あらすじ
「物語の主人公になって、劇的な人生を送りませんか?」
平凡な高校生・涼一は、日常をドラマに変える《フラッガーシステム》のモニターになる。
意中の同級生佐藤さんと仲良くなりたかっただけなのに、生活は激変!
ツンデレお嬢様とのラブコメ展開、さらには魔術師になって悪の組織と対決!?
佐藤さんとのロマンスはどこへやら、システムは「ある意味」感動的な結末へと暴走をはじめる!
伏線がたぐり寄せる奇跡の青春ストーリー。
電子書籍限定特典として、装画を手がけた模造クリスタル氏による未公開ラフを収録!
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Posted by ブクログ
「自分が物語の主人公だったら」
対象者が物語の主人公になるようにするフラッガーシステム。
1か月間、フラッガーシステムのデバッガーとしてフラグを管理していくことになった東條君の物語。
コメディ調で明るいテイストの中、フラッガーシステムは無慈悲に機械的に世界をどんどん改変して物語を紡いでいく。
前半のコメディパートで起こった荒唐無稽な出来事たち。
一見何のつながりもないそれらが後半にすべて結末に向けたフラグとなる。
その物語の外側であるはずの「終わりに」すらフラグの一つとなり結末に向かっていく。
後半にかけての勢いが強く、「次はあの時の出来事が回収されるのでは」「あれはどう回収されるのか」「確かにこんなこともあった」と思い返して読んでいく展開はジェットコースターのようだった。
コメディな展開はライトノベルや深夜アニメのようで、フラグにより攻略ルートを考えていくさまはギャルゲーのようだった。
だが、この物語の中の人物たちは本来深夜アニメの人物ではない。
深夜アニメの登場人物にされた人物たちには、それぞれに本来の生き方があったはずである。
コメディな展開とは対照的に本来とは異なるがゆえに生まれる歪みが見えたり、この1か月が終わったら彼らはどうなるのかといった疑問が浮かんだりと一筋縄ではいかない物語。
自分はライトノベルにもアニメにもゲームにも親しみがあるので、東條君のフラグ管理によりフラッガーシステムが引き寄せてしまう展開を予想しながら読んでいくのが楽しかった。
フラッガーシステムにより本来とは違う生き方をすることになった人物たちが、本来の生き方に戻ったときに少しでも良い方向に向かっていますように。
読んでいて思い出したことのひとつに、いわゆる5億円ボタンの亜種のひとつがある。
「目の前にあるボタンを押したら世界中の人に良いことが起こるとしたら、押すか」
デメリットはない。ただ、自分にそのボタンを押す権利があるというだけ。
押して悪いことがないのに自分はただ単純に押せばよいとは思えなかった。
自分はその時どうするかといったら、「ボタンを押したうえで自分はこの世から退場する」と思った記憶がある。
ほんとうにみんなのためになるなら押したほうが良い。
けれど、全世界に自分が何かしら道理に反する影響を与えてしまうと思うと果てしなく怖い。責任が持てない。
自分の手の届かないくらいの強さで世界が変わってしまって、その責任が自分にあるなんて耐えられない。
一体誰の視点から見る「良いこと」なのかもわからないのに。
フラッガーシステムの目指す結末(勝利、幸福、感動)も誰にとってのものなのかが分からない。
今回の物語の結末が幸福であったとして、例えば主人公が誰かの不幸を喜ぶタイプなら幸福な物語になるのか?
好きな食べ物を好きなだけ得ることができる物語になって設定された期間は幸福で終わったとして、物語の後にそれが原因で病気になっても物語の外側は知らんぷりではないのか?
実際には現実に存在しないような強い力のことを考えるとどうしても怖い。
フラッガーシステムはこの物語の後も改良され開発が続くようだが、絶対にもっと大きな過ちを引き起こすからやめたほうが良い。
このフラッガーシステムに、深夜アニメファンの大きな夢が詰まっているのだろうが…。
現実はフィクションではないから、自分は物語の主人公ではない。
東條君のように言葉にするだけで現実を変えていく力はない。
何もしなければ何にも起こらないまま。
けれど、目的に向けて言葉にして行動にしていけば現実だって少しは何かが引き起こせるはずである。
フラグ管理していくみたいに、凡庸な自分の物語を少しずつ作っていきたい。
Posted by ブクログ
漫画を読んでいるような気持ちでサラサラと読めました。 やはり僕は浅倉秋成先生の作品が大好きです。設定や登場人物、扱う言葉が全て心地良いです。
あとがきの最後「何があったって、俺はお前のことを守るぜ」は浅倉先生の作品を手に取った僕はこれからも幸せな時間を作品と共に過ごさせてもらえると受け取りました。
今月の新作も楽しみにしています。
Posted by ブクログ
アニメの主人公のような生活を送れるフラッガーシステム。そのシステムのテストに選ばれた高校生の話。
主人公と登場人物との掛け合いが、漫才のようなところがあり、読みながらクスッと笑えるところがたくさんあった。とても楽しくすぐに読めた。
Posted by ブクログ
お気に入り作家さんなので、星の数は甘めかな。
でも、ちゃんと面白かった。アニメ化して欲しい。
佐藤さんとどうなったのか、具体的に知りたい気持ちもあるけど、こんな感じのラストが丁度良いのかも。
ソラちゃんはミサカ妹的な存在なのかと思ってたら、違ってた。
あとがきが最高だった。お勧めラブコメアニメ教えて欲しい。
Posted by ブクログ
私にとって、2作目となる浅倉さんワールド。
『ノワール・レヴナント』を入り口としていたが、雰囲気の違いに、いい意味でびっくらこいた!
『ノワール・レヴナント』はとてもシリアスで重厚な物語(である中にコミカルな描写も挟まれてはいたけれど)だった一方、今作はなんというか、いい意味で「ぶっとんだ」浅倉さん節をみることができた気がする。
一見脈絡のない深夜アニメ的展開の中、築き上げられてきた壮大な伏線…。
私と同命者(≒中の人)は、ラブコメに対しては縁が薄い。
序盤から中盤にかけてのドタバタ展開や、涼一君のツッコミは、微笑ましくも、ちょっと辟易してしまうことも正直否めなかった。
しかし、佐藤さんの身に異変が起きてからの展開は、ページを捲る手が一気に加速した。
(あと私はメイドのひなたさん。同命者はソラさんが出てくる度にちょっとワクワクしてた。)
そして、困難を乗り越えた先の大団円に、胸中に清々しい風が吹きわたる感覚がした。
我が同命者も、とある創作活動をしている身。
浅倉さんがあとがきに書いていた「物語は現実の対極にある逃避先ではなく、現実を楽しく生きるためのよき教師であり、友達であってほしい。」という願いに心打たれた。
フラッガーシステムの影響を離れたあとも、涼一君や佐藤さんたちの人生という物語は続いていく。そして、読者である我々の人生も。
事実は小説より奇なりというこの人生。
幾多もの人生に寄り添う、星の数ほどもある物語たち。
ビバ!フィクション。
ビバ!旅路たるこの現実よ。
…あ、でも、フラッガーシステムが現実にあったらと思うと、ぞっとして止まない…かな…。