あらすじ
夏祭りの夜に起きた大殺戮。悲鳴と嗚咽に包まれた町を後にして、選ばれし者は目的の地へと急ぐ。それが何よりも残酷であろうとも、真実に近付くために。流血で塗り固められた大地の上でもなお、人類は生き抜かなければならない。構想30年、想像力の限りを尽くして描かれた五感と魂を揺さぶる記念碑的大傑作! PLAYBOYミステリー大賞2008年 第1位、ベストSF2008(国内篇) (講談社文庫)
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「人間とは、いったい何なのか」という問いを徹底的に突きつける、名作SFファンタジー!
舞台は、1000年後の遠未来・日本。人間は、呪力と呼ばれる念動力を持ち、バケネズミという異類に”神様”として崇められていた。主人公・渡辺早季(わたなべさき)は、自然豊かな神栖(かみす)66町でのびやかに育った少女。全人学級と呼ばれる学校で念動力を磨く彼女は、ある日、友達とともにこの世界に隠された「ある秘密」を知ってしまう。それは、先史文明(つまり過去の日本)が、1000年間のうちにたどった血塗られた歴史だった……。
誰にでも、空を飛べたら、と夢想したことがあるだろう。空を飛べるようになったら、歩かなくていいし、電車運賃を払わなくても遠くに行ける。でも、実際にそんな力を手にした「特別な人間」が生まれたとき、人間社会がどうなってしまうのか、ということまで考えた人はあまりいないのではないか。
病的に美しいディストピアとなった日本。ある日突然消えてしまう子供たち。謎に覆われた生まれ故郷。人間と異類……。その謎が解き明かされるとき、読者はいつのまにか最後まで読み進めてしまうだろう。
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Posted by ブクログ
確かに「新世界より」って話だった。
今の文明が滅んだのちのユートピア風ディストピアで設定も雰囲気もすごく良かった。
超能力を持っても人は平和に暮らすことができないんだなと、人が人であることを辞めないと、戦争やら差別は無くならないんだなと思った。
被差別階級とパワーエリートの差は遺伝的差異と生殖隔離によって完成した。
残念ながら、こうなってしまっては化けネズミにクーデターのチャンスはないね。
Posted by ブクログ
設定とかすごいし心理描写も巧みだしストーリーも惹き込まれてすごく面白いけど、人間本意の価値観みたいなものが根底に感じられてなんとも気持ち悪い。なんか薄っぺらいというか所詮エンタメ小説じゃんと思っていた。でも面白い。読むのが止まらなくなりながらも「この作者嫌い」と思って読み進んでいたら、人間本意の価値観を根底に感じていたこと自体作者の仕掛けだったっぽい、たぶん、てことが最後にわかった。
もしかしたら作者の趣味とか遊びの範疇なのかも知れずそんな大それたテーマではないかも知れないけど「これでいいのか人間」って問う意図だったのかもしれないということが読み終わってから感じられて、一杯食わされたというか、凄いなこの小説、と正直に思った。
読みながら、自分だったらそんなことするか⁉︎みたいなことが結構あって、さらに読み終わって解説も読んでこの小説が書かれた経緯とかを知ってなるほどと思ったりして、自分や作者との対話が実感できて面白かった。
上巻の文庫の背表紙の概説からはまったく想像できない体験だった。
Posted by ブクログ
「この時の私たちはまだ知らなかった」みたいなフレーズが多くてゾクゾクした。でもあまりにも多すぎて伏線何が張ってあったか忘れちゃう。
最後にバケネズミが呪力のない元人間だとかわかった時は鳥肌がたった。悪鬼がまりあの子供だったことにも驚く。驚くことがたくさんあって全く飽きない3巻だった。
今よりも未来の話かと思っていたがどっちなんだろうか。
瞬死なないで欲しかった。あまりにも人が死にすぎてるけど、それが戦争なんだと思うと辛い。
Posted by ブクログ
上中下まとめての感想。
序盤は設定の説明だから正直退屈。
ただ夏季キャンプから一気に物語が進んでいきどんどん引き込まれていく。特にミノシロモドキとの出会いからが面白い。一見牧歌的で平和な世界だけどそこに潜む闇の部分が徐々に明らかになっていく感じがたまらない。一気読み必至の面白さ。
土蜘蛛からの逃避行、スクィーラとの邂逅など夏季キャンプは見どころたくさん。
その後は瞬の業魔化、真理亜と守の離脱など主要キャラが次々と離脱して驚いた。瞬の告白のシーンは震えた。
そして時間が飛んで早季と覚が大人になってからの話。どんな展開になるんだろって思ってたらまさかのバケネズミ達との戦争。悪いやつじゃないけどなんかウザいくらいに思ってたスクィーラがめちゃくちゃ怖かった。用意周到で頭脳明晰。油断し切っていた人間を見事に出し抜く手腕が凄すぎた。そこに悪鬼の出現で絶望感が凄かった。ハンターハンター のキメラアント編を思い出すような感じだった。
そして東京への遠征。ここは終盤なのもあってトップクラスにワクワクしたしドキドキした。続きが読むのが怖いけどページを捲る手が止まらない。そしてとにかく奇狼丸が頼もしくてカッコよかった。影のMVPは奇狼丸。
そしてエピローグ。
バケネズミの正体がわかった時は鳥肌立った。そんな恐ろしい真実が隠れていたのかって唖然とした。
スクィーラが完全な悪じゃないから超スッキリとはならない結末。
正直全然書ききれないくらい面白いシーンが多かった。世界観にドップリ浸れて最高だった。
関係ないけど橋本・アッペルバウム症候群の語感が好きすぎる。
Posted by ブクログ
バケネズミの逆襲。上巻で出てきた時はこの世界を形作る生態系のただの1部かと思っていたけれど、こんなに大きな存在になるとは。しかも、呪力を持たない人間の成れの果てであるという真実がとても悲劇的。
下巻は冒険色強めで絶望的な状況にハラハラドキドキ。かつ残酷度も高めでどんどん人が死んでいく。主人公の頭の弱さに多少イラっとするものの、その精神力の強さと運の良さには確かに目を見張るものがある。反面奇狼丸はとてもカッコよかった。
凄く面白かった!途中でやめられず、最後まで夢中で読んでしまいました。苦手なところもありましたが、それを凌駕する面白さでした。
バケネズミの正体だけは、夏季キャンプでミノシロモドキとの会話中にピンと来ましたが、他にも再読すると「このことを言ってたのか!」と思う箇所がたくさんありました。
終盤では、スクィーラと奇狼丸の強い意志に圧倒されました。そして最後、早季がスクィーラに語りかける場面が切なかったです。
Posted by ブクログ
1000年後の世界、種の存続、戦争、共存と淘汰をテーマにした化けネズミとの争い。何年経っても結局は争いは必然的なことで、それが形を変えて繰り返される。
そもそも種の繁栄や存続を求める本能に従うことに意味があるのだろうか。求めていないが淘汰される恐ろしさからの防衛が他者から見ると制圧に見える。少しの種ごとの違いがやがて大きな歪みになり、世界の大きな流れに誰もが逆らえないことを思い知らされる。
現代から1000年後の世界観が個性的に構成されている上に、あり得る1000年後だなと感じさせるくらいの種の存続の原理原則に適った設定で壮大な作品だった。
Posted by ブクログ
物語は、守と真理亜が“2人で生きていく”という手紙を残して姿を消してから、十数年後から始まる。
早季と覚は大人になり、それぞれ役所で働いていた。表面上は平和な社会――だが、バケネズミたちの世界では、静かに反乱の兆しが広がっていた。
スクィーラは、これまで絶対的な支配者だった“女王”にロボトミー手術を施し、支配構造そのものを覆した。これに反対するオオスズメバチコロニーのキロウマルは、最初こそ人間の味方として戦うが、次第に戦いの中で信念を削られていく。
そして、バケネズミ同士の戦争は一気に拡大。圧倒的な力を持つはずのスズメバチコロニーは壊滅し、スクィーラたちはついに“人間への反逆”を始めた。
その中心にいたのは――かつて早季たちの仲間だった、守と真理亜の子ども。
“悪鬼”として育てられたその子は、無自覚に呪力を暴走させ、人間の街を次々と焼き尽くす。
人間たちは総力をあげて抵抗するが、ほとんどが惨殺され、社会は崩壊寸前に。
早季と覚は“切り札”を求めて東京へ向かうが、それすらも通じず、最終的にはキロウマルの自己犠牲によって、“悪鬼”に自滅のトリガーを与えることで決着を迎える。
戦いののち、スクィーラは捕らえられ、処刑される。
だが、そこで明かされる真実――バケネズミは、人間が呪力を持たない者たちを改造して作った種族だった。
支配する者と支配される者。その境界は、もともと同じ“人間”だった。
早季はその事実に打ちのめされながらも、「それでも生きていくしかない」と静かに受け入れる。
物語は、長い人間の歴史の“ひとつの円環”として幕を閉じる。
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感想文
上巻から感じていた「理想の世界の裏にある違和感」。それがすべて繋がった下巻だった。
人間とバケネズミの関係が、実は“同じ種”から生まれていたという事実には本当に衝撃を受けた。
スクィーラがやってきたことは、確かに人間から見れば反逆であり、残虐な行為かもしれない。
けれど、バケネズミの視点で見れば、それは“自由を求めた革命”だったのかもしれない。
どちらも正義で、どちらも間違っている――その曖昧さこそが、この作品の本質だと思う。
特に印象に残ったのは、キロウマルの最期。
理性と忠誠の象徴のような存在だった彼が、最後に自らの命を賭けて人間を救う姿には胸を打たれた。
そして、早季が世界の残酷さを受け入れながらも、希望を捨てずに未来へ歩き出すラストがとても印象的だった。
『新世界より』というタイトルが、最後になってようやく腑に落ちた。
この物語は、“旧世界の罪”と“新しい人間の形”の物語なんだと思う。
Posted by ブクログ
⭐︎3.9
夏祭りの夜、野狐丸(スクィーラ)率いるバケネズミの逆襲から始まり、悪鬼(と思われた赤髪の少年)の大殺戮……。手に汗握る展開で、主人公達と共に恐怖に慄き、どっぷりと物語に浸かることができた。
SFが苦手な私でもあっという間の上下巻1200ページだった気がする。SF・ホラー・ミステリー・恋愛などなど色んなジャンルが楽しめて、現実とはかけ離れた非日常の世界観に没入できて、楽しかった!