あらすじ
長いスランプに陥った小説家はやけっぱちになり、唐津を旅することに。陶芸体験をした窯元の夫婦から、水神にまつわる不思議な伝承を聞く。今でいう「難民」であったという流浪の水神は、戦国時代、いかにして秀吉の朝鮮出兵を止めようとしたのか……。『かたづの!』の著者が、かつてないスケールで歴史と現代を深く結びつける長篇小説。
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Posted by ブクログ
スランプに陥った作家「わたし」は唐津に旅をする。
そこで陶芸家の夫婦と知り合い、不思議な茶碗と、朝鮮の娘と、水神にまつわる話を聞かせてもらうことになった。
サワタローさんの語る『水神夜話』は、家に伝わる長い話で、水神とは河童のことらしい。
ファンタジーなのか、ファンタジーを装った歴史小説なのか。それとも反戦小説なのか。
ここでの水神の祖先は天竺からモンゴルを経て中国へ、半島から泳いで日本に渡り、九州に住み着いた。
水神は、人間社会に絡みつつも、人間の生態を観察し、一歩距離を置く。
『水神夜話』では秀吉の朝鮮出兵を止めようとする水神について語られる。読みごたえがあった。
ある日、朝鮮の名陶工の娘・銀緋(ウンビ)の焼いた不思議な茶碗が、カタカタと震え出す。
聚楽第の茶室での会話を聞いた茶碗が、猿が朝鮮半島を侵略するという情報を伝えたのだ。
戦が始まる。
インドから中国を経て日本に渡る間、各地に住み着いた水神の仲間がたくさんいる。
戦が起これば、仲間がたくさん殺される。川が血で汚れ、水が飲めなくなる。
水神たちは何とかして、猿の朝鮮出兵と、その先の明への侵略を止めなくてはと思う。
しかし、戦はヒトが行うもの。水神が直接手を下して止めることはできないのである。
そこで、水神たちは彼らの特性を生かして情報を収集する。
茶人と親交を持った者、島津義久の元にいる明人の医師の周辺を探る者、小西行長について回る者・・・
その過程で、猿以外の誰も明との戦いを望んでいないという状況に気づいていく。
しかし、中小の大名たちはもちろん、島津や徳川のような力のある武将も、猿の戦は愚かで無謀と分かっているのに、楯突くことが出来ないでいる。
どうやら、ヒトをあてにはできないらしい。
水神たちは、猿の野望を打ち砕くことができるのか!?
水神の一人、対馬の仁田川(にたがわ)にすむニタと小西行長のやりとりが面白い。
ニタは小西のつく「嘘」に驚き、興味を持つ。シンプルに生きる水神には、人の嘘が理解し難いようだ。
どうしてそんな嘘をつくのだとニタが問うと、その度に小西は「嘘ではなく駆け引きだ」とか、方便だとか、建前だとか言い返すのがちょっと漫才のようである。
そして、二人の腐れ縁。
人間に興味を持ちすぎた河童はヒト化するというが、大丈夫か?
銀緋(ウンビ)の茶碗はどんなものなのかと想像する。
こんこんと水が湧いてきたり、不吉なことを知らせたり。
きっと美しいのだろうな。
半島や大陸に出兵するのはとても愚かなこと。
隣人は大切にしないといけない。
Posted by ブクログ
これは好みが分かれる作品のようだ。
私は『かたづの』のような作品が好きなので、中島さんの妖なるものと歴史との絡みは面白いジャンルだと思っている。
今回は「水神」から見た、秀吉の朝鮮出兵の時代。
現代と、水神が記録した歴史を行き来して物語は進むが、水神から見た人間は、なんとも理解し難いほどの野蛮と支配欲を持った生き物だ。実際の歴史ではなく、水神から見た歴史というところが面白い。
水神は戦を止めることはできないが、できるだけ役に立ちそうなヒトに近いて、なんとか種族を守ろうとする。
歴史は事実なのだが、そこに水神が絡むことによって、より歴史の悲しさや虚しさが表れる。
本当にスランプなのかわからないけれど、中島京子さんの次回作にも期待!
Posted by ブクログ
秀吉の朝鮮出兵を止めるべく、水神(河童)が奔走した話を語り継ぐ「水神夜話」を、著者が陶工から聴いてしたためた本。という体をとっている。
水神と人間が目に見えて共存する世界を、史実を背景にして書いている。このよくわからない設定を最後まで読ませるのは、著者の筆力だろう。
ただ、途中で何を読まされているのか、よくわからなくなってくる。登場する河童たちは基本的に人間と似た思考回路を持っているので(「嘘」が理解できないことを除けば)、あまり面白みはなく、河童独特の世界に浸れるわけでもない。また史実がベースになっているが、あくまで河童とそのまわりの人々が主役なので、歴史のダイナミックさに没頭できるわけでもない。結果、どうしても中途半端感が否めない。
「戦争を止めようとする河童」という童話的な設定ではなく、もっと各地の河童伝説に絡めたような文化人類学(河童学?)的な話にしたら面白かったのでは?と思ったり。
著者と陶工のやりとりは血が通っていて温かかったが、途中からはほとんど出てこない。最後、芹摘みの老人に怒鳴られる?に至っては、なぜそうなるのかまるでわからなかった。
それでも、梨木香歩の家守綺譚を彷彿とさせる、現実と非現実の溶け合う感じは、良い読書体験だった。
中島京子さんの文章は好きなので、これからも読みます。