あらすじ
古い建物だが、格安の家賃が魅力の下宿屋「猫目荘」。再就職も婚活も上手くいかず焦る伊緒は、一番の新入りだ。食事は一緒、風呂も共同、住民は個性派揃いで戸惑うことばかり。だが、2人の男性大家が作るまかないは、クリームシチューや豚キムチ、温奴など、なじみの料理に旬の食材とアレンジを加え、目もお腹も幸せにしてくれる。そんな中、伊緒に思わぬ転機が――自分らしく生きたいと願うすべての人に贈る、美味しくて心温まる物語!
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
購入したきっかけは単純で、「表紙に猫がいたから」というだけのもの。出版社の広報アカウントが「猫」関連で取り上げていたから、作者さんを知りもしないまま本屋で在庫確認をしたら「理論在庫はあるはずなのに見当たらない、取り寄せ対応でも良いでしょうか」と店員さんに頼まれて、そこまでして読みたい気持ちがあったわけではないけれど、断るのも何だしとそのまま取り寄せてもらってお迎えした本でした。
わざわざ取り寄せたのだから、面白いと良いのだけど。期待があるのかないのかわからないまま読み進めて、最初は主人公の身勝手さにイライラしました。悲劇のヒロインに酔っているのか?その程度のことで?と序盤は全く共感出来なかったのですが、猫目荘の住人たちを一人、一人と知って、主人公の価値観が増えていく、視野が広がっていく中で、自分にもまた気付きがあると思いました。
接客業へのスタンスが、主人公とは全く違うのにどこか似ている。プロ意識があるからと割り切っているつもりでやはり割り切れない気持ちの叫びが主人公とリンクした時、ボロボロと涙が溢れていました。
私は毒親育ちです。主人公のように恵まれた境遇にはなく、親が敷いてくれるレールすらない。そういう面では主人公に反発を覚え、けれど主人公の料理をしないという気持ちがどこから生まれたのかが紐解かれた時、根本にあるのが自分も似たような想いだと気付いて、新井さんの言葉に救われたのです。
弟と、歳の離れた末の妹は自由に遊んでも許された子供時代、私とすぐ下の妹だけは「女の子なのだから」と家事をやらされて、それをすごく不満に感じていました。兄弟の格差、女の子なら料理が出来て当たり前、そんな風に育てようとする親が嫌で、そんな親の理想通りの「女の子」になりたくなくて、私もまた主人公と同じように親に反発して料理を教わることはすまい、家事に人生を費やすまいとどれだけやらないかで生きてきました。
泣いている主人公を案じて新井さんが駆けつけてくれて、話を聞いてくれて、理解を示してお菓子作りを強要するのではなく時間だけを共有してくれた時、「いいなぁ」と思いました。私には猫目荘はなく、新井さんもいないから。
でも、猫目荘の住人たちが示した価値観は、主人公に投げかけた言葉は、住人たちが私に向けるものではなくても、苦しんでいる一人一人の心に届いた作家さんの言葉で、自分にもまたそれを汲み上げることが出来るのではないかと思えた時、主人公の成長と共に私もまた自分自身を見つめることが出来ました。
正直、この作品の主人公にはクセがあります。合わない人はきっとどこまでも合わないでしょう。
けれど、うつ病を患い、かつて月に20冊程度は読めていた本が月に2冊程度読むのがやっとまで落ち込む中でそれでも何とか自分らしさ、自分の好きなことを取り返したくて1日数ページずつ頑張って読んでいたこの本で、かつて自分が読書に抱いていた気持ち、どうして本が好きなのかを思い出すことが出来ました。
決定的だったのはシチューの描写。他のまかないは元々親への反発で料理を勉強して来なかった私には作るには難易度が高いのだけど、具だくさんのシチューをおいしく食べる主人公に、すごく羨ましい気持ちになって。でも、シチューなんて自分でも作れるんですよ。病気になって何もかもが億劫で、自分自身をケアすることも出来なくて、それでもそれを「仕方ない」と諦めていた私。具だくさんのシチューを作る。たったそれだけのことさえ自分のためにしてあげられない、してあげない私。それに気付いた時、どれだけ自分が自分を蔑ろにしていたのかと現実を目の当たりにしてハッとさせられたのです。
私は大袈裟なのかもしれませんが、事実としてこの本は、精神疾患や親との確執に苦しむ人間の心に届きました。努力することを諦めてはいけないこと、食事や人との関わりが大切なこと、何より、自分が自分を大事にして、信じて、一歩ずつでも歩いていくこと。それらを思い出させてくれた、素晴らしい良作です。
1日1食、最低限生命を維持出来る程度にエネルギーを摂取出来ればそれでいい。食事に対してそんな風に投げやりになっていた私の意識を変えて、自分を愛することの意味を気付かせてくれた大切な一冊になりました。
Posted by ブクログ
主人公の女の子、まるで自分を見ているようでした。特に最初の方は同族嫌悪が酷かった。愚痴ばっかだなこの子って。
接客やってる時ほんとにメンタルきつかったの思い出しました。
自分がもやっとしてたことをうまく言語化してくれてる気がしました。
猫に声かけられて崩れ落ちちゃうとことか、その後のお菓子を作るのを見てる場面が好きでした。私も癒された。
特殊性癖の人たちが出てきますが、そこは余計に感じました。
なくても十分面白いので。
Posted by ブクログ
主人公が賄い付きのアパートに住みはじめてから、様々な人と交流することで自分を見つめ直して再出発する様子が晴れやかな気分になります。
自分もこれからの人生どうしようかとかまようひとなので、共感したからか面白かったです。
ただ、最近の流行りなのかデリケートな話題が入ってたのに違和感を感じました。
Posted by ブクログ
降矢伊緒は男尊女卑かつ子供の人権無視の親のもとで我慢していたがついに家出。自分の道を見つけるために上京したが見つける術もなく5年もたってしまった。それを見るにみかねて親友がまかないつきの下宿屋『猫目荘』を紹介する。
そこには2人の大家と4人の住人がそれぞれ信念を持って生きている。その中で暮らしていくうちに伊緒の人生の方向性も見えてくる。
「動かないと運命にはぶつかれない」
「自分の行動は、この世の中で数少ない自分でコントロールできるもの。だったらそこは覚悟を持って自ら決断しなきゃ。(中略)日常生活でも、仕事でも、自らの意思で決められる範囲を増やしていくのが人生の満足度を高めていくコツ。」
住人たちのアドバイスは的確に伊緒の心に満ちていく。とても素敵な下宿屋さんです。