あらすじ
ペリー来航から王政復古までの過程は、志士や雄藩大名たちの「成功物語」として語られる。だが、こうした英雄史観は、明治政府が自らを正当化するために創り上げたものだ。
勤王をめぐる志士の分裂、戊辰戦争での幕府への協力、藩への強い思慕など、各地で様々な歴史があった。
本書は、周防大島、飯能、秋田大館、佐倉など明治維新を記憶に刻む地域を追い、時の政治や地域社会の影響を受け、書き替えられてきた物語の軌跡を描く。
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明治維新で王政復古を成し遂げた新政府に対して、いかに
勤皇として貢献したかをアピールする必要があった。
笠間藩の勤皇の志士「加藤桜老」の発掘、山口県周防大島での幕長戦争での島民の活躍、飯能市における振武軍への協力と天皇の物語への塗り替え、秋田県大館市の奥羽越列藩との戦いを通した佐竹家の勤皇、中田太郎蔵の英雄化、幕臣、佐倉藩主堀田家の開国功労者に込めた意図。
住民の世代交代と意識の変革から、歴史は書き替えられていく。
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明治維新そのもの、そこから続く時代の暴力性、搾取性、膨張性は無視され、都合のいいように利用されてきた。これからは自らを正当化するための理由作りを語るのではなく、平和を目指した反省のために語られることを望む。
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明治維新では、長州や薩摩といったメインストリームの物語が数多く出回っているが、もちろん日本各地でその大変革に翻弄された小さな物語が存在する。そしてそれらは日本社会が変遷していくなかで役割を変え、その記憶をも改ざんされてきた経緯がある。
この本では笠間、周防大島、飯能、大館、佐倉といった維新の辺縁部に置かれた地域の郷土史を紐解き、そこでの官軍・幕軍に属した人々の扱いについて検証している。早くから官軍側に与した人物は志士として顕彰される一方で、幕軍の側で抵抗した人物は忠義や勤王といった文脈に置き換えられる。
とくに明治維新100年の1968年前後や150年の2018年前後にはこの再評価が盛り上がりを見せている。1968年は司馬遼太郎の『竜馬がゆく』が大河ドラマ化され、この司馬史観とも呼ばれる薩長土の志士たちを英雄視する流れが生まれ、2018年にはこの郷土の英雄たちを地域資源として観光に活かす取り組みが進められた。
当時としてはクーデターであり、個々人の行動はテロリズムと呼ばれる場合もある。そこに物語が付与され、本人も思ってもみないような意味づけがされていく。歴史とはかくように形成されていく。
Posted by ブクログ
明治維新そのものを説明するのではなく、地域に残った明治維新へ対応した人を顕彰することで、地方で語り継がれる、ということを説明した本である。
笠間、周防大島、飯能、大館につづいて、佐倉藩の堀田家についてこれを中心として、明治の記憶として住民に語り継がれるような記録を説明している。
今までにこうした明治維新に関するところは数限りなくあるので、地方史の収集にもとづく著作が増えるであろう。
学生の地元についての愛着が呼び起こせられるであろうか?
Posted by ブクログ
【目次】
序章 明治維新の「記憶」の正体を求めて
第1章 笠間の「志士」たちーー記憶/忘却される者
第2章 四境の役と周防大島ーー讃えられる功績
第3章 飯能戦争ーー塗り替えられる記憶
第4章 秋田大館の戊辰戦争ーー中田家の記録
第5章 旧佐倉藩主堀田家と「開国」ーー創られる記憶
おわりに 書き替えられつづける地域の明治維新