あらすじ
「俺、昔、喋る狼に会ったことがあるんだよ」カナダの温帯雨林にやってきた三人の日本人大学生。狼の生態に関するフィールドワークのかたわら、ひとりが不思議なことを言い出して──(表題作)。大人になる前の特別な時間を鮮やかに切り出した、四つの中編を収録。『叫びと祈り』『リバーサイド・チルドレン』の著者が贈る、ミステリ仕立てのエモーショナルな青春小説。/【目次】美しい雪の物語/重力と飛翔/狼少年ABC/スプリング・ハズ・カム
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Posted by ブクログ
デビュー作『叫びと祈り』で大きな話題を呼んだのが2010年。第2作『リバーサイド・チルドレン』が刊行されたのが2013年。そして2025年、12年ぶりに懐かしい名前を書店で見かけるとは。忘れかけていたその作家の名は、梓崎優。
第2作は長編で、第16回大藪春彦賞を受賞するなど高く評価されたが、第3作はデビュー作同様の短編集であり、テイストも初期に戻っただろうか。12年の歳を重ねた分、読書のキャパシティは減っているのだが、本作は読んでよかった。
最初の「美しい雪の物語」が一押し。ボストンからハワイ島に引っ越した少女が、偶然見つけた日記。そこに書かれているのは、過去でもあり現在でもある。そして少女の父は…。ミステリー的手法を巧みに用いつつ、読者に投げかけるテーマは重い。
「重力と飛翔」。佐々は同級生の小原の葬儀に来ていた。ふとしたきっかけで、亡くなった小原と映画談義をする関係になった。彼の姉が見せてくれた写真を、どう解釈するか? 生成AIがどんどん発達する現代である。彼の行動を、愚かだと笑えるか?
表題作「狼少年ABC」。狼を撮るためにカナダまでやって来た3人。ある1人が語った、狼にまつわる幼少時の体験とは? この説が正解かどうかは、彼自身が確認すればよい。自分も同じような後悔はある。背中を押してくれる、良い友に恵まれた。
最も青春物らしい「スプリング・ハズ・カム」。卒業から15年後に開かれた同窓会。卒業式で起きたある事件について、推理合戦を始めたが…。真相を知ったのはただ1人。彼が誰かに伝えることもないだろう。その理由は、読んで確かめてほしい。
『叫びと祈り』は、定番のミステリー的手法を用いながら、それをずるいと感じさせないうまさが光る作品集だった。本作もまた然り。1編を仕上げるのに、どれだけの時間を要したのか。こうして梓崎流ミステリーをまた読めたことを、嬉しく思う。
『リバーサイド・チルドレン』の路線変更は、当時やや戸惑ったのを覚えている。第4作を読める日はいつか。読めるとしたら、短編集なのか、社会派長編なのか。できることなら、中年読者の頭が働くうちに、新刊を出していただきたい。
Posted by ブクログ
梓崎優先生の最新刊が読めるなんて!嬉しすぎる!!
普段は風景描写が苦手で目が滑るけど、梓崎先生は本当に目に浮かぶ様に描かれててずっと読んでいたい。そして着地があまりに素晴らしい「美しい雪の物語」。
「重力と飛翔」を読んでて思い出したの(大好きな!)宮部みゆきさんの現代青春モノ。淡々としていた語り手が最後に辿り着いた感情の正体に気付いた時の切なさたるや…!
キャラの立った3人の学生が魅力的な謎について語り合う表題作の「狼少年ABC」は(やっぱり大好きな!)伊坂幸太郎さんのよう。少し鬱屈とした現状を吹き飛ばすような、愉快な未来を感じさせてくれるラストも素敵!
そして、個人的に人生で1番好きな短編の1つである「スプリング・ハズ・カム」。
そうか、初めて読んだ時からもう15年も経っていたのか…。時間の経過が重なり過ぎてコレを狙っていたのなら凄すぎる!
『みんな、大人になったんだなぁ』の意味が当時より遥かに理解出来て、さらに結末を知っている分、読んでいて本当に胸が苦しかった。
小説でしか味わえない、時が経っても絶対に色褪せない最高の物語でした。
また梓崎優先生の作品が読めるのを、何年でも待っています。
読書ってやっぱり楽しいなぁ!
Posted by ブクログ
すごく好きだった。
四季や自然の美しさと共に、忘れていた青春時代のどうしようもない甘酸っぱさや、痛みを思い出し、胸がいっぱいになりました。
謎が解き明かされるたび、切なさに加え温かい気持ちも湧いてきて、読んでよかったと思える物語でした。
Posted by ブクログ
カナダ西部の太平洋岸に広がる世界最大の熱帯雨林〈グレート・ベア・レインフォレスト〉。バンクーバーの名門校に留学して、その研究の一環としてその熱帯雨林で狼の生態を調べている友人に押し掛けた〈僕〉と穂村のふたり。そんな旅先の中で語られる穂村の意外な過去。「俺、昔、喋る狼に会ったことがあるんだよ」と言う彼の言葉は謎が紐解かれるとともに、思いもよらない結末を迎える。――「狼少年ABC」
雪の日の卒業式、体育館に流れたのは本来流れるはずのなかった曲が体育館に鳴り響いた。仕組んだのは誰だったのか。あれから十五年の月日が経ち、卒業式翌日に校庭に埋めたタイムカプセルが開かれるとともに、同窓会が行われることになった。十五年後の自分たちへとあてたメッセージカードの中から取り出されたカードの一枚には、あの事件の犯人だと宣言するメッセージが書かれていた。十五年の時を経て、静かに記憶の扉が開く――「スプリング・ハズ・カム」
本作は全四篇の中篇で構成される作品集になっています。特に印象深い作品が「スプリング・ハズ・カム」で、『十代の青春』という良くも悪くも人生を形作るうえで重要な時間が、記憶となって根付いて遠のいていけばいくほど、心にしみてくるような作品になっています。静謐に辿った言葉の先に、涙なくしては読めないラストが待っています。全篇、折に触れて読み返したくなる、そんな素敵な作品集です。
Posted by ブクログ
今回はじめて梓崎さんのお名前を知ったのですが、読み終えて他の作品も読みたい!とすぐ思うくらいとても素敵な作品でした。
短編集を読むと、この話が1番好きだった…!というのが出てくるものだと思いますが
本作はどれも選ぶのが難しいくらい好きなお話でした。
強いていうなら1番はじめの「美しい雪の物語」が好きです。父親の都合でハワイ島に引っ越してきた少女は謎の日記を見つけ、日記に出てくる人を探そうとする。
p38で「気になるお店があったら〜皆、私の知り合いで気の良い人たちばかりだから。」と叔母が少女にいう。
p60では「それで、日記の男女のその後だが」と土産物屋の老人はいう。
p69で少女の名前が明かされる。
老人は少女の父親のことを知っていたのだろう、皆知り合いになるような街なのだから。
そして少女の両親は、両親にとって大切な思い出を名前に込める。
短いけれどミステリーになっており、
難しいミステリーではないが心温まるミステリーであった。そしてきっと今度はミユキとマテオの物語が始まっていくのだろう。
ものすごく素敵なお話だと感じました。
Posted by ブクログ
幼い頃の記憶「しゃべる狼」の正体とは… 若者たちの苦渋と成長を描くミステリー短編集 #狼少年ABC
■きっと読みたくなるレビュー
とってもセンスのいい日常の謎ミステリー短編集です。
なにより会話がお上手で、それだけで関係性や距離感がよーく伝わってきます。物語の舞台や切り口も凝っていて、それぞれの作品それぞれに色合いがあるんすよねー。またどの作品も若い世代が主人公になっているところが淡くって大好き、学生時代の友人を思い出しちゃいます。
ストーリーとしても綺麗で、読み味もポップ、謎解き小説としてもよくできてる。そのまま『世にも奇妙な物語』に採用されそうなお話ばかり。普段ミステリーを読まない人にもおすすめですね。
■各短編の簡単レビュー
○美しい雪の物語
ハワイに引っ越してきた少女の物語、叔父に案内をされ、島の人々と交流を深めていく。少女が古い日記帳を見つけると、そこには男女の出会いが認められていた。しかし最後のページは…
少女と少年のやり取りの透明感、破壊力ありすぎ。すっかり作品に吸い込まれちゃいますね。おじいさんが優しくて泣きそう。私も年を取ったら、こんなおじいちゃんになりたい。ミステリーとしてもセンスが良いし、細かい演出もヒネリも効いてて文句なしですね。
○重力と飛翔
クラスメイトが学校の屋上から転落して亡くなってしまった。彼は映画好きで、いつもDVDを貸してくれていた。通夜に参加すると、お姉さんから一枚の写真を預かる。友人が最後にとった写真ということなのだが…
青春ど真ん中の物語、この頃の思い出ってかけがえのないものですよね。友人に対する真っ直ぐな想いが美しく、ハッとさせられます。
○狼少年ABC 【おすすめ】
農学部大学生の三人はリゾート地に狼の撮影に来ていた。そこで友人のひとりが古い記憶について語り始める。幼い頃に話をする狼に合ったことがあるというのだが…
三人の会話劇だけで進行する物語、ひとりひとりの性格が良く絵掛けていて、それぞれの顔が目に浮かんでくる。若者らしい会話だけがつづくなーと思いきや、突然提示される謎とき。エモくまとめてるところに作者の優しさがでてるなーと思った。
○スプリング・ハズ・カム 【おすすめ】
高校時代の同窓会、15年前のタイムカプセルをあけることに。手紙を読み上げると、そこには卒業式に起こった放送室ジャック事件の犯人は私だという告白がされていた。
やっぱり会話がお上手、友人たちの仲が良さがよくわかる。仲間内のやりとりって、それだけでセンスが出ると思うんだよね。謎解きも多重推理で緻密だし、そうと思いきや真相にも驚かされる。
■ぜっさん推しポイント
現実に生きていくってのは、大変なことばっかりですよね。特にまだ人生経験が少ない若い世代にとっては、は楽しいことより苦しいことのほうが多いでしょう。私の20代なんて、辛いことがあったら逃げてばっかりでしたね。
本作はそんな若者たちの苦渋、そこから這い出る成長を描いていると思うんです。若い皆さんは、決して保守的にならず、勇気をもってチャレンジして欲しいですね。
Posted by ブクログ
心が揺さぶられる優しいミステリの短編集。
「重力と飛翔」と「スプリング・ハズ・カム」がお気に入り。
2つとも死人が出ているお話だが、温かさを感じる。
Posted by ブクログ
いわゆるミステリ風味な作品集かなあって感触で読み始めまたらなんてことはない。
美しいミステリの仕掛け満載でした。
二作品目の全てが繋がる快感、ラストの作品のある叙述トリックにやられてあと込み上げそうになった。
良かった。
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