【感想・ネタバレ】元素周期表で世界はすべて読み解ける~宇宙、地球、人体の成り立ち~のレビュー

あらすじ

私たちの体、住んでいる地球、そして宇宙。この世に存在するものはすべて、元素同士の化学反応によりできています。これら自然科学の摂理を凝縮した万能の道具が、周期表です。元素たちが並んだ周期表のルールは、複雑そうに見えてシンプル。縦と横のどっちから攻める? なぜ人体は取り込む栄養素を間違う? 元素の化学進化って何?――難しそうだけどなぜか気になる、そんな周期表の仕組みわかる入門書。

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Posted by ブクログ

著者吉田たかよし氏は、医学博士であり、大学教授であり、そこまでなら何となく分かるが、元NHKアナウンサーであり、タイタンに所属するタレントでもあると聞くと、何だか胡散臭くなってしまうのである。そして、そのせいで出版された本も程度の低いものではないかと、偏見をもってページを開いたが、これはもう、心でお詫び。非常に分かりやすく、読んでいてワクワクするような。何より勉強になりました。

スイへーリーベーの元素周期表だが、その読み方や面白さを伝えてくれる。これを作成したメンデレーフは元素の一覧表の中で、該当する元素が見当たらない場所を空欄とした。そして、そこに入るべき元素を予言。例えば、アルミニウムの真下にはエカアルミニウム。エカと言うのはサンスクリット語で1を表し、1つ下という意味。ケイ素の下にはエカケイ素。今、エカアルミニウムと名付けた空欄にはガリウムが埋まった。ケイ素の下には、ゲルマニウムが埋まった。

元素と周期表の関係で大切な事は、①周期表の縦1列は、最も外側の電子がよく似た状態であることが多い。②最も外側の電子の数で元素のおおよその性質が決まる という事だという。そこから考えると、セシウムはカリウムと同じ列の2つ下にある。カリウムは、神経や筋肉の細胞を働かせる人体にとって不可欠な元素だが、最も外側ある電子の数が同じセシウムを間違って体内に取り込むことがある。ストロンチウムはカルシウムと同じグループに属するため、骨に取り込まれてしまう。このため、放射性ストロンチウムが骨に悪性腫瘍を作らせ、骨肉腫が発生する。また、骨の内部の骨髄で赤血球や白血球を作っているが、骨髄の細胞にもダメージを与えるため、白血病を引き起こす。セシウムやストロンチウム。福島原発で有名になったアレだ。

人体を構成する元素は、1番多いのが水素、順に酸素、炭素、窒素と続き、これらの4つの元素だけで全体の99.5%を占める。そして水素は第一周期、酸素、炭素、窒素は第二周期にあたる。宇宙に多く存在する元素ほど人体にも多く含まれる。周期表で人体がよく使う元素の真下にある元素は毒性があることが多い。例えば亜鉛とカドミウム、水銀。よくあるものから我々は生まれた。そして、似たようなものに、苦しめられる。

後は以下のようなトリビア。ためになる。

ー ギャバニューロンの細胞膜には塩素イオンを通す小さな穴が存在する。普段はこの穴は閉じているため、細胞の中に入っていけないが、アルコールや睡眠薬が作用すると穴が開き、細胞内に塩素イオンが一斉に入っていく。塩素イオンはマイナス1価のイオンなので、細胞の中も電気的にマイナスになっていく。そうするとギャバニューロンが働きやすくなり眠くなる。お酒を飲むと眠くなる理由。睡眠薬と飲酒を同時に行うと塩素イオンが流入しすぎて制御不能に陥るため命を落とすことがある。

ー 二酸化炭素に比べて酸素は水に少ししか溶けないため、体の中で運ぶのが難しい。特に冷水なら酸素はそこそこ水に溶けるが37度まで上がると溶解量はぐっと下がる。ちなみに、南国の海が透明なのは、熱帯の海は水温が高いので、酸素の量が少なく、プランクトンが多く生きられないため。水温が低い海だと比較的多くの酸素が溶けているため、プランクトンが繁殖し水が濁って見える。水温が低いほどプランクトンを食べる。魚も豊富に育つ。

ー 体内の血液は温度が高いので、酸素を水分に溶かして運ぶのが難しい。そこで登場したのが赤血球の中にあるヘモグロビン。ヘムと呼ばれる赤い色素に鉄がくっついている。この鉄が酸素を効率よく運ぶ。酸素の運搬と言う役割を果たす。金属は手だけではなく、クロムやマンガン、コバルト、ニッケル、銅などでも理論的には可能。しかし、こうした多くの候補から鉄が役割を果たすことになったのは、存在量が多かったからと言うことだ。もし宇宙がコバルトだらけだったなら、私たちの血液はコバルトブルーだったかもしれない。

ー レアアースの各元素は、それぞれ電子配置がよく似ているので、化学的な性質も似ていて、同じ場所から産出される傾向が高い。レアアースの鉱床は、アジア、北欧、アフリカ、南北アメリカ、オーストラリアと世界各地で見つかっているが、そのほとんどが軽希土類の鉱床。重希土類の鉱床は現在のところ、中国南部でしか開発されていない。

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2024年10月11日

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人体における各元素の働きには興味があったので手にとった。しかし、私は学生時代から周期表を覚えるのが苦手。ちゃんと理解できるだろうかと不安だったが、本書は誰にでも分かるような言葉で丁寧に解説されており非常によく分かった。
もともとの目的であった人体については、特に神経や筋肉がナトリウムとカリウムによって動いているという話が興味深かった。オン / オフの切り替えを細胞の内外の電気的プラスマイナスで切り替えており、それを同じ 1 価で大きさの異なるナトリウムイオンとカリウムイオンで行っている。なぜナトリウムとカリウムなのかということにも言及されていて面白かった。
他にも宇宙というスケールの大きい視点から元素の起源について語られていたり、少し前から注目されているレアアースについても解説されている。
本書を読んで一気に周期表が理解できたし、好きになった。学生時代に読んでおきたかった一冊。現在勉強中の学生や私と同じように周期表に苦手意識のあった人に是非読んでみて欲しい。

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2022年02月14日

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目に見えない一見難しそうな取っつきにくい世界を魅力的なサイエンスストーリーとして解説した本。知的好奇心をくすぐる内容ばかりで読後の満足度が高い。正直、電子や原子やイオンのプラスマイナスの話などを完全に理解しながら読めた訳ではないけれど、それでも十分に納得しながら元素および周期表の神秘さや不思議さ、美しさを感じることができた気がする。著者自身も魅せられていると語っていた「希ガス」の話は特に興味深く惹き込まれた。理科離れが叫ばれて久しいけど、こういう話を中高生の時にもっと知る機会があればサイエンスに興味を持つ学生も増えるように思う。

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2021年11月10日

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周期表を用いて宇宙や人体などの事象を上手く説明しており、高校程度の化学の知識があれば面白く読めると思う。

冒頭で述べられている「周期表とは量子化学の結論を数式を用いずに表したもの」(だったかな)という定義は本質を上手く言い得ている。

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2017年02月15日

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題名は大袈裟だが、周期表の楽しさを知ることができる。

-なぜ、放射性物質であるストロンチウムを体内に蓄積させないためには、カルシウムを摂るのが良いのか?
-なぜ、レアアースが中国だけに偏在しているのか?

本書は、無味乾燥な周期表を時事ネタや健康ネタを絡めながら、興味深く説明する。

著者は量子学を専攻した後、NHKでアナウンサーとして活躍。NHKを退職して、医者となった。
医学を勉強しているときに「目からウロコが落ちた」ことが2回あったらしい。
ひとつは、宇宙にある元素と体を構成する元素が大きくつながっていること、もうひとつは、周期表で人体が良く使う元素の真下にある元素は毒性があることが多いこと。
この二つの事象の説明は、ミステリー小説的でもある。

第1章の最後にある「電子の軌道を4つの原則」は紙と鉛筆を持って数字表を書きながら読むと、周期表が深く理解できる。
もう一度高校生に戻って化学を勉強したくなる、お勧めの★5つ。

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2015年07月26日

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[すいへいりーべ...からの脱却]高校時代にとりあえず覚えた記憶が多くの方にあるであろう「周期表」。一見、無味乾燥に見えるこの表が現実の世界を紐解くヒントになっていることを、多くの例とともに示してくれる一冊です。著者は、NHKアナウンサーとして活躍したこともある異色の医学博士、吉田たかよし。


編から著者の周期表への愛が伝わってくるのですが、本書で提示される周期表の有益さと「よくできている」という意味での美しさを考えれば、さもありなんと膝を打つ読者の方も多いのではないでしょうか。極めて理解に優しい言葉で書かれていることもあり、科学関係に興味を抱かせてくれる新書として大変オススメできる一冊です。


ただ単に元素ごとの解説を加えていくのではなく、宇宙や人体、さらにはレアアースといった話題とともにその特徴などを教えてくれるところにも好感が持てました。このような科学紹介本の類いを読むと、「こういう先生に昔教わっていれば…」(だいたいこういうことを言うやつほどどんな先生に教わってもロクに伸びるもんじゃない)と身勝手にも思ってしまうのですが、本書ではその感想を特に強く感じることになりました。

〜周期表の本質は、科学が到達した曼荼羅である。〜

ここまで言われちゃうともう☆5つ

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2014年12月10日

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学生時代に全く興味を持てなかった理系の本が面白く読めて嬉しい。著者に感謝。

元素周期表が単なる記号と数字の羅列ではなく、宇宙や人体の成り立ちまでも読み解ける表であったとは。
生き生きとした科学の面白さが伝わってくる。
手元に置いて繰り返し読みたい本。
こういう本を高校で理科を教える教師の方達に読んでいただいて、生き生きとした授業をして欲しいと思う。
きっと科学好きが増えるはず。
水俣病や放射能被害がなぜ起こるかもわかりやすく説明されている。レアアースのことも良くわかった。

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2014年04月15日

Posted by ブクログ

非常に興味深く、一気に読んでしまいました。
量子化学の箇所は難しくて一度では到底理解できなかったけれど、何度か読んだら、ちょっとずつ分かるようになってきた(ような気がする)。
筆者の言う通り、なんとも面白く、不思議で美しいと思える。

どの項も面白かったけれども、特に人体や毒の箇所が引き込まれました
亜鉛と水銀などは、同じ族のため間違って取り込まれやすい、など。
なるほど、なるほど、へー、と、唸らずには読めませんでした。
周期表って非常に面白い。こんなに面白いものだったとは。
高校生の時に、これを読んでいたら人生変わったかなあ?とも。

本書に書かれていることは、化学を学び、そして医学とどちらも専門的に深く学んだ筆者だからこその視点なのだろうなと思います。

私の拙い文章ではうまく伝えることは難しいですが、とにもかくにも非常に面白かった。
こんなに興奮する本に出会えたのは久しぶりです。

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2013年10月05日

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めちゃ面白い内容です。文章も大変読みやすく、量子化学から生物の仕組みまでをこんなに解りやすく解説できるなんて、今年のサントリー賞はこれで決まりかな。是非一読あれ。

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2013年04月29日

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化学を勉強していた私にとっては周期表は大変だった思い出もあり、
面白かったと懐かしく思えたり本当に身近に感じるのですが、
学校のテストでしか周期表を学ばなかった人にとっては、
暗記の思い出しか残ってないかもしれませんね。
小難しい話もまったくないとはいえませんが、
本当に”えっそうなってるの?えーそうだったんだ”と私たちの体や生活に身近に実は周期表が関係してた事を、変わった経歴の著者が分かりやすく教えてくれます。
理系の人も文系の人も、今学生で化学に苦戦してる人も、化学が大好きな人も、主婦の人にもお勧めです。難しそうって思わず読んで見てください。びっくりする程、周期表に引き込まれます。

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2013年02月27日

Posted by ブクログ

原発問題等に絡めて周期表を身近なものとして解説した本。
授業ではあまり出てこない遷移元素も多く扱っていて、これはどういう元素?と思っていたのが解決できる。
典型元素は縦、遷移元素は横に性質が似ているというのもすごくわかりやすい。
やはり発展の電子軌道の部分は理解するのに時間がかかるが、元素が周期を示す裏付けとして比較的わかりやすく解説されていると思う。
レベルとしては理系大学進学高校生程度。
高校の内容を取り戻す大学の一般教養程度。
社会人になってからも一読しておくべき一冊だと思う。

教員として、授業で使えるネタが詰まっている優秀な本だと思う。
これを読んでおけば周期表だけで数時間授業ができそうだ。

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2013年02月11日

Posted by ブクログ

これは良い本でした。著者はサンデージャポンなどでも有名な吉田たかよしさん。東大工学部の大学院で量子化学を研究後、NHKアナウンサーとして活躍、その後医学部に入り医師となるという異色の経歴の方。サンデージャポンの印象が軽そうであまり印象はよくなかったのですが、この方の本は良いです。頭のよさがよくわかります。

本書で著者は、周期表は多くの人が学校で習うものの、”量子化学を理解していない人が教える周期表の知識は、単なるセミの抜け殻である”と主張します。周期表はかなり深い意味、原理があるのにそれを知らないで丸暗記するからつまらないのだということでしょう。確かに本書で著者が語る周期表の世界はおもしろい。高校時代にこうした著作を読んでいたらもっと化学に興味を持てただろうな、と思いました。

本書で著者が随所で述べているのは、周期表で同じ縦の列にある元素は一番外側の電子の数が同じであるため性質が似ている。そのため、医学的観点からは体に必要な元素と同じ列にある元素は人体に害を及ぼしがちである。例えば、原発事故で有名になったストロンチウム。これは周期表では人体に不可欠なカルシウムの一個下。そのためカルシウムと間違えられ人体に取り込まれ、しかも骨まで届く。骨は骨髄で赤血球や白血球を作り出しているところであり、もうれつに細胞分裂をしている。細胞分裂しているときの細胞は遺伝子がむきだしになっている。このため放射性ストロンチウムが取り込まれると、DNAに害が及び白血病のリスクが非常に高まる、ということ。非常にわかりやすい説明でした。さすが化学研究者→医者の経歴を持った方ならではの説明、と思いました。

本書で一番印象的だったのは、天然の元素はほとんどは地球上では作られず、超新星爆発などによって作られた、ということ。要するに新しい元素を作るためには、1000万度を超える温度が必要であり、地球上ではそのようなことは起こらない。例えば陽子と陽子をくっつけようとすると、陽子と陽子は正の電化同士なので反発する。ただ一定以上のエネルギーでくっつければ核力が働きくっつくが、そのためには1000万度を超えるエネルギーが必要である。亜鉛やヨウ素などの鉄より思い元素を利用している私たちは、宇宙で繰り広げられた化学進化の歴史の上に成り立っている存在である。なんというか、我々人間は星から来た痕跡があるんだな、と、不思議な気持ちになりました。我々は星の子供、といってもよいかもしれません。

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2013年01月13日

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ネタバレ

面白い!宇宙が出来たときに由来するこの世界の元素の数々。それらの割合は、当然人間の身体の組成や必要とする元素の割合に近いものである。そう考えると万物は広大な宇宙からミクロの元素の世界まで一貫して繋がっているのだと気付く。元素表が持つ曼荼羅のような美しさ、理路整然とした構成の妙は、神の存在さえ感じられる。

科学は面白い。

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2012年12月02日

Posted by ブクログ

こういう本こそ、学生の頃に出会いたかったと思わせる内容で、読めば化学のことをもっと学ぼうとしたかも。

折を見て再読したい。

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2025年05月16日

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周期表の見方が変わった。
大きい視点で元素を把握できるようになった。
一度しか読んでいないが
何度か読めばしっかりとした教養になるような本だと思う。

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2024年12月23日

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「水平リーベー…」と周期表を語呂合わせで誦じた受験期のころを懐かしく思う。さて、受験戦争から解放された今、改めてフレッシュな気持ちで周期表と向き合うきっかけをくれた本であった。元素という側面からこの世のからくりを体系的に理解し、腑に落ちた瞬間に「なるほど!」という痛快の連続であった。今思えば、「水平リーベー…」よりは、「Hでリッチなねーちゃん…」の方が、周期表、ひいてはこの世の理解に大きく役立つのだと感じた。

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2024年10月22日

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【手に取ったきっかけ】
学生時代、電気化学寄りの材料科学分野を研究していた。
詳細な説明は省くが、求める性能を発揮する材料の候補を検討する際に、周期表を眺める時間が多かった。
周期表が便利なことは知っていたが、より詳細な解説はぜひ読んでみたいと感じたので、この本を手に取った。
東大で修士を取った後、NHKでアナウンサーを務め、その後医者になるという著者の珍しい経歴も興味を持った点の一つである。

【概要・感想】
量子化学を専攻し、医師免許も持つ著者が、周期表をあまり知らない人にもわかりやすくかみ砕いて周期表を解説してくれている。
まずは化学の側面から、元素は周期表上でなぜあのように並んでいるのか、縦の列(一般的には「1族、2族、・・・」という言い方をするが、著者は「グループ」という言い方をしている)、横の列にはどのような意味があるのか、
といったことを解説している。
この辺りは学生時代習ったことなので軽く読めた。
次に元素と人体の関係の解説へと進む。
例えば福岡原発事故の際に話題となったセシウムなどがなぜ人類の健康に影響があるとされているのか、どうしてアルコールを摂取すると眠くなるのか、高血圧の予防・治療に緑黄色野菜の摂取が推奨される理由はなんなのか、
といった人体にまつわる疑問は、周期表を用いて解答することができる。
化学をほとんど知らない人でも、周期表と照らし合わせながら読むことで、楽しく読める読み物だと感じた。

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2020年11月11日

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『元素周期表で世界はすべて読み解ける』というタイトルは言い過ぎかもしれないけれども、著者が言うように周期表はよくできているなと思う。つい先日、113番目の元素の発見が日本の理化学研究所のチームによるものと認定されてその命名権を獲得したというニュースがタイムリーに流れた。著者は本書の中で「ジャポニウム」が有力だと書いているが、果たしてどうなるのか。

久しぶりに周期律表を見たが、もはや”S”とか”B”とかって何だっけ、というほど忘れていた。「水平リーベ僕の船...」、もその続きが出てこない(そもそもリーベって誰だよ)。記憶って恐ろしいほど失われていくもんなんだな、と遠い目をしてみた。

最も外側の電子の数によって化学的性質が決まるので、縦の列で元素の性質が似ているくらいはわかっていたけど、鉄が最も原子核のエネルギーが安定している状態だとか、原子の数が偶数の方が安定しやすいだとかいう内容は初めて知った。Ca(カルシウム)やK(カリウム)に似ているために、それぞれ放射性のSr(ストロンチウム)やCs(セシウム)は誤って人体に取り込まれてしまうというのも福島以来聞いていたけれども改めて周期律表の中で確認できた。特に放射性Sr(ストロンチウム)が周期律表でひとつ上のCa(カルシウム)と生体内で区別されず骨に取り込まれることで、造血細胞が放射能にさらされ、白血病になる。
また、代謝にNa(ナトリウム)とK(カリウム)が使われるのは、それが比較的ありふれた元素であったからだと。生物はそのように環境に適応進化をしてきたという。他の元素が豊富にあれば、それに合わせて進化してきたはずだという。昔は海の中でNa(ナトリウム)が大量にあったが、陸上に上がってそれが不足しがちになるため、足りなくなるとすぐに体が塩分を求めるのはそういうことだそうだ。一方でK(カリウム)は元々海の中でも希少だったので、不足をしてもそれほど体がほしがらないとのこと。また、そういえば、先日聴講したIPMU/ELSIの講演で、廣瀬先生がP(リン)はほとんど周りにないが生命の必須元素で非常に重要と言われていた。リンを充分に得るためには岩石の風化作用が必要なので、現状の生命があるためには海と陸がある惑星である必要があったということだった。地球上の生物進化というのも化学的に面白いテーマだ。

元素の毒性の話や、レアアースの話も興味深い。重希土類の鉱床がまだ中国南部でしか発見されていないことと、軽希土類も中国の鉱床では表面近くにあるため安価に採掘できるという条件がそろったために、レアアースの分野で中国が市場を押さえていることも知ることができた。

著者は、灘高出身で、東大工学部/大学院で量子化学や分子細胞生物学を学び、東京大学新聞研究所(現・大学院情報学環)を終了、その間に経済学部のミクロ金融理論のゼミを取り、国家公務員試験にも合格。その上でNHKのアナウンサーとして就職。退職して北里大学医学部に入学して医師免許を取得し、東大大学院医学研究科で医学博士を取得という異色の経歴。どういうことでこういう経歴を歩むことになったのかにも興味がわく。

最後に著者から読者に送る言葉として、「周期律の本質は、科学が到達した曼荼羅である」と書いている。そういう少し大げさな部分を除けば、読みやすくてよかった。

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2020年05月10日

Posted by ブクログ

元素周期表...習った知識が日常の実例を織り交ぜながら、わかりやすい言葉で綴られている。へ〜と思った箇所多数。また読みたい。
それにしても宇宙とこの身体を構成する元素とこんなに近いなんて...

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2014年03月23日

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化学の周期表をただの表として嫌々眺めていた人間としては、その表が簡潔性があって美しいのか感動しました。難しいことも読者に分かりやすいように表現してあってとても面白かった。

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2014年03月02日

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筆者は、大学で化学を学んだあと、医者になったという異色の経歴の持ち主。この経験を生かして、元素が人間や宇宙とどのように関わっているのかを平易に解き明かしていく。特に人体との関係の描写は、筆者ならではの視点が多く、大変興味深い。

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2013年05月07日

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元素周期表がなぜああいう配置なのか、そして宇宙にどのぐらいあって、地球にどのぐらいあって、僕らの身体にどのぐらいあるのか。こういう風に教えれば周期表なんかすぐ覚えられるし、そもそも覚えたくなるよね。
地球にたくさん存在する元素は、人の身体にもたくさん存在している。なぜって、そこにあったものを使うから。鉄が適当に存在してたから、血がそれを使うようになったけど、コバルトだらけだったら、血はコバルトブルーだっただろう、って。
ものは連続性・関連性を持って考えると、とてもおもしろい。
元素周期表は科学が到達した曼荼羅である、と。

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2013年04月26日

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 元素の性質にはなぜ周期が現れるのか。主量子数,方位量子数,磁気量子数と電子の軌道の関係にも言及。量子化学の威力が伝わってくる。
 レアアースが遷移元素の中の遷移元素だ,という話は知らなかった。シュレーディンガー方程式を解いて出てくる軌道間のエネルギー準位の関係が,こういう性質を余すところなく説明してしまうのは,ほんとに見事と言うしかない。

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2013年04月05日

Posted by ブクログ

元素の分類や、起源、特徴、人間の身体との関係性が分かりやすく解説されていて、楽しく、さらっと読むことができた。
もともと元素記号に興味をもっていたのだが、この本を読むことでますます(もう少しだけ)深掘りしてみたくなった。ヘモグロビンの中央に鉄がいることの解説を読むと、化合物についてももう少し知ってみたくなった。

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2013年02月24日

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高校までに習う元素周期表の見方を一歩進め、さらに人体と元素の関係を丁寧に解説する。元素に対する興味がわく本。宇宙論との関係は希薄か。個人的には量子化学やその計算論にもっと踏み込んでほしかった。

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2012年12月11日

Posted by ブクログ

周期表は、先に進むほど陽子と電子が増えることと、縦に見ると最外殻の電子数が同じこと、それしか知らなかった。それだけじゃない周期表の仕組み、というか元素のことを知れた。

周期表で、人体がよく使う元素の下にある元素は、毒であることが多い。

言われてみればそりゃそうかと思えることだけど、改めて周期表を見れば、亜鉛の下にはカドミウムと水銀があり、四大公害のうち3つはこの関係で引き起こされたと気付かされる。

あらゆる元素は、非常に安定した鉄を目指して核融合/核分裂をするというのも初めて知った。
では、鉄より重い元素はいつどのよにして生まれ、地球に存在するようになったのか。
周期表から宇宙の成り立ちのロマンまで語れるとは。
というか、それがこの本の第1章だとは。

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2025年10月07日

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光文社新書らしい大げさなタイトル.

周期表の基本の解説や個々の元素の説明が主ではなくて,もう少し大きな視点で周期表の見方を教えてくれる本.原子の構造などを一から説明してあるわけではないので,高校で学ぶ程度の化学の知識は前提として書いてある.

著者は大学で量子化学を勉強した後で医者になったいう経歴の方.生体と周期表の関係を述べたところが他の本にはなく面白い.

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2014年04月02日

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ネタバレ

目の前にすごく便利な機器があったとしても、
それが洗練されたものであればあるほど使いこなすのは難しい。
いーいこーるえむしーにじょう
がすごくシンプルで力のある方程式だということはなんとなく理解できても、
使いこなすには他にもいろんな知識が必要だ。
元素周期表も同じ、すごくシンプルで力のあるものだけれど、
それがどういうものなのかを知らなければ
あなたの人生で周期表はただの試験対策暗記物で終わる。

本書は元素周期表のひとつの説明書だ。
宇宙に、人体に、時事問題、いろんな角度からこれを解説してくれる。

旅にでるために、人は地図を広げる。
このとき地図は人にとってただの平面図だ。
旅を終えると、地図から景色がみえる、人がみえる、時間がみえる。
本を旅する、とは使い古された表現だが、
読んだことで周期表がただの平面図に見えなくなることだけは保証できる。

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2013年08月02日

Posted by ブクログ

周期表本(?)は、「元素には似た性質のものが周期的に現れます」とか、あるいは「元素の性質は最外縁の電子の個数によって決まるのです」なんて話から始まるものが多い。

始まるのはまあ当たり前なんだけど、たいていの本はそこで終わりになってしまう。「最外殻の電子がこちらも1個です。だから似てます!」。だから似てたらなんなんだよ、そんな風に思う人も多いはず。そんな風に思ったことのある人は、ぜひ本書を読んでみると良いと思う。

全体的に行って「痒いところに手が届く」とはいかないものの、他の「周期表本」とはかなり趣が異なる。他の周期表本は「どれを読んでも同じ」感じがあるけれど、それらと「ちょっと違う」のが本書。

楽しめることは間違いないと思う。

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2013年02月03日

Posted by ブクログ

宇宙(太陽系)での存在比率と地球における埋蔵量の多寡を混同しない方がいい。
周期表猛プッシュの説明は面白いが、元素ごとの話題が物足りない。しかも人体に関するものばかりなので、これなら例えばじっぴコンパクトの『いまだから知りたい元素と周期表の世界』なんかのほうがより使える。まぁ本書は元素本とはちょっと違うので仕方ないか。

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2012年12月04日

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