あらすじ
宝暦八年、獄門を申し渡された講釈師・馬場文耕。長屋暮らしの文耕は、かつてなぜ刀を捨て、そして獄門に処されることになったのか? 謎に包まれた実在の人物、文耕の生涯を端正な文章と魅力的な登場人物で描き出す。沢木耕太郎、初にして堂々たる時代小説!
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Posted by ブクログ
沢木耕太郎初の時代小説。
なぜ自分はこの人物を主人公に時代小説を書こうと思ったか、が初めに語られる。
「長い日本の芸能史において、ただひとりだけ芸によって死刑に処せられることになった芸人」講釈師、馬場文耕が主人公。
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宝暦8年、日本の芸能史において、ただ一人だけ芸によって死刑に処せられた講釈師・馬場文耕の生き様を小説にした著者初の長編時代劇。
貧乏長屋に住み、筆耕もしながら太平記など軍記物の講釈をしていた文耕は、次第に武家物、色街の女や御店者が出てくる江戸市井の話で人気を博していく。
さらに、お家騒動の実話や将軍・徳川家重の話までするようになり、大胆さを増していく。
若い頃、一緒に道場通いをしていた田沼意次との再会、文耕と同じ長屋に住む謎の若い剣豪、貸本屋の娘で吉原に売られるお六、粋な御店衆などとの人情味あふれる交流が読ませどころだ。
主な登場人物は、皆、文耕の欲のない人柄に惚れ込み、文耕を助けようとする。
文耕は、剣の達人でありながら、剣を捨て、人の道を重んじるキャラ。
最後には、命をかけて弱者を救おうとする。
ストーリーは、庶民感覚に訴えるもので、スリルあふれる場面もあり、分かりやすい。加えて、文耕が語る数々の講釈話がそれぞれ面白い。
一粒で、十も美味しい、そんな小説である。
Posted by ブクログ
はて、どこまで本当なのか、それとも騙りなのか。
世話物を地で行く市井の描写。友情、朋輩、師弟の関係。さらには手に汗握る剣豪シーンなども交え、最後は政談物へと流れ込んでいく。
盛り上がってきたところで横道にそれて説明をはじめたり、どこか俯瞰した描写をしてみたり、沢木耕太郎の語り口はまさに講談そのものへの敬意に感じる。終わり方も講談的。
この小説は是非、現役の講釈師が連続読みの噺に仕立てて欲しい。
講釈師が講釈師を語り(「東玉と伯圓」のように)、さらにその中で講釈をする。
一気読みの快作。
それにしても文耕先生モテすぎでしょう、というところだけ気になったけど、こんなこともまぁ、あったとか、なかったとか。
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ノンフィクション作家と言いながらも、このように大作の歴史小説を書かれるとは…。
僅かな資料しか残っていない馬場文耕という講釈師を、これほど人間味溢れた血肉の付いた人物描写で読ませてくれた。
文耕の講釈が封建時代の理不尽な事件に切り込んでいく困難さと、武士社会への気骨ある反駁に読み手の気持ちは同調していく。
小説最後の件に僅かな安堵を覚えたのは、沢木耕太郎氏の温情だろうか…。
読みでのある556ページだった。
Posted by ブクログ
本の売り上げランキングには入っていないが、間違いなく読む価値のある本。主人公の文耕は歴史に埋もれてしまった人物であるが、男性にも女性にもモテる魅力的な人物。どういう経緯で獄門という重罪を負うことになるのか、辿っていくスリル。いつの間にか主人公の生き方に共感している自分。筆者の代表作になりうる大作である。
Posted by ブクログ
沢木耕太郎さんの、初の時代小説ということで
読んでみる。この分厚さ‥読めるだろうかと、
内心思ったが、読み始めると意外なほどにこの小説にすんなりと入り込め、一気に読み終えた。
獄門を申し渡された講釈師・馬場文耕は長い
日本の芸能史において、ただひとりだけ
芸によって死刑に処せられることになった芸人。
彼は今でいう、ジャーナリスト。
彼が書いていたものは、主として江戸に生きる
人々についての「町のうわさ」時には、
時の最高権力者である、九代将軍家重に
ついてさえ、過激な噂話を書いたらしい。
当時は御法度である、幕府が隠そうとする真実を、講談によって世間に広めることは今の報道機関と
同じ役割。命を懸けてこの役目を担った結果、
幕府に目をつけられ、不相応な罪状、獄門の刑に
処せられた。
剣を捨てた元武士、馬場文耕という一人の人間に
惹かれて集う人々の中には、彼の旧知の仲でもある田沼意次や、平賀源内など、今、大河ドラマの
「べらぼう」を思い出させる人物も登場。
この馬場文耕、実は殆ど資料が残っていない。
そんな人物を、かくも魅力的な人物として書いた
沢木さんの筆力は凄い。
Posted by ブクログ
沢木耕太郎さんが時代小説をと思ったが
事実を調べ、それに沿った想像を書いた内容に感服しました。
ちょっと私には読みづらかった。
家内は3日で読破していたが、頭の差かなと思う。
Posted by ブクログ
江戸の中期に活躍した講釈師、馬場文耕の話。面白かったです。
この本を読んで、馬場文耕その人と、重なる時代に登場した田沼意次等の有名人物、そして、現在の日本橋や吉原の地理を知ることができました。講釈師、今では、講談師とよばれる職が当時に存在し、百姓、租税を巡る社会問題に由来して、従来の講釈師のスタイルから徐々に変容していく様が描かれています。
馬場文耕の実際のキャラクターは当然わからず、田沼意次においてはこれまで持ったイメージとかなり異なる人物でしたが、文中の言葉を引用すると、これこそ文耕のスタイルを踏襲した拵えものだと捉えられます。
義理や人情があちこちに現れて、時代劇の映画を見ているような面白さでした。
Posted by ブクログ
良かった!今年1番の読み物だった。はじめは、単なる馬場文耕の伝記物て思っていたが、剣劇あり、剣道修行あり、百姓一揆ありでと、結構ハラハラシーンもあった。馬場文耕は強き者を挫き、弱き者を扶けるヒーローだったのだ。
Posted by ブクログ
【宝暦八年、日本の芸能史においてただ一人、死刑に処せられた人物、その名は馬場文耕。かつての士分を捨て、貧乏長屋に住まい、軍記物を講釈し― その生涯のほとんどが謎に包まれた男を、豪胆な想像力と端正な文章で、誰をも魅了する主人公として鮮やかに描き出す】・・・帯説明より
とあるように江戸中期に実在した講釈師、馬場文耕の話だ。
今も講談はひそかなブームだが、その昔、娯楽の少なかった江戸時代でも多くの人たちを楽しませたようだ。
はじめは古くからある軍記物を語っていた分耕だが、人に頼まれたりやむなき事情で、廓の話や、市井の人々の話をたまにすると、人々の食いつきの違いに気づく。
そして聞き手にとって、身近に感じる話や、知らない世界を垣間見る話は、大いに興味を引き起こし、大人気となる。
あちこちで耳に入る話や、知り合いによって持ち込まれる話を、やがて文耕自らまとめて本にし、それを講談にかけたりする。
幕府の内々の話も庶民にとっては興味をそそれれるもので、そういう方面にも手を広げ始め、関係者からの警告も度々。
ある時、郡上の農民の年貢の取立の件に係ることとなり、直訴に出向いた農民をかくまったり、ことのあらましをまとめ上げ、講談でも語る。ことが発端となり・・・
文耕について少し
幼少期や家族についての記述はないが、ある時江戸を出て四国の阿波で剣の修行を積み、達人と言われるほどの腕前となるが、ある時、手合わせした相手を死なせてしまい、剣を捨て江戸に戻り講談師となる。
年恰好もあいまい、貧乏でぶっきらぼう、でも女性にもてる。文耕は誰も受け入れないが。
「今の世の真(まこと)は古の書の中にはございません」
「真は巷にございます」
文耕が捕らえられ調べを受けた時の一節。
巷にある真を見出し、掴み取り、語ることが役割だったのだと、気づく文耕。
申し開きすることなく、最後まで潔かった。
最後の最後にちょっと仕掛けがあって、読後にふふっとほくそ笑むのであります。