あらすじ
雪の夜、木挽町の芝居小屋の裏手で、菊之助なる若衆が果たした見事な仇討。白装束を血に染めて掲げたるは父の仇、作兵衛の首級(しるし)。二年後。目撃者を訪ねる武士が現れた。元幇間、立師、衣装部屋の女形……。皆、世の中で居場所を失い、悪所に救われた者ばかり。「立派な仇討」と語られるあの夜の〈真実〉とは。人の情けと驚きの仕掛けが、清々しい感動を呼ぶ直木賞・山本周五郎賞受賞作品。(解説・中島かずき)
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Posted by ブクログ
『あだ討ち』に至る物語の真相を主軸に、それを取り巻く芝居小屋の面々の来し方に心打たれた。
このところ、存在のすべてを〜熟柿と親子愛に涙する小説が続いていたが、今回も久蔵の段で胸が締め付けられた。まあ坊を想って打ち首を作り上げた久蔵の心情はいかばかりか。ただひとり、死にゆく幼な子を抱きしめるしか出来なかった母のお与根の悲しみは、いかばかりであったか。
そこかしこに不条理が存在する江戸の世。元大工の年寄りが無惨に斬り殺されても奉行所は動かない。殺した当人は士官先まで手に入れる。自身の来し方行く末に悩む与三郎に、お三津が働く飯屋「つるや」の親父が言う。『しかし、まずは御身を大切に。腹を満たして笑うこと。それでも割り切れぬ恨みつらみもありましょうが、そいつは仏にお任せするのも、手前どもの処世術というもので』。
現代よりも神や仏が身近だった時代。不条理をしなやかに受け止めて生きる人々。白黒ハッキリさせなければ気のすまない風潮が蔓延している現代で、今ここで生きる自分も見習うべきと感じた。(頭の中では、つるやの親父は鬼平に登場する相模の彦十(江戸家猫八)であった)
『己の想いを貫くことの難しさも、道理のままに行かぬ割り切れなさも、この世には幾多ある』。そんな時代だからこそ、菊之助の想いを貫くために芝居小屋の面々が力を合わせ、あの『あだ討ち』を成し遂げる。大団円の気持ちのいい結末だった。
Posted by ブクログ
はーーーーーこれは読んでよかった…!!読後感抜群。
物騒な話と思いきや。
ある若侍のまっすぐな心と、それに寄り添う粋な江戸市井の人たちの深い情に溢れている。芝居の町・木挽町でなければこの仇討は成し得なかった。
場面ごとに語り手が変わるのも面白い。まるで、その場で自分が話しかけられているような感覚に。
Posted by ブクログ
まず、仇討ちについて調べている武士は何者?という疑問を抱きながら読み進めていった。
次第に菊之助が父に殺されそうになったことが判明。なぜ?
良い人だった作兵衛はなぜ博徒になったのか?
目撃者も多く、完璧に行われたはずだった木挽き町の仇討ち。
しかし、何かおかしい…。
人情物でありミステリーである一冊。
謎が解けた時、ほっとしてああ良かったという気分になった。
(実は途中からだいたいトリックはわかっていたが)
武士が話を聞いて回った芝居小屋の人たちの人生は苦悩に満ちたものだった。
ひとり一人とても重たい内容。
でもそういうことを笑い飛ばし、力強く生きていく逞しさがあった。
このお話は勧善懲悪ものである。
現実はそんなにうまくいかないかもしれない。
けれど、江戸の人達が芝居を見て元気をもらっていたように、私もこの『木挽き町のあだ討ち』を読んで温かい気持ちになり、元気をもらえた。
物語のよさはリアリティーだけではないと思う。
時代物だけどとても読みやすい。
日常会話ではあまり使われなくなった「人情」という言葉がぴったりのお話。
悩んだり苦しんだりするからこそ、人の苦しみに寄り添える──
そんなことを思う一冊だった。
Posted by ブクログ
良質な本、仇討ちを軸に周囲の人たちの生き様を描き、最後まで読ませ切る著者の筆力は大したものです。オチは途中から予想できるけど…
映画もあるみただけど、映像化には合いそうな描写でした!
Posted by ブクログ
ミステリのカテゴリーだと思って読み始めてしまったので、ミステリ好きとしてはタネや仕掛けに物足りなく感じる部分もありつつ、江戸の芝居小屋を舞台にした群像劇としてはとても面白かった。
歴史ものの割に非常に読みやすく、読み応えのある大作というより落語を聞き流しているような心地よい読み心地と爽やかな読後感。非常に丁寧な説明を加えてくれているので、現代ものしか読んだことのない人にもとっつきやすそう。あまり悩まずささーっと読み切れる。
キャラクターたちがみな魅力的で、巻末に近づくにつれ、菊之助と同様に別れを惜しむような気持ちになった。
また森田屋の面々に会いに、再読したくなることと思う。
Posted by ブクログ
直木賞・山本周五郎賞なので読んでみた。
山本周五郎賞は見つかれば読みたいと思っている。
目についたものだけでもとメモしているが読み切れていない。
最近話題のこの作品はすぐに買って積んでいたがやっと読むことができた。最後になってああそうなのかと、さっぱりほんわかした、ここが驚愕のミステリなどと紹介されている所以かなと納得した。初めて読む著者だったけれど、幕切れに驚いた。
きちんと落とし前が付いているというのはこういうことかもしれない。驚いて納得。
木挽町の芝居小屋ではさまざまな過去を持つ人たちが働いている。しかし木挽町という土地柄はあまりいい意味を持たないらしい。
それでもここで働いている人々には重い過去があり苦労人らしい人たちの集まりは、人情深くて味わいがある。
若い侍が行き暮れた風情で小屋の前で立ち止まり、木戸案内の芸者に職はないかと尋ねた。美しい容姿の若者でいわくがありそうだった。なにかしら雑用が多い舞台裏は食べていけるくらいの仕事はある、彼は暖かい人情に囲まれて日常をこなしていった。
ところがこの菊之助という若侍は、暮れの雪の日、緋色の上掛けに白無垢の衣装で小屋の裏口から突然走り出していった、大男のならず者を斬り倒し、首を大きく掲げて、見事あだ討ちを果たしたと呼ばわった。
二年後、この仇討の仔細を聞きに別の若侍が訪れる。彼が見聞きした人々からあだ討ちの一部始終を知る。
江戸の悪所で働きながらあだ討ちを果たして故郷に帰り平和な日常を手にした菊之助が、どうして本懐を遂げたのか、大男を討ち取ることができたのか。
その武士は周りの人たちの人情深い暮らしが菊之助をどう育て、どうあだ討ちを成功させたかを知ることになる。
時代小説が持っている雰囲気や土地柄の様子など巧みに織り込んだ人情と善意の物語がジンとくる。これが人気の秘密かも。
初めての永井作品だったが面白かった。
Posted by ブクログ
「あだ討ち」が何だったのか、さまざまな人の目線で語られ徐々に明らかになる物語。
それぞれの章で、菊之助がお世話になった木挽町の人たちが語り部になることで、その人たちの人となりや菊之助がどんな人物だったのかがよく分かる。映画?かドラマにもなっているようだけど、どんなふうに編集されているのか少し気になる。
この物語の登場人物たちのように相手のことを思って行動できる人間になりたいな。思いやられる側の人格にもなりたい。
Posted by ブクログ
人との関わりや出会いを大切にしたくなる。
映画のポスタービジュアル(一面の雪の中に、菊之助と作兵衛がいて、菊之助が赤い着物を纏っている)が目に焼き付いて気になって、まず本を読んでみることにした!
芝居に出会って人生が変わった人たち、その人たちに出会って人生が変わった菊之助の話。
菊之助に関わった人たちの口から、“木挽町のあだ討ち”の話と、その人の生い立ちが語られていくことで、話が進む。
最初は、語り口調だと深い心情描写がないから少しさみしいなと思ったけど、話者の、外に現れるひととなりがわかりやすく、キャラクターを掴みやすくて、どんどん惹き込まれていった。読みやすいのもいい!
でもこの形式は、おしゃべりな人じゃないと成り立たないなあ、と心配していたら、小道具担当の無口な久蔵さん(阿吽の久蔵)のターンでは、おしゃべりな奥さんが話してくれていた。
話者はみんな、芝居に出会ったことで人生が変わっていて、その変わり様が素敵で、劇的。
この時代の文化や社会情勢などは、そういう”設定”なんだと思って読めば楽しめるということにいまさら気づいた。
いままで時代小説は日本史の知識がないと楽しめない、と勝手に決めつけていたけど、昔ながらの特有の単語も話し言葉も、SFやファンタジーに出てくる難解な横文字のようなものと思えばいいんだと腑に落ちた。最近、言葉の意味や語源を調べるのが好きだから、勉強にもなる!
『新劇場版 銀魂 -吉原大炎上-』を観たから解像度高く読めたのもあるかもしれない。
これからは時代小説もたくさん読んでいきたい!
終幕では菊之助が話者となり、“木挽町のあだ討ち”の全貌が語られるけど、第五幕までの関わった人たちの話の中から、実は作兵衛は斬られてないんじゃないかな~?と考えられる匂わせがあって楽しい。
みんなが協力して“木挽町のあだ討ち”を成功させたこと(ネタバラシ、オチ)を書くために第一幕~第五幕があったんだろうけど、どんでん返しの物語よりも、読んでいる最中に「なにこれ楽しい!」と思える本が好きだから、ネタバラシやオチの終幕がなく、第一幕~第五幕だけでもだいぶ好みのタイプだった。
映画も観たくなったので観に行く!登場人物がみんな魅力的だから、アニメにしてもとても面白そう。
電車内で『木挽町のあだ討ち』を読んでいたとき、前に座っていたご婦人二人が「木挽町が~」とまさにこの本の話をしていて、「それ!いま読んでます!」と主張したくなった。HOTな小説を読んでるとこういうことがあるのか。
Posted by ブクログ
面白いね、昔の都築道夫のなめくじ長屋の如く、芝居小屋の面々の人生の背景が良すぎて生き生きしているものだから、今回の『芝居』がどうにも≪当たり≫だね、筋書きを描くのも楽しくて仕方がなかったんじゃないかw
仇討は儒教(特に朱子学)の影響が強く、「父の讎は与に天を戴かず」という考えが背景にあり、主君の仇(赤穂事件など)は例外的に美談化されましたが、血縁ベースの親子仇討ちが最も自然で頻出する形でした、でも卑属の手(目下の者が目上の者の敵を取る)ではなく「親が子の仇を討つ、夫が妻の仇を討つ」というケースは許されないんだよね、儒教ってむずい