あらすじ
腕は確かだが、無愛想で一風変わった中年の町医者、勝呂。彼には、大学病院時代の忌わしい過去があった。第二次大戦時、戦慄的な非人道的行為を犯した日本人。その罪責を根源的に問う、不朽の名作。
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Posted by ブクログ
現在から過去の回想に入り、それぞれの人物の手記、最後は戸田から教えてもらったあの詩で締めくくられる。この構造が非常におもしろかった。
全体的に陰鬱な、そして人の生命の重みについて考えさせられる。そして、何かと冒頭の語り手「私」と回想での勝呂が「平凡が一番、幸福」と似たようなことを言っているところが印象に残っている。
(また、勝呂に対して「しばたたきながら」という表現が多用されている点が少し気になった。)
Posted by ブクログ
実際にどのように死体解剖が行われていったかではなく、参加していた一人一人の心情を描写するで読者でも有り得るのではないかと問題を提起するスタイルがとても面白くて新鮮だった。
1番印象的だったのが戸田の過去で、死体解剖のような大きな出来事ではなくても、日常生活の中で責任感や良心が欠けているときが信仰の不在から起きているということを痛感した。
深い河もそうだったけど、本当に人の痛い部分に目を向けて言語化するのがうますぎる。
Posted by ブクログ
人は、信仰を持たないと罪の意識も持てないのだろうか。
信仰の有無とは違う、という感覚は覚えるけれど、それならばどうやって裁きを受け入れるのだろう。反省して罪を償おうと思えるのだろう。
“信仰”で捉えるのも二元論的なのかなぁ。
無理…と押し潰されてしまう勝呂も、良心の呵責を期待して果たせなかった戸田も、両方とも読んでいる自分から距離はありませんでした。
上田看護婦すら、わからなくもない…という存在。
特にこの3人の心情がひしひしと生々しく伝わってきます。
そして、終わらない空襲と敗戦の予感の、疲労と諦念があれば、わたしも容易に傾いていきそうという怖さがあります。
加えて、F県在住なので、移転前の九大箱崎キャンパスにあったコールタールで塗られた校舎を見かけ、空襲避け本当にやってたんだ…と思ったり(今は撤去済)、
母方の大叔父がこの時の九大に通っていましたので(文系学部だったので学徒勤労動員で長崎にいたそうです。8/9にも)、
勝呂や戸田が眺めていたあの海も街も身近に感じられます。
生体解剖を「これは正義だ。神もお赦しになる」と言われたら、信仰を持つ人はどうするのだろう、と思いました。
善悪の判断の軸を信仰に置くのもなんだか……日本人は無宗教と思ってしまうほど信仰(神道、仏教、アニミズム)が体に染み込んでるだけだと思いますし。
違う形の苦悩を抱える人間ドラマが面白いけれど、信仰がないから罪の意識が〜について色々考えさせられてしまう作品でした。
再読だったけれど、何度でも読めます。
映画も観よう。若い頃はナヨナヨしてた記憶がある(『もう頬杖はつかない』参照)奥田瑛二さんが勝呂、若い頃はたぶん観たことない渡辺謙さんが戸田かぁ。
Posted by ブクログ
某大学の某捕虜解剖事件を元にした小説
淡々と進む グロテスクな要素はあまりない
あらすじで物語全部解説しちゃってるじゃん! って思ったら全然違ったしあらすじはガチであらすじだった
勝呂の読み方が全く覚えられなくて、出てくるたびに読み方を調べていた バカ
「これ、俺じゃん......(自分が常々考えていることが、近しい形で出てきたという意味)」と思いながら読んでました
Posted by ブクログ
尊敬する人が遠藤周作さんの本がお好きとのことで読んでみました。
戦争時の生体解剖に関わった人の話。
実際に起こった事件から、少し内容等変えて書かれているそうですが(解説で知りました)
本当に起こっているかのような表現に、ドキドキハラハラしながら読みました。
途中良心が痛みすぎてしんどくてなかなか読み進められないところがありましたが、勝呂さん、戸田さんそれぞれの心境がよく書かれていて、私は勝呂さんの方にとても感情移入しましたが、戸田さんのような人も中にはいるのだなぁと思いました。
勝呂さんもこのようなご経験があったから、冒頭のような生活をしていたのか…などと後でつながりました。
戦争時の心理状態では人命を尊重することが薄れてしまうのかな、と戦争を経験したことがないですが思いました。
Posted by ブクログ
・あらすじ
終戦直後の日本、東京。
私は気胸治療を受けるために勝呂という陰気で無愛想な町医者の元を訪れる。
治療は的確だが、どこかその「手」に冷たさと不気味さを感じるその医者は、戦中の大学病院で起こった生体解剖事件に関わっていた。
3章仕立てで2、3章はその生体解剖事件に関わった勝呂、看護婦の上田ノブ、医局生の戸田それぞれの思惑、過去、悔恨などが綴られる。
・感想
実際に起こった事件(相川事件)をもとに書かれた作品。
現代では到底倫理的に受け入れられない言動が多々出てくる…けどこれがこの「時代」だったんだろうな。
生命倫理、医療倫理…人の命が軽すぎた時代、簡単に失われる時代にあって「倫理」なんてあったもんじゃないだろうけど。
人が簡単に死んで、助けられない命が多すぎる日々に苦悩していた勝呂に、この事件は医学的実験という名目で能動的に「自分が人を殺す」という立場に追い込む。
結局、勝呂は手術室では何もできず目をつぶって現実を否定していたのみで、止めることもできず拒否して退出もできず中途半端に罪を背負う形になった気がした。
登場人物のなかでこの事件が「転機」となったのは勝呂のみ。
他の2人は特に何とも思ってなさそうというか、戸田は「己の他人への無関心さ」を改めて自覚するんだけど、上田はただ強烈な嫉妬心と場違いな優越感でしかこの出来事をとらえてない感じがして1番嫌悪感抱いた。
戸田に関しては人間なんて大体こんなもんだろうと思ってるから特段何とも思わず「普通の人間だな」という感想を持った。
「人間の良心なんて考えよう一つで、どうにも変わるもんやわ」という人間への過度な期待や理想が詰められてない現実的なセリフ。
「倫理」を調べると「善悪、正邪の判断において普遍的な基準」と書かれているけど人間なんかに「普遍的な基準」なんて持てるもんなんだろうか?
Posted by ブクログ
オーディブルで聴いた。
戦時中の病院で、アメリカ人捕虜を生体実験をして殺してしまう医者と看護師の話。
最後がよく理解できないまま終わってしまった。
Posted by ブクログ
出だしの文章から海と毒薬はどう関係してくるのだろうと疑問に思った。
言葉通りの「海」と「毒薬」というものが直接的に作品に出てくる訳ではなく
話中において戦争が蔓延る海という世界で人間の為す罪や罰を毒薬として表しているのだと読み終えてから知るのである。
目の前で人が殺されようとしているところを
自分は手を加えていないから悪くないと、何もしていないのだとこれから起こることに自身だけ目を背ける勝呂の心情こそが人間の罪や罰、つまり毒薬になり得るのだと私は感じた
勝呂は何もしていないのだ
何も
目の前で捕虜が解剖されるというのに
何もしなかったのである
何もしていないから悪いのでは無い
何もしなかったのが悪いのだ、と私は考える
自分の行動を正当化しようとする勝呂こそ
戦争で死んでいく人間が沢山いる中で
研究に回され解剖される捕虜をただみているだけだった勝呂こそ
広い海に落とされた数滴の毒薬なのだ。