで、ああ、やっぱり子供いいなあと思った。
大人になっていく智晴が良い子すぎる。
智久にうわあって思うこともあったけど、悪い人じゃないし(浮気はしたけど)、本当に嫌な人が誰も出てこなくて良かった。
いい意味でリアルにも希望があるなと思えた。

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2024年08月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

おもしろかった
1部は母由紀子目線のお話
2部は智晴目線
由紀子の結婚から出産、離婚、さらには再婚まで
智晴が切ないほど、いいお兄ちゃんになって
葛藤しながら頑張る。
その後は立派に成長したところが嬉しかった。
父智久はいい人なんだと信じてたのに裏切られた気がしていたけど、なんとなく憎めない
なんかみんないい人。
由紀子も智晴もお疲れ様、幸せになってね

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2025年12月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

親にふりまわされる子供達がかわいそうだった
智久 再婚するなら遠いところに行ってよ!!
自分の親の面倒を別れた嫁&子供にさせるなよ!!

智久にはツッコミどころいっぱいだった

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2024年03月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

リアルで温かくて、やっぱり窪先生の話は
唯一無二だと思う!!

第1部は由紀子の子育ての奮闘を描いていて、
第2部は長男智晴の想いが描かれている。

第1部を読んで思ったことは、無償の愛を注ぎ続けてくれた母の偉大さだ。自分の人生を二の次で、子どものために動き続ける由紀子を見て、純粋にすごいしか出てこなかった。そして寛人と結人が生まれても、智晴のこともしっかりと愛する姿を見て、智晴の母への無償の愛はここから生まれたのだと強く思った!!

第2部では、母子家庭になった家族を智晴が支える話。そして智晴と由紀子の恋愛模様も描かれる。
智晴は父の再婚相手の子どもと高校の同級生になってしまったり、幼なじみの大地と好きな相手が被ってしまったりと、周囲の人との関わり方で悶々とする…
またそのなかで、母が男性と会っているところに遭遇したりするなど、母の恋愛事情に対して複雑な気持ちを抱く。それでも智晴は人と真っ直ぐにぶつかって、自分の素直な気持ちだけは離さずに向き合っていく。最後は智晴も由紀子も自分らしい道を選べて、
一読者としてとても嬉しかった。

特に本作の好きなところは、由紀子と智晴の結びつきだ。親子でありながら、家族を支える戦友であり、1番の良き理解者である2人。何があっても智晴は由紀子を選び、大切にしてきた。その想いは由紀子のよりどころだったと強く思う!!

私も智晴のような息子にいつか出会いたいなぁ。
そしてまた窪先生の作品が読みたい!!

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2024年02月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

窪美澄さん好きなので読んだ。

タイトルからして、親の不倫話とか鬱々とした内容かと思ったら全然違った。

前半の乳幼児育児なんかは
読んでて自分の育児の大変さを思い出すほどの臨場感でさすがです。勝手に作り上げてしまう責任感、理想の母親像に押し潰されそうになってた母親の育児中の内面を描き出すのがうまい

そして後半のちはるの成長。
あの赤ちゃんだったちはるの成長に感動した。

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2024年01月29日

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