あらすじ
長らく疎遠だった父が、死んだ。
遺言状には「明日香を除く親族は屋敷に立ち入らないこと」という不可解な言葉。
娘の明日香は戸惑いを覚えたが、医師であった父が最期まで守っていた洋館を、兄に代わり受け継ぐことを決める。
25年ぶりに足を踏み入れた生家には、自分の知らない父の痕跡がそこかしこに残っていた。
年下の恋人・冬馬と共に家財道具の処分を始めた明日香だったが、整理が進むにつれ、漫画家の仕事がぎくしゃくし始め、さらに俳優である冬馬との間にもすれ違いが生じるようになる。
次々に現れる奇妙な遺物に翻弄される明日香の目の前に、父と自分の娘と暮らしていたという女・妃美子が現れて……。
「家族」「男女」――安心できるけれど窮屈な、名付けられた関係性の中で、人はどう生きるのか。
家族をうしない、恋人をうしない、依るべきものをなくした世界で、人はどう生きるのか。
いま、最も注目されている作家・彩瀬まるが、愛による呪縛と、愛に囚われない生き方とを探る、野心的長篇小説。
解説:村山由佳
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Posted by ブクログ
良い本だった。愛を手放すことについて、悲しい以外の感情に辿り着きたい(261)という言葉に救われた。私はこの言葉を生涯大切にして生きていきたい。
Posted by ブクログ
「本当は優しい人が、こんな風にあなたや私を傷つけるかな。優しいって、こんなどうしようもないことでは人を傷つけないってことなんじゃないのかな。」
父親の遺品整理をするうちに、段々と父親に似ていって、狂っていく主人公から目を背けられませんでした。
読んでいくほどに辛くなった本は初めてです。
Posted by ブクログ
「どれだけ1人になったって、周りにあなたを理解してくれる人がいなくたって、必ずこの世にはあなたと近い気持ちを持ったクリエイターがいて、漫画とか、音楽とか演劇とか、小説とか作ってるの。だから、なにを拒んでも大丈夫。絶対に1人にならないよ。」この言葉がすごく突き刺さりました、気持ちが楽になれました。私にとって彩瀬まるさんの小説は私を1人にさせない作者であって偉大です。
Posted by ブクログ
主人公の父の死をきっかけけに遺品整理を行う。幼い頃両親が離婚して、父と疎遠になっていた明日香。家族への複雑な思いが、仕事や恋人との関係にも支障をきたす。
正直、遺品整理は、たとえどんなに親しい家族であっても、その人物が何を思い、生きてきたのか、故人との関係性や思いによって、すごく意味合いが、かわってくると思った。自分のルーツだけでなく家族のルーツや思いまで背負ってしまう。
故人に思いをぶつけたくても、もはやことばをかわせない相手。主人公はだんだん、満たされなくなり、自分で関係を壊してしまう。
家族だからこそ、恋人だからこそ。愛を求めてしまう。
「いや、家族を体の結合した一つの生き物として捉えるのでだ。主導権を握るのは、一番強い頭だけ。他の家族を自分の正しさで飲み込みにかかる人だ。」
この文の主人公の行動に、私自身が家族にもつ傲慢さを指摘されたような気がした。
本文で気になった言葉
「普通じゃないって思う人生は、困ったり、寂しかったり、大変だけど、それ以外の人生ではわからないことがたくさんわかるよ。わかったものは、あなただけのものだよ。辛いことを生き延びた先で、すごくきれいな景色を見られるよ。」
「無理に愛さなくていいし、愛されなくていいんだ。自分とは違うってそれだけを思憎むより先に遠ざかろう。私はそう、思う。」
「愛は花だ。運がなければすぐに枯れるし、腐ってなくなってしまう。だけど咲いていたことまで否定しなくたっていい。なくなったからって、偽物だったわけではない。昔、きれいな花が咲いていた。それでいいんだ。私と父との間には、ある時期、とても美しい花が咲いていた。
いつかそう思える日が来るのだろうか。タイトル「不在」。今はこのとき「いない」のであり、決して「ない」わけではない。いつかどこかに「在る」として、心が欲するものを探し求めて、道しるべとして、足掻き続けたい。そう思った。