あらすじ
その日、共謀罪による初めての容疑者が逮捕されようとしていた。動いたのは警視庁組織犯罪対策部。標的は、大手自動車メーカー〈ユシマ〉の若い非正規工員・矢上達也、脇隼人、秋山宏典、泉原順平。四人は完璧な監視下にあり、身柄確保は確実と思われた。ところが突如発生した火災の混乱に乗じて四人は逃亡する。誰かが彼らに警察の動きを伝えたのだ。所轄の刑事・薮下は、この逮捕劇には裏があると読んで独自に捜査を開始。一方、散り散りに逃亡した四人は、ひとつの場所を目指していた。千葉県の笛ヶ浜にある〈夏の家〉だ。そこで過ごした夏期休暇こそが、すべての発端だった――。
自分の生きる社会はもちろん、自分の人生も自分で思うようにはできない。見知らぬ多くの人々の行為や思惑が作用し合って現実が動いていく。だからこそ、それぞれが最善を尽くすほかないのだ。共謀罪始動の真相を追う薮下。この国をもはや沈みゆく船と考え、超法規的な手段で一変させようと試みるキャリア官僚。心を病んだ小学生時代の友人を見舞っては、噛み合わない会話を続ける日夏康章。怒りと欲望、信頼と打算、野心と矜持。それぞれの思いが交錯する。逃亡のさなか、四人が決意した最後の実力行使の手段とは――。
最注目作家・太田愛が描く、瑞々しくも切実な希望と成長の社会派青春群像劇。
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Posted by ブクログ
現代の社会構造への鋭い描写です。
非正規労働者の声が届かない閉塞感
大企業や権力と結びついた捜査機関の恣意性
「共謀罪」が普通の労働者をターゲットにする怖さ
これらがありうる現実として迫ってくるので、胸が締めつけられるような苦しさがあります。
自分が非正規で搾取されていたら、声を上げられるだろうか?
仲間と過ごした「砦」のような場所が、自分にはあるだろうか?
生き方や価値観を揺さぶってくる作品で、でも温かさが残る。静かに力をくれる一冊と思いました。
Posted by ブクログ
今作も超大作なのに最高に面白い。
最後まで読み終わると些細な要求なのに、ここまで叩き潰しにくるのか。陰謀論とかそこまで要求するのは図々しいとか、日本人が嫌がる理由でネチネチ攻撃され、それに対抗する4人がめっちゃかっこいい。
「お前みたいに自分の目先しか考えないやつが
上から下までわんさか増えたおかげで、今はな、ほとんどもう戦時中なんだよ!」
この台詞がめっちゃ刺さった。これだけでもう元取れた。
Posted by ブクログ
面白いと評判の太田愛さんの作品。初めて手に取ったのだけど、とても面白かった。
とても分厚く、非正規や労組などといった内容で読めるか不安だったけれど、思っていた以上に読みやすかった。
いきなり警察に逮捕されそうになる矢上達。
何をした罪で?と思って読み進めると、まさかの共謀罪。
非正規で雇われ夢も希望もなく、日々生きるだけで精一杯の若者が周りの老人達から知識を与えてもらい現状に疑問を覚え、法律に則って労組を作って労働者の権利を行使しようとした事が逮捕に繋がるなんて!
どのキャラクターも魅力的で、一気に読んでしまった。
別の本も読んでみたいと思う。
Posted by ブクログ
読書備忘録770号。
★★★★★。
期待を裏切らない筆力!
愛さんはやはり凄い。ストーリーが凄い!
うすら寒いネタバレ備忘録ですのでご注意を。笑
ただ、これを読んで頂いても面白さは全然変わりませんのでご安心を!
本作の悪役は!
①国家の謀略を無条件に支える公安警察。
②とことん利益を追求する大企業経営陣。
③大企業との癒着で盤石の政治基盤を維持しようとする老害政治家。
対抗する正義は!
①ただただ人間として認めて貰いたいという基本的な権利を主張する為に立ち上がった非正規雇用の主人公4人。
②大企業の中に残る微かな正義。
③公安警察指揮下の現場で違和感を感じながら動く所轄刑事。
④特大スクープとして狙うマスコミ。
⑤立ち上がった4人を支援するユニオン。
戦後復興で日いずる国として世界を席巻した日本が凋落していく様をこれでもか!と読者に叩きつけた傑作です!
12月の昼下がり。
吉祥寺駅前で、警視庁組織犯罪対策部の捜査員が今まさにとあるアパートに踏み込み、共謀罪で大手自動車メーカー<ユシマ>の非正規従業員、矢上、脇、秋山、泉原を検挙しようとしていた。
まさに踏み込む直前、近くの飲食店で小火が起きた。そのごたごたの中、警察は4人を取り逃がしてしまう・・・。
あまりのタイミングでの小火。誰かが踏み込みをリークしたのか・・・?
遡ること4ヶ月前の8月。
ユシマの生方第三工場生産ラインでは、40℃の灼熱の中、正規、非正規の従業員が秒刻みの組み立て作業に命を削っていた。
生産ライン班長の玄羽は、夏休みに矢上、脇、秋山、泉原を房総の笛ヶ浜に誘った。彼らに人間らしいひと時を味わわせるために。
そこで彼らは玄羽の過去を知る。
玄羽夫婦(妻は事故で他界)で可愛がっていた男の子圭太が成人してユシマに就職した。結婚して子宝にも恵まれた。しかし、圭太は工場の激務が原因で過労死。
労災を申請するもユシマは認めず。圭太の妻はユシマを相手取った裁判を起こし、玄羽は過労死であることの証人として立つ予定だという。
そう。世界のユシマは、労災ゼロの優良企業としての顔があったのだ。そして、労災ゼロのカラクリとして、労災認定をしないという事実があった!
さらに。ユシマの雇用制度は、国に認めらている雇用制度を巧妙に潜り抜け非正規雇用者を都合よく切った貼ったできる仕組みなっていることを知る!
加えて。ユシマは、新日本型賃金制度なる従業員の権利を無視した人事評価制度を導入しようとしていた!
労災が認められないばかりか、このままでは最低限の人として生きていくことすらままならないことを知った4人は立ち上がる!
新しいユシマの労働組合<共に戦う人間の砦>、通称<ともとり労組>を立ち上げる!
ユシマの御用組合は将来経営幹部のキャリアパスとしてしか機能していなかった訳だ。
夏休み明け。彼らは動き出す。
そして、なんと玄羽の死!虚血性心不全。過労死・・・。親族のいない玄羽の労災申請は難しく、労災認定されない。
いよいよ4人の不退転の覚悟が固まる。
ともとり労組の動きにより、ユシマは労災隠しが全世界に発信されてしまうことによる企業ダメージをなんとしても防ぎたい。
ユシマ社長の柚島は、政治家癒着からの公安トップの人脈で、なんとかしろと恫喝する。
公安トップは、ともとり労組の活動をテロ準備とストーリー立てて、国内初の<テロ等準備罪>の
検挙実績を作るという目的も兼ねて動き出す。いわゆる特高警察の復活を目論む訳だ。怪しいやつは逮捕!逮捕!
矢上たち4人はネットで、自分たちがテロ犯罪者として追われていることを知る。
そして、彼らは自分たちの正義の為にある行動を起こすことを決意する!
その行動とは・・・!
そして、それを正しい姿であるとして、所轄の刑事、マスコミ、ユシマの僅かな正義、4人を支援してきたはるかぜユニオンのメンバーが動く!
果たして4人は救われるのか!彼らの目的は達成されるのか!
最後は熱い熱い熱い!火傷する! というくらいでした。笑
愛さん得意とするクライムサスペンス的な最後の盛り上げ手腕が凄いです。
読後満足半端ない!
しかし、一方で日本社会が抱える問題に気持ちが落ち込みました。
Posted by ブクログ
Audible。ただ展開に最初入り込めず、間をおいて挑戦。途中からとても面白くなり、スカッとすることができた。弱者が強者を倒す王道物語だけど単純ではないところが良い。労災隠しや組合潰しなど設定上振り切れ感があり、クルマ世界企業のユシマは超絶ブラック企業で笑えるが、細かい点はあるあるだったりもする。労働法周りのうんちくも多く目で追うとしつこいかもだけど、耳で聴く分には気にならず、あらためて勉強になった。太田愛さんは相棒とかドラマ脚本の出身。面白かったので幻夏3部作もこの機会にそろえた。また読んでみたい。
Posted by ブクログ
大手自動車メーカー〈ユシマ〉で働く非正規工員の矢上、脇、秋山、泉原の4人。
玄羽と笛ヶ浜で過ごした夏をきっかけに、慣れてしまった日常の不公正に反旗を翻し闘いが始まる。
自分たちの無知を知り、知ろうとする姿勢。
大事な人のために動ける行動力、熱力。
4人の変化には目を見張るものがあった。
デモのようなものにはどこか抵抗感があったが、この物語を通して正しいことを主張することは規則を守りながら規則を変えられない状況において、当たり前の権利だと感じた。
Posted by ブクログ
これだけの内容を書くにはどれくらい下調べや取材をしたのだろうと思いながら読み終え、最後の参考資料のページを見て納得した。
憲法とは「国民から国への命令書」…
色んな事を考えさせられてしまった。 日本はこれからどうなっていくのだろう。
Posted by ブクログ
今の日本が抱える問題に正面から斬り込んだ骨太な長編。
理不尽な社会、労働環境を作ってきた大人たちが手を差しのべてこそ、人生を諦めたかのように生きる若者が志を持ち立ち上がることができる。
若者に新たな世界を見せてくれた玄羽や文庫の姉さん(かっこよかった!)だけでなく、長いもの、組織に巻かれるように生きてきた大人たちが、社会を変えようとする若者に感情移入していく過程が心動かされました。
(シチュエーションは違うけれど昔のハリウッド映画「スミス都へ行く」を思い出した)
特に終盤の二転三転からの公安萩原の行動は、こんな世の中になってほしいという太田愛さんの願いでもあるのかなと。
自分には何ができるのだろうと、作中の言葉になんどもはっとさせられました。
できれば映像化して、多くの人に触れてほしい作品です。