あらすじ
雪の夜、木挽町の芝居小屋の裏手で、菊之助なる若衆が果たした見事な仇討。白装束を血に染めて掲げたるは父の仇、作兵衛の首級(しるし)。二年後。目撃者を訪ねる武士が現れた。元幇間、立師、衣装部屋の女形……。皆、世の中で居場所を失い、悪所に救われた者ばかり。「立派な仇討」と語られるあの夜の〈真実〉とは。人の情けと驚きの仕掛けが、清々しい感動を呼ぶ直木賞・山本周五郎賞受賞作品。(解説・中島かずき)
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Posted by ブクログ
木戸役者の口上に耳を貸したら、気づけば枡席で極上の芝居を見入っていた。
とてもいい小説だった。粋でありながら、軽やかだ。古いけど新しい。昔ながらの歴史小説家には怒られるかもしれないが、歴史小説初心者の僕にとっては非常に読みやすかった。
まず文章がいい。本当に小気味よく頭に入ってくる。語り部によってその読み口が異なるのだけど、どれも味わい深い。特に『枡席の場』は格別だった。
森田座の人たちの来し方もいい。時代背景は違うはずなのに、不思議と胸を打つエピソードがいくつかあった。人が何かに悩み、それを乗り越えることはいつの時代だって同じなのだと勇気づけられた。
そしてなんといってもあだ討ちに秘められた絡繰りが素晴らしい。綺麗にふわりと投げられて気持ちよく宙を舞うことができた。最高の読後感だ。
Posted by ブクログ
★4.5
裏切らない直木賞作品…!
5人?の視点から物語が語られるわけなんだけれども、しかも昔の時代なので、語り口調もなれなくて、読みづらいなとか思ってたのに、めっっちゃ物語にのめり込んでしまった…
正義に殺されなくてよかった。
「己の想いを貫くことの難しさも、道理のままに行かぬ割り切れなさも、この世の中には多数ある。それを嘲笑うのではなく、ただ恥じるのでもなく、しなやかに受け止め、生きる人々がいる。そのことが私の背を押し、己の心に従う力を与えてくれた。」
Posted by ブクログ
本の感想とは直接関係ないのだが、ちょうどこの本を読む直前に歌舞伎座に歌舞伎を見に行き、赤姫の演目を見たのに加えて、通り道で現在の木挽町も見たので、どことなく親近感を持って読んだ。赤姫の姿をして作兵衛の前に現れて、振袖を脱ぎ捨て、白装束になる菊之助の姿に、歌舞伎で見た赤姫の姿を重ねて見ることができたので、まさに、仇討ちという芝居のイメージがよく湧いた。
うちの母は、とてもいい話だったと絶賛していたのだが、よくできたいい話過ぎて、やや冷めて読んだ感じではあった。悪所と言われる芝居町に流れ着いた人たちの、それでも温かい人たちに支えられて生きている様に、どの程度、共感して心温まるかで、読み進み具合が変わってくるかもしれない。自分は割と、途中で飽きて、読み進まなくなってしまった感がある。
仇討ちの場で作兵衛に付き従う従者の役目を担った木戸芸者の一八。殺陣の指南をした与三郎。衣装を見繕ったほたる。偽の首を準備した久蔵に、仇討ちの目撃者となったお与根。狂言としての仇討ちという筋書きを書いた戯作者の金治。
一人ひとりのキャラクターの背景が、全部、最後の仇討ちの伏線になっていて、読後の納得感がすごくある。綺麗に伏線が回収されるので、気持ちがいい。うちの母なんか、そういったところが、いたく気に入ったようである。
ただ、各キャラクターに役割があったというだけでなく、それぞれのキャラクターが、自分の芝居小屋に流れ着くまでの来歴を語るということが、菊之助の仇討ちの決断につながっているところも見事である。ただのキャラクターの裏話で終わらずに、ストーリーの本筋にしっかりとその話が関わってくるのがすごい。
伏線を張って、きちんとそれを回収するということが、ここまで綺麗にされているのを見ると、ただのエピソードの垂れ流しみたいな私小説的な小説なんかが、怠慢に見えてくる、というようなことを、作家の阿部和重が言っているのを最近読んだが、この『木挽町のあだ討ち』なんかを読むと、その言葉より重く聞こえる。物語の中で、一人ひとりの語り手が語ることが、きちんと本筋に生きてきて、本当に無駄がない小説だと思う。
そのよくできている感が、あんまり響かない人には響かないのかもしれない。とはいえ、この読後の爽快感は、多くの人に味わってほしい。